元カノの姉と付き合っているんだけど、相性抜群で毎日が楽しい
ヨルノソラ/朝陽千早
一章
第1話 彼女と別れた。元カノの姉と会った。
「あたし達、別れよ」
一年半交際を続けてきた俺の恋人──
夕暮れ時。
カラスの鳴く声が耳の中に入ってくる。
だが、そんなのが気にならない程度には、俺の頭は真っ白だった。
「な、なんで、急に……。冗談、だよな?」
「冗談じゃないよ。本気」
「他に好きな人ができた、とか?」
「んーん、できてない」
「だったら!」
「最近、
唯香は視線を落とすと、疲れたように胸の内を打ち明ける。
ここ最近、唯香とは少し距離ができていた。
ただの倦怠期だと思っていたが、単純に俺から気持ちが離れていたらしい。
ズキッと胸が痛む。
唯香の気持ちの変化に気が付かなかった俺が、情けなくて、苦しくて、なによりそんな自分に苛立ってしまう。
「や、やり直せないかな? 俺、もう一回、唯香に好きになってもらえるよう──」
「ごめん、無理」
「す、少しくらいチャンスくれても!」
「ちょっとしつこいよ、拓人」
唯香は顎の下を指で掻きながら、胡乱な眼差しを向けてきた。
俺は声を堰き止め、黙り込んでしまう。
「これまであんがと。これからは友達としてよろしくね」
「待っ……いや、うん。わかった……」
唯香の意志が固いのは、理解できた。
踵を返し、帰路に就く唯香。
俺にはその後ろを追うことはできなかった。
★
「……はぁ」
少し時は流れ。
俺は公園のブランコに座り込んでいた。
近所の小さい公園なので、ちびっ子も見当たらない。
まぁ、誰もいないスポットだから選んだのだけど。
「なにが、悪かったのかな……」
誰にともなく呟き、自分の行動を振り返ってみる。
変化がなかったことがいけないのかな。
もっと、色々サプライズとかした方がよかったんだろうか。
一人でうだうだと考え込む。
ダメだ、これ。どんどん気持ちが沈んでいってしまう。
これ以上ないくらい猫背になりながら、落ち込む俺。
そのまましばらく同じ体勢を維持していると、不意に目の前に影が差し込んだ。
「ね、ねぇ、ちょっと大丈夫?」
「へ?」
顔を上げる。
途端、俺の細胞は起き上がり、心拍が上昇していく。
「ど、どーも。
月瀬里奈。
俺の彼女……じゃなくて、元カノの姉である。
うっすらと赤みがかったミディアムボブ。
手のひらに収まりそうなくらい顔は小さくて、シミひとつ見当たらない。
パッチリ二重に、影が落ちるほど長いまつ毛。芸能人かと見間違うほど美人だ。
歳は二個上で、現在高校三年生。
「えっと、どうしたんですか? 部活帰りですか?」
「ううん。普通にバイト帰りだよ」
「そうですか。お疲れ様です」
「あんがと。で、なにか悩み事でもあるの? 物凄い落ち込んでるように見えたけど」
小首を傾げて、瞳の奥を覗き込んでくる里奈さん。
嘘は、通じる雰囲気じゃないな……。
隠しても仕方ない。
唯香に振られた件を話そう。
「──という感じで、いきなり別れを告げられてしまって」
「そっか。それはメンタルにくるね」
「はい……」
「でも、ふーん……唯香、拓人くんのこと振っちゃうんだ……」
里奈さんは隣のブランコをゆらゆらと小さく漕ぎながら、消え入りそうな声で呟く。
「すみません、なんて言いました?」
「ううん。なんでもないよ。それよりさ」
「はい」
「このまま終わりでいーの?」
このまま、唯香と別れていいか。
そんなの、よくない。いいわけがない。
俺自身、まだ納得できていない。
「よくないです。……けど、唯香の気持ちが離れてしまっている以上、諦めるしかないですよ」
「へぇ、大人じゃん。恋愛は人間力を成長させるね」
「か、からかわないでください」
「でもさ、そこまで聞き分け良くなる必要はないんじゃない?」
駄々でも捏ねて、交際関係を続けられるようお願いしろとでも言いたいのだろうか。
そこまでして元の関係に戻れたとして、果たしてお互いのためになるのか?
少なくとも、唯香の気持ちが再び俺に向いてくれるとは思えない。
「いえ、諦めますよ。こればっかりは、仕方ないと思います」
「じゃ、拓人くんの唯香に対する気持ちもその程度だったってことだね」
「……っ。そ、そんなことは」
「唯香と元通りになりたいなら、唯香がまた拓人くんと付き合いたいって思わせるよう頑張ればいいんだよ」
「頑張ったところで鬱陶しがられて終わりですよ。唯香に接触しない方が好感を持たれるまであります」
「そっか。ま、それも一理あるね」
里奈さんはよっと勢いよくブランコから立ち上がると、俺の元に近づいてくる。
前屈みになって俺と目線を合わせると、耳元に寄ってきた。
「な、なんですか? ち、近いんですけど……」
当惑する俺にお構いなしに、里奈さんはそっと囁くように。
「じゃ、唯香と別れて独り身になった拓人くんに一つ提案」
「て、提案?」
「今度は私と、付き合ってみる?」
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