転生した私を拾ってくれたのは理想の彼女でした。今度こそ助けます
青葉黎#あおば れい
1
「ひぃいいっ!!」
叫んだとほぼ同時に、後ろの土壁が巨大なクマで破壊された。皮膚の表面に鎧が生えているみたいなクマだ。現代日本じゃ見たことがない。
というか、ここがどこなの?
走りながら、周りを見てみる
一見するとただの洞窟のように見える。ただ、本来は薄暗いはずの洞窟の壁や地面から青い結晶が生えていた。それらが自ら発光し、洞窟内を淡く照らしている。おかげで、私も壁にぶつかったりすることなく逃げることが出来ていた。
でも、こんな洞窟は見たことがない。クマも全長が5メートルくらいあり、全身に鎧みたいなものが生えている。どう見ても、ここは日本には見えないけど……。
「グオオオオオ――――ッッ!!!」
「うひぃ! ごめんなさいぃい!!」
逃げるのに集中しろ、と言わんばかりのクマの咆哮が轟いて、思わず謝ってしまう。高校生の頃に隣の席の子たちが煩かったのを巻き添えで私まで怒られた時のことを思い出してしまった。ただ、その時と違うのは、私が謝ってもクマは許してくれないということだ。
このまま逃げていても、いつかは私の方がバテてしまう。引きこもり歴10年の私の体力のなさは伊達じゃない。それどころか、高校生の頃から体力もなければ運動神経も悪かった。50メートル走だって15秒越えてたし。
自虐的なことを考えていると、
「いたた……って、あれ?」
立ち上がろうとしたその時、地面に垂れ落ちた長い髪に気づいた。私の髪、こんなに長かったっけ? しかも、色もクリーム色。
陰キャな私が髪を染めるなんてことするはずがない。出来るだけ目立ちたくないので、髪色を派手にするなんてありえないんだ。クリーム色の髪なんて、黒髪の多い日本人に混ざると明らかに目立つ。
その時、私の脳裏に浮かんだ言葉があった。
「もしかして私……転生しちゃった?」
見たことのない場所に、見たことのない姿のクマ。走っていたせいで考えが追い付かなかったが、今の状況は転生したと確信をもって言える。
ただ、転生したってことは、前世で死んだってことのはず。しかし、私には死んだ記憶がない。気づけば洞窟にいて、クマに追いかけられていたのだ。その前後の記憶があいまいで、思い出そうとするとピリッと脳の奥が痺れる感覚がある。思い出すのを何かが阻害しているみたいに。
何かがおかしい――違和感に気づいた時、背後から叫び声が響いた。
咄嗟に振り返れば、手を伸ばせば届く距離にまでクマが迫ってきていた。
ひゃぁあ!
そういえば追われてたんだったぁあ!!
クマは両手を掲げて立ち上がり、赤い双眸を鋭く光らせながら私をキツく見下ろしていた。
地面に尻をつけたまま後ずさる。しかし、すぐに壁に背中が当たってしまい、それ以上の後退を許してくれなかった。
「ゆ、許してください! 私、これからチート無双して可愛い女の子を侍らせて異世界を満喫する予定なんですだから――」
「グオオオオーーーーッ!!」
懇願してみたが、許してもらえなかった。クマは鎌のように鋭い爪を湛えた腕を振りかぶり、襲い掛かってきた。終わった……転生して数分も経ってないのに二度目の人生が終わるなんてありなのぉお!?
瞼をギュッと閉じる。暗くなった視界の向こうで、腕が風を切る音が響く。私の人生は、ここで今度こそ終わるんだ! 覚悟を決める間もなく、人生を諦めた。その時だった。
「《
声が響いてきた。
透き通っていて、綺麗な声だ。
と、同時に冷たい何かが視界の向こうで広がる。氷を肌に押し付けられたみたいな冷たさに、私は驚いて思わず肩を震わせた。
目を開けてみれば、数センチ先に腕を振り下ろしている途中のクマが見えた。クマは静止したまま動かない……いや、動けない様子だ。その巨躯が氷に包まれ、身動きを封じている。
何これ……。
どうして、クマがいきなり氷像になっちゃったの?
目を見張ると同時、氷に亀裂が走った。
氷が砕けると共に、クマの身体にもヒビが入る。全身へクモの巣状に広がると、やがてクマは全身を粉々にさせた。
絶命するとともに、クマの肉体は黒い霧を生じさせる。後に残ったのは、半透明の黒色の結晶。中は空洞になっているようで、緑色の液体が溜まっているのが見えた。
「……大丈夫?」
驚いて固まる私の耳に、少女の声が響いてきた。
振り向けば、青い髪を腰のあたりまで伸ばした少女がいることに気づく。年齢は高校生くらい。白色の制服を着た少女で、胸元につけられた黒いタイがアクセントになっている。
彼女の手には杖が握られていた。先端が三日月みたいな形になっており、その凹んだ部分に青くて丸い結晶が浮かんでいる。氷の粒が土星の環のように杖の先端の周囲を回っていた。
クマを氷像にしたのもこの子かな。
ただ、どこかで見たことがある気がする子だ。前世での記憶が少し曖昧で思い出せない。うーんと……と考えている私に少女は手を差し出してきた。
「立てる?」
「う、うん……ありがとう」
差し出された手は触るのもためらいそうになるほど白かった。その手を握り、立ち上がるのを手伝ってもらう。背筋を伸ばしてみると、彼女は私よりも少しだけ目線が低いことに気づく。身長は私の方が少し高いらしい。
彼女の青い瞳と視線が交錯する。うっ、可愛い。
「助けてくれてありがとう。ええと…君の名前、聞いてもいい?」
「……頭、大丈夫?」
いきなりバカだって言われた!?
衝撃を受けていると、少女は私の頭に手を伸ばしてきた。犬をあやすみたいに丁寧な手つきで撫でられてしまい、顔がボッと熱くなってしまう。こんなに可愛い子によしよしされるなんて……でへへ。
「私のこと忘れるなんて、頭でも打ったのかなって思ったのだけど、違う?」
そんなに有名な子だったのか。
驚きながらも、私は質問に答えた。
「実は、私にもよく分からないの。気がついたらこんなところにいて、さっきのクマに追われてたから」
「なるほど。じゃあ、間に合ってよかった」
そう言うと、彼女は私の頭から手を離した。目を少しだけ細めると、小さく微笑む。
「私はあなたの同級生のアマネ=ヒメノ。魔法学園に通う、あなたの同級生よ」
そして、アマネちゃんは私へと視線を向けると言った。
「あなたはリオン=カーミラ。学園唯一の吸血鬼で、学年序列最下位の落ちこぼれよ」
「へ……?」
どうやら、私の第二の人生はどん底から始まりそうです。
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