第11話 体力の限界

モチベーションの上がっていたはずの僕たちは、すっかり黙りこくって一歩づつ慎重に歩みを進めていた。足元を転がり落ちていく小石がカラカラと谷底までいつまでも音を立てていくのを、ゾクゾクしながら聞いているんだ。


「…なぁ、本当にこの道で合ってるのか?」


聞いてはいけない事を、やっぱり空気の読めないケルビンが言ってしまった。



僕の前を行くテディが慎重に足を進めながら言った。


「合ってる。…たぶん。シュミレーションではこの行程が一番時間が掛からないんだ。」


僕はため息をついた。それって、だいぶヤバい道を選択するって事と同じだよねぇ。でも今更引き返すにはもうだいぶ来てしまった。僕は上を見上げた。少し登ればもう少し広いスペースのエリアがありそうだった。



「ねぇ、この上に開けた場所が有りそうなんだけど、そこに登って一回休憩がてら作戦練り直さない?」


僕の提案に、三人が同時に上を見上げた。足元の細い崖っぷちを歩き続けて落ちるよりは、登って一度仕切り直しした方がマシに思えたんだろう。一番僕の場所が足場的に登りやすそうだったので、三人に見せるように慎重に登って見せた。


三人が見守っている中、僕は故郷のヨーデルで良くやった崖登りを披露した。足や手を掛ける場所は結構あったので、多分慣れてない獣人でも大丈夫そうだった。



僕は緊張と興奮の何とも言えない気分で登り切った。目の前にはテントも張れそうな広いスペースがぽっかり空いていて、その奥にも奥行きがあった。


僕は近くの岩にロープを固定すると下にいるメンバーのために慎重に下した。そして、まずはテディからロープを命綱にしながら登るように指示をした。



慎重に息を切らしながら登ってきたテディは、到着するとヘナヘナと膝をついた。随分緊張していたみたいだ。流石に狐族には崖登りは怖かったみたいだ。


「さすがだね、パトリック。ロープがあって助かったよ。」


僕とテディが話をしている間に、ほとんどロープに頼らないでスルスルと登ってきたケルビンに目を丸くしながら、テディに尋ねた。



「ねぇ、熊族って崖は得意だっけ?」


するとケルビンが眉を顰めて崖下を覗き込みながら言った。


「あいつは熊族だけどベリット家だからなぁ。掘るのは得意だろうが、登るのはどうかな。というか体重が重すぎだろ。」


僕は肩をすくめてケルビンにロープを渡しながら、にっこり笑って言った。


「僕がケルビンをミッキーより先に登らせたのは、勿論理由があるんだよ。さぁ、引っ張り上げてあげて?」



マジかとぶつぶつ言いながらも、ケルビンはロープを投げ下ろすとミッキーに的確に指示を出しながら、グッと引き上げていった。でも流石にミッキーが僕らの前に上半身を見せる頃には、ケルビンもまた、大粒の汗を滴り落としていた。


「ケルビン、ありがとう。さぁちょっと休憩したら作戦の練り直しだ。」


そう言って僕はにっこり笑った。何だか三人の視線が死んでるんだけど、僕、優勝は諦めてないからね?


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