掌編小説・『コスモス』

夢美瑠瑠

掌編小説・『コスモス』

(これは、今日の『コスモスの日』にアメブロに投稿したものです)


掌編小説・『コスモス』


 思春期から顔のニキビがひどくて、顎が不正咬合だったりして、僕はすごく自分の容貌にコンプレックスが強かった。

 女性とまともにものを言ったりしたことがないままに、30歳になり、いろいろあって仕事もうまくいかなくて、40前に離職した。

 38歳まで女性というものを知らなくて、最初の体験も「玄人筋」のお世話になった。

 その時は、駐車場で缶ビールを2ℓ吞んでから、やっと現場に赴くことができて、お腹がタプタプだったので、女の人に「もー(お腹に)何が入ってるのよー」とかからかわれたりした。

 が、初体験のマグワイはグワイが良くて、女性も気立てが良い、華奢で上品な素敵なひとだった。

 

 それから暫くはそういう”風俗”と俗にいうギョーカイにお世話になることはなかったのですが、ちょうど10年後くらいにまた思い立ってそういう特殊浴場に入浴に行った。

 この時は失敗した。

 前の日にニンニクを食べ過ぎて、すごいような悪臭を漂わせていたらしい。僕は相手の人に嫌われてしまうと不如意になるので、散々な首尾に終わった。

 しかし醜男で女性に縁のない僕にすれば、夢のような体験でもあった。

 「トイレの神様」?に感謝したい気分だった?


 それから味を占めて?断続的にそういう遊びを繰り返すようになったのだが、或る時に非常に美しい女性に遭遇した。

 

 その女性の源氏名が「コスモス」といったのです。

 

 何というか…あでやかで優雅で、それでいて清らか。すらっとしていて、洋ナシ型の乳房で、女優かモデルのように優美な顔と姿態。声も性格も理想的なひとだったのです。

 そういう非常に綺麗な容姿をしているのに、全く気取らずに、気さくに話してくれる。

 まさに「女神」のように見えました。

 全身がぬめのようで?そうしてピンク色の感じなのもめったにお目にかかれない美質だと感じた。

 よく「忘れられないオンナ」とか週刊誌の体験談の記事とかにあるが、僕の場合はこのコスモスちゃんがそういう設問に対しては真っ先に思い浮かぶ。

 

 「コスモス」は秋桜と書いて、秋口の寂寥感にぴったりの、儚げで美麗な花だが、大文字の「Cosmos」には「大宇宙」の意味もあって、これはどちらもギリシャ語の「秩序」の意味の単語から来ているかららしい。

 好きなRPGに、「KOSMOS」というキャラクターがあってこれはその「秩序」の意味からきているらしかったが、偶然の符合というのか、この超美人のアンドロイド「KOSMOS」と、イメージ的にコスモスちゃんは瓜二つなのだった。

 このキャラクターにひっかけて命名したのかもしれないが、そこはよく分からない。


 僕はコスモスちゃんと一期一会の遭遇をして、忘れられない思い出ができた…

 それ以来、コスモスという言葉を聞いたり、コスモスが咲いている風景を見たりすると、今でもあの夢のように美しかった女神さまとの時間を思い起こす。


 たぶん死ぬまで…刻印づけられたその条件反射は持続するだろう。

 しかしそれは幸福でポエティックな、自分が醜かったおかげで出来た奇跡の恩寵のような刻印の記憶なのだ…


<了>


  


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掌編小説・『コスモス』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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