第6話 大人の思惑、子供の努力

「カレッタ嬢か……エリーゼはなんと?」


「戸惑いながらもニコニコと剣を振っておりましたから」


「なるほど。どうじゃ?カラル」


「ワシはルーシェの思いを知っておりました。もしエリーゼ嬢が来ていただけるならこんなに嬉しい事はない」


「ハイリの娘だから手元に置きたかったけれど……ローラの娘も可愛いのよね」


 はあ、とため息をついたのは王妃であり、この場に集まっているのは王と王妃、そしてセルジオ・カタリナ公爵とカラル・アドラス辺境伯の4人だ。そしてハイリとはセルジオの最初の妻であり、エリーゼの生母の名前である。


「おかしな話じゃ。誰も反対が出ないとは……」


「最初から#こう__・__#すべきことだったのやもしれません」


「ハイリは泣くかもしれませんね。可愛い娘が辺境に行ってしまうとなると」


「聖女ローラが慰めてくれましょう」


「ハハ……あの当時はローラに悪い事をしたと思ったが、あのままではセルジオが死んでしまうと思ったからのう」


「当時の事はお忘れください!陛下!」


 突然妻を失い、一人残されたエリーゼをもかえり見ず、ただ死んでいきそうだったセルジオの為に国王は一芝居打ったのだ。ローラがセルジオの事をしたっていると知っていたので彼女をセルジオの元に送り込んだ。


「しっかりしてください!セルジオ様!エリーゼ様のお父様は貴方しかいないのですよ!」


「……」


 弱っていたセルジオを癒し、叱咤し……ローラはカタリナ家を救った。そしてついでに後妻の座に収まった。ああ見えてローラを妻に、正妻に迎えたがった貴族は多かったし、教会もローラを離したがらなかった。だから「断罪された悪女」のレッテルを張りつけたのだが……上手く行ったのだ。



「ではそのように」


「は」


 そして大人達は黙らせなければならない、利権を狙う貴族達を牽制する準備を始める。


「あと有能な家庭教師もね」


「はは、全くですね」




「ぶええっくしょーぉおおい!」


「やめなさい、カレッタ!それが淑女のくしゃみですか!?」


「でもお母様なんだか背筋が寒くって……」


「あら?風邪かしら?毎日勉強頑張ってるから……」


 ローラがハテ?と首を傾げるも、カレッタはペンを持つ手に力を入れる。


「こんなのまだまだですわよ!やりますわーーーおかあさまーーーー!倍速の術を下さいませ!」


「そういえばエリーゼ様も最近剣を始められたとか。御手にオマメが出来ていましたから治して差し上げましたが……」


 カレッタに魔法をかけながらローラは庭で剣を振るエリーゼを思い出す。


「あら?そうなんですの?適度の運動は美容にもいいらしいですし。あ、お母様はお休みください。お腹の赤ちゃんに寝不足は厳禁ですわ」


「あら。そうねえ……じゃあお先に。カレッタ、頑張ってね」


「はいっ!」


 平均睡眠時間が3時間でもカレッタは頑張っていた。

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