夢話

雨思考

王家のお話

夢の話


あるところに王家があった。兵力を持たず、至って平和で、至って普通の小さな王家であった。というのも、国王は優しく、女王は厳しくそれぞれ対になりつつも国は安定していた。国民は多くを望まず、王家も安定を望んでいたからだ。

よって、王家であっても煌びやかでなく、至って質素で倹約的で豪遊することなどなかった。


ある年に子が生まれた。女の子であった。見目は普通で、しかし気立が良く、優しい子に育った。

その子には翼があった。いや、これでは語弊を生む。翼がある小さな物、例えばねじ式の天使のおもちゃであったり、鳩時計であったりに精神を乗り移らせることができたのだ。己自身の翼の代わりを持っていたと言った方がいいのだろうか。

その子が14かそこらへんの歳だった。その時は突然に来た。国王、女王相次いで亡くなってしまったのだ。現代で言うとまだ子供である年頃の子を置いて。

しかし、民は特に心配はしなかった。城には長く国王、女王と親しみ、共に歩んだ神官や大臣たちがいるのだ。老いも若いもいるが、等しく優秀で皆正しくあった。

とりわけ存在感があったのは、その中でもさらに頭の良い男の大臣であった。勉学に優れ、言葉に優れ、教師のような厳しさと優しさがあった。

彼は国王女王亡き今、猛烈な存在感とカリスマ性で国を導いていた。

幼い姫はそんな彼を、自分の教師的な存在として慕いつつも何か違和感を感じていた。

えも言われぬ、よくわからない恐怖であったか、何であったか。


そうこうしているうちにも、やはり一人で生きていかなくてはいけない今、教育というのは必須になっていく。

多くの教師から学ぶ日々を繰り返しつついたが、やはり子供は子供。

寂しいと思えばそれは寂しい。

姫は新しく城に入った男の子をそばにつけて図書館に入り浸るようになる。

城の図書館と言ってもそれほど大きくはない。そこらへんの街の図書館のほうが立派だと思えるくらいには蔵書が偏っていた。

物語の類があるわけではない。面白い絵画の本があるわけでもない。あるのは国に関わること、外交のこと、そして家族写真集くらいのものであった。

そばに付き従った男の子は、いつも姫と遊ぶようにして図書館に入っていた。もちろん、教師が弁をとる授業の時間まで。

姫は、自由に遊び回った。置いてある自分に似せた天使のねじ式の置物に乗り移って飛んだり、埋め込み式の細工してある時計を触ったり。

とても楽しかった。

しかしながら、不思議なことにその図書館にはよくわからない所があった。

一体なんのためにあるのかわからないポストがあるのだ。

ポストと言っても、手紙などを入れるものではない。本を入れるブックポストだ。

飴色の木でできており、見ているそれはまさしく内側の作りだった。一体外側はどこにあるんだ。

そう、城の壁に造られてはいるものの、ここは地面より数階も上にある。誰が入れるのだと思うような作りであったし、そもそもここは城の図書館であって、利用するのは城にいるものだけだ。城の外から入れる人などいないのではないか。

男の子は不思議になりつつも姫に説明を求めた。

すると姫は、

「私もよくわからないの。でも、昔いた年老いたばあやがね、ここは絶対に開けておかないとって。どんなことがあってもここだけは閉じてはいけないって言うの。そのばあやも占いが得意で不思議な力があったのだけど…今は亡くなってしまって…」

「じゃあ、何を入れるのかわからないポストなんだね」

「…いいえ、ばあやが言うにはね、私の『兵力』だそうよ。私を助ける兵力。それがここから入ってくるって。そして、戦いを助ける財もここへ…私わからないの。誰かと戦うことになるのかしら」


数年後、国内で争いが起こった。と言ってもそれは諸外国から見れば極々小規模なものであった。

姫と大臣が国をどちらが導くかと、争ったのだ。

大臣は国民を兵として使ったが、姫はそうでなかった。

天使の大群が彼女に付き従い戦ったという。姫の圧勝で終わった戦いであったが、傷ついた民は姫の厚意により城で手当てを受け、皆全快したそうな。

その手当ての資金も、付き従った天使たちも、天涯孤独で城から出たことがない姫が一体どこから引き連れてきたのか。

大臣はすこぶる不思議がったが負けは負け。大人しく国を出て行った。

まあ、そこら辺を詳しく知っているのは、姫とあの男の子しかいない。



昔々のお話でした。

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