第12話 未来への懸け橋
家に帰った俺は、予想通り怒られた。それと同時に学校以外の外出禁止令が言い渡された。
「こんな大事な時期に何週間も外泊してるなんて、頭までついにおかしくなってしまったか」
父さんからはこう言われ、それ以降は目も合わせてもらえなくなった。
母さんは最低限の会話をする以外は父さんと同じで、無言の食卓が続いた。
だが、幸いなことに部屋のネットは繋がっている。俺はカバンの中からタブレットを取り出し、1話目から読み始める。最近はどこの出版社も紙媒体での提出は受け付けていないところが多く、不満を隠せない星川さんをなだめながら俺はタブレットにキーボードを接続して入力していったのだ。
「あと1点……どこなんだ」
星川さんはこの小説を読んで99点といった。あと1点、それは簡単なところにあるらしい。
恐らく内容に関することではないと思う。それ以外でまだ足りていない部分といったら……
「あった……。これだ」
星川さんの言った通り、それは簡単に見つけることができた。俺は残り1点が何を意味しているのか、この時ようやく理解した。
「そういうことだったのか」
それを考えるのに、そう時間はいらなかった。ここまでの流れを考えれば、答えは1つしかないからだ。
俺はそれを書き加えて、この小説を応募した。
翌日、学校から帰宅した俺は足早に荷物を置き、家を出ようとした。だが、それを制止する姿があった。
「申し訳ないけど、お父さんに言われてるから。学校以外で外出させるなって」
それは母さんであった。俺の行く先を塞いでいる。
「母さん、俺は自分のやりたいことを決めたんだ。失敗してもいい。でも、あきらめないって決めたんだ。そこをどいて」
俺がそう訴えかけるが、母さんは動こうとはしなかった。
「お父さんも言ってたけど、才能があってそれでお金が稼げるなら文句はないんだよ。けどね、現実を見てみなさい。あなたのどこに才能があるのよ」
そういわれた瞬間、俺の中で何かが弾け飛んだような気がした。
”あなたのどこに才能があるのよ”
確かに傍から見ればそうかもしれない。30作品も応募して1作品も通過しないのだ。明らかに才能がない。
だが、俺はそう思わない。
あの時みたいにもう後ろを向いたりしない。
俺は廊下にあった家の電話をつかみ、登録してある父さんの携帯に電話をかける。
「父さん、俺。もう決めたんだ、絶対に成功してみせる。だから、待っててほしいんだ」
父さんが電話に出た瞬間、有無を言わせずそう話し始めた。
”何度言ったら分かるんだ。ふざけるのも大概にしろ”
「ふざけてなんかない‼」
俺の魂の叫びが辺り一帯にこだました。
「ふざけてなんかいない。俺は、必死に今できることをやっている。ふざけているのは父さんと母さんの方だ! ちゃんと俺のことを見ていないくせに、そんな適当なこと言って!」
息遣いが荒くなる。目の前にいる母さんはじっと俺のことを見つめていた。
「父さん、もう少し待ってほしい。そしたら結果が出る。その時また話そう」
俺はそう言って電話を切った。覚悟は決めた。そのまま母さんを振り切って、家から出ていこうとした瞬間、さっきまで俺が手にしていた電話の呼び出し音が辺り一帯に響き渡った。
番号を確認したが、父さんではない。ではいったい誰なのだろうか。
俺は誰からの電話かわからなかったが、半ば吸い寄せられるようにしてその電話を取った。
「はい、月守です」
俺は緊張気味にそう返事をした。
”あっ、こちら─────”
その次に返ってきた名前を聞き、俺は膝から崩れ落ちるようにしてその場に座り込んだ。
俺はこのとき、ようやく1つの目標を達成できたのかもしれない。
だが、この日の吉報の裏で、俺は大事なものを失ってしまったのだ。失った、と言うと語弊があるかもしれない。消えてなくなったといった方が正解だろうか。
俺は込み上げてくる高揚感をぎゅっと抱きかかえ、そのまま家から飛び出していった。
誰よりも、何よりも先に報告すべき人がいるのだ。
無我夢中で裏山の道を駆け上がる。頭の中はもう何も考えられないほどいっぱいだ。途中で何度も転びそうになりながらも、見慣れた場所へと辿り着いた。
コンコン
俺は扉を2回ノックする。中からの返事はない。だが、俺は今、一刻も早くこのことを伝えたかったのだ。
「星川さん、俺、俺、やったよ! ようやく……」
そう言っている途中で扉を開けた。鍵はかかっていなかった。笑顔で待っている、星川さんがいると思っていた。
だが、そこに星川さんの姿はなかった。
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