第8話 演習前夜

僕の寮室の扉がノックされた。僕は演習の荷造りをしていた手を止めて顔を上げた。


「俺だ。バートだ。」


僕はバートが夜に遊びに来るのは珍しくないけれど、荷造りはもう終わったのかなと思いながら扉の鍵を開けた。目の前のバートは手に何かを持っていた。



「どうぞ、入って。僕まだ荷造りが終わってなくって。雨除けのポンチョ入れた?天気予報は晴れだったけど、やっぱり入れなきゃだめかな?」


そう言いながら荷造りの続きをしていると、バートが何も言わずに僕の側に来て、突っ立っている。僕は顔を上げてバートを見た。


「えーと。何か話でもあった?」



するとバートは僕に手を差し出して、ブレスレットの様なモノを見せて言った。


「パトリック、念のためこれ付けておいて。あいつと同じチームになるなら、このくらい用心した方がいい。」


僕はバートの手のひらから、複雑に金属が編み込まれている、金色と黒の美しいブレスレットを持ち上げた。


「これ?これを付ければいいの?ふーん。でも凄い綺麗でカッコいい。いいの?貰っちゃって。」


するとバートは頷いて少し言いにくそうに言った。



「本当はパトリックの誕生日にあげようと思って、夏休みに用意しておいたんだ。でも、演習でケルビンと同じチームになるのはヤバいからな。


それを身につけておけば、あの犬野郎も必要以上にパトリックに近づかないはずだ。」


そう言って僕の指先からブレスレットを受け取ると、僕の左手首にそれをしっかりと結んで魔法陣でロックした。


僕は思わず目を見開いて尋ねた。



「随分物々しいんだね。それってどんな効能があるわけ?」


僕は手首に嵌まった、美しいブレスレットを回して尋ねた。バートはやっぱり言いにくそうに僕から視線を逸らして言った。


「とにかく、犬野郎が嫌な気分になる効果があるんだ。必要以上にパトリックには近づけなくなる。」


僕はそんなブレスレットは初めて聞いたので、世の中にはまだ知らないことがいっぱいだなと感心しながら、手首を飾るブレスレットを灯りにかざして見つめた。



「へぇ、便利だね。ありがとうバート。僕もちょっとケルビンと一緒なのは気が重かったんだ。このブレスレットって、見た目より随分軽いんだね。しかも何かいい匂いするし。


誕生日か。そう言えば僕もう直ぐ16歳になるんだっけ。すっかり忘れてたよ。ふふ。その前にバートの17歳の誕生日もお祝いしなきゃね。でもバートが居るならって両親も15歳での飛び級入学を許してくれたから、バートには感謝してるんだ。


でもそもそも訓練所が16歳からって酷くない?」



僕がそう口を尖らすと、バートはクスッと笑って僕の頭を撫でて言った。


「そうは言っても、飛び級できるパトリックが凄いと思うけど。嬉しいよ、一緒にこうやって訓練所に来れて。そうじゃなきゃ色々心配だっただろうからな?」


僕はまたお兄さんぶっているバートを睨みつけながら、頭の上の手を叩き落とした。もう!それやられるとへにゃってなっちゃうから嫌なのに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る