悪徳領主に転生したので街を滅ぼすことにしました。

サプライズ

第1話


目が覚めたら悪徳領主に転生していた。


いやわけわからんと思うよ。俺もわけがわからん。


仕事を終えて寝て起きたら、着たこともないごわごわの服を着て、知らない部屋にいたのだから。


変な夢だなと思ってぼうっとしてたら、メイド服を着た人が部屋に入ってきて、俺に向かって一礼し「おはようございます。」って言うんだよ。


あまりの不可思議さにしばらく思考がショートしたのは言うまでもない。


俺はまず彼女を無視してカメラを探し始めた。ドッキリだと思ったのだ。

ここで慌てた姿をさらせばSNSで拡散されるて末代までの恥になると確信していた。


けど探しても一向にカメラは見つからなったし、ものすごく不審な目でメイドには見られた。恐らく普段は寄ることのない眉間にしわを寄せていたくらいだ。ひょっとしてと思い、その汚れ一つないスカートの中にあるのかなとめくって覗いたら普通に蹴られた。


いや慌ててたんだよ。慌てるとスカートの中だって覗いちゃうだろ。普通は。



そんな風に夢かドッキリかと疑いつつも、何となくでその場を流しながら数日過ぎたころ、俺はこの世界が以前やっていたゲームの世界の中だって気づいた。


なんで気づいたって、ここ数日いろんな奴に話しかけたんだが、その時に出てきた地名がそのゲームと一致していた。そしてその状況も。


まぁ最悪なことに、一致していたのはゲームに出てくる悪徳の街の名前と悪徳領主なんですけどね。


つまり俺はその悪徳領主の息子になっていた。


俺はその事実に気づいたと同時に、愕然とした。

だって詰んでるんだもの。


普通、悪徳領主に転生したら何をする? いや転生したことある奴なんていないだろうが、転生したと想像してだ。


大概のやつは善政を敷こうとするだろう。税を軽くして、領民をいじめず、品行方正に努めようとするだろう。


将来あるゲーム内の悪徳領主が迎えるであろう結末を回避するために。


それは罠だ。それをやったら、詰んでしまう。まぁやらなくても詰んでしまうのだが。



これはあくまでゲームだった時の話だが、今までに軽く確認した事実は同じだったために、こちらでも同じだと思う。



善政を敷けない理由は三つある。


一つ目。まずは親、というより家族が問題。


さっきいろんな奴に話しかけたって言っただろう。俺はこれが現実かどうか、ドッキリなのかどうかわからなかったから、結構不審な行動していた。


普段しない挨拶、普段しない礼儀、普段しない行動。


これらを不審に思った親は俺がおかしくなったと判断していきなり毒殺しようとしてきた。


直前で毒殺に気づいたことで、正気に戻ったと判断したのかそれ以降やってこないが、たぶん今後も隙を見て俺を毒殺してこようとするだろう。


…毒殺を回避できることが、正常の判断基準ってなんだよ。あの毒殺に気づいた時の「なんだ、正気に戻ったのか、つまらん」というつぶやきが今でも忘れられない。


この家は暗殺者一家なのか?


こんな中善政を敷こうなんて考えたら、まず殺されると思う。余計なことをいうやつとして。




二つ目。

仕える者たちが問題。


彼らは不正を行うことが日常茶飯事であり、数字や物資をいろいろちょろまかしているし、領主の威光を笠に着て街ではやりたい放題。街には癖のある奴やひときわ強い奴など等いろんな奴がいるのだが、それでも領主の威光には勝てないらしく、彼らに行動に歯止めが利かない。


言ってみれば一日一悪を座右の銘にしているやつらしかいない。

マジでゴミ。


その中でも使える奴だなと思ったら他国のスパイだったっていうのもいるしな。


この一家には兄弟姉妹も多くいて、俺はその中の長男だ。

だが長男だからと言って安心していられない。

先ほどの話の通り、俺の親は代わりはいくらでもいるといわんばかりの対応だし、他の兄弟姉妹も俺の座を狙っている。


こんなところで隙を見せるようなことをすれば、兄弟姉妹や仕えているものに事故死させられるだろう。




三つ目。

最後に領民の問題。


ここの領地は国の中でもはずれにあり、関係があまりない国との境にあるのだが、その国からの流民が結構な勢いで流れてきている。何でも少し遠い国で魔王が生まれたとかでそのあおりを受けているらしい。


まぁ、その魔王を倒すのがゲームでの主人公なのだが、その話は置いておこう。


で、うちの町はその流民を受け入れている。それも積極的に。


普通、流民というのは積極的には受け入れない。

彼らが今まで住んでいた場所とは常識が違うために問題を起こすことが多い。

大概の場合は仕事にありつけないために犯罪者になってしまうからだ。


まぁそもそも犯罪者だったという可能性もある。


こういった理由があるがうちは受け入れる。もちろん博愛や慈悲の心があるから受けれいているわけではない。それはうちの領民はほぼ全員がマフィアだからだ。


現代世界でいうならば、アメリカマフィアとアフリカギャングと中国組織とヤクザをごった煮にしたような街なのだ。


こちらでいうならば、魔術師の闇ギルドが流民を使って人体実験をし、奴隷ギルドが流民を奴隷に落としてほかの街に出荷し、亜人ギルドが流民を珍味として食料にして、教会が流民を洗脳してさらに洗脳部隊にして、国の商会が流民を雇って違法商品を地下で生産している。


やばい奴らしかいないだろ?

一番ましなのが国の商会ってなんだよ。国の商会が違法なものを作るなよ。


それに国境が近いからか盗賊も多く、普通に盗賊がこの街を利用している。他の街なら賞金首クラスでもそこらの居酒屋で飲んでいたりする。店を開いている人たちはどうやら金が入るならなんだっていいらしい。衛士も盗賊を見て見ぬふりだ。むしろ汚職を働ける先を探すことに腐心している。


こんな状況だが、それでも流民は入ってくる。魔王がそれ以上に怖いのか、それともこの街の暗部が外でいいうわさを流しているのか…。後者だったら救えない。





…誰がこんな町で善政を敷こうと考えるのか。


悪徳領主として生きれば、将来ゲームの主人公に殺され、善政を敷けば、身内か領民に殺される。


な、詰んでるだろう?











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