クラス転移で一人だけ無職で無能と呼ばれた俺は、やがて世界最強に至る。
ふぃるめる
序章 別れと出会い
第一話 転移したら職業がなくて無能扱い
「―――――というわけで、私は貴方達をこの国に召喚しましたの。どうか私たちの国と世界を守るためにその力を奮って欲しいのです」
俺たちのクラスは今しがた、この異世界に転移して来たという説明を受けたところだった。
そして俺たちを召喚したイリュリア王国の神官達が手分けして俺達の
「お前は……職業がない……っ!?」
ありえないという顔で神官達が俺の顔と
ただ代わりに特殊体質という文字が刻まれているだけ。
そしてそれも『???』となっており不明だった。
「如何に例外的な力を持つオルテリーゼ姫でも転移させることに失敗する場合があるのだな……」
至極残念そう顔で神官達が、そしてオルテリーゼと呼ばれたこの国の姫が俺を見つめた。
「まぁいいわ。次の者の
姫はもはや用済みだと言わんばかりに俺の横を通り過ぎていった。
「おいおい、落ちこぼれ!異世界に来ても落ちこぼれのままかよw」
「少しは出来るとこ見せたらどうなんだ?」
「ギャハハ、マジなんも出来ないじゃん」
救国の勇者パーティとして相応しい職業を得たクラスメイト達がいつものように俺を見下すような言葉を投げてかけてくる。
「春人くんが可哀想だからやめてあげて!」
そんなクラスメイト達を静止する声が上がった
「何だよ詩織ー、お前さぁ倉見のこと甘やかし過ぎなんじゃないか?」
「いくら幼馴染だからって限度があるじゃん」
クラスメイトの言葉を気にする風でもなく俺に声をかけて来たのは幼馴染の
「気にしなくてもいいんだよ?
きっと俺のことを気にかけてくれたのだろう。
「別に気にしてはないけど、正直落ち込んでる」
異世界転移したら何か変わるかなったって思ったけど何も変われなかったんだから。
彼女は、俺が人付き合いが苦手なことを知っているし協調性がないことも知った上で付き合ってくる数少ない友人だった。
「春人くんを虐める奴は私からガツンと言ってあげるから」
「詩織が居ずらくなっちゃうのが一番困るから、無理しなくていいよ」
神崎詩織は誰とでも分け隔てなく接する陽だまりみたいな幼馴染なのだ。
それ故に交友関係は広く、
「そうやっていつも自分の事じゃなくて、人の事を心配するのは春人くんの良い所でもあって悪い所でもあるんだよ?」
そう言うと鈴みたいにからからと笑った。
人族と魔族との戦争が激化する人の命の軽いこの世界、どうやら職業が顕現しない俺にとって生きてくことの難しい世界らしかった。
◆❖◇◇❖◆
無能とはいえ俺も転移者扱い、あてがわれた部屋に入るとそのままベッドに横たわり意識を手放した。
しばらくして―――――枕元に人の気配を感じて起きた。
「ごめんなさい、ハルト。さぞ辛かったでしょう」
枕元でそう告げたのは法衣のような服を身にまとった少女だった。
見覚えのある顔ではなかった。
「お前は一体誰だ……?」
「私は創造神エステル。貴方の転移に干渉した。だから貴方は職業を持たない個体として転移した」
「お前のせいで俺は
湧き上がる感情は困惑、怒り、失望。
「でも聞いて欲しい。貴方は特殊体質として失われた古代魔法を
古代魔法がどういうものかは知らないし『魔法再現』というものが何かも分からない。
そして一つの疑問が浮かぶ。
「俺にそんな体質を与えて何を望む?」
「私はこの世界を創造した神として、この世界には優しくあって欲しいと願っている。貴方なら私の願いを託すことができると確信した」
おいおい随分と俺の身に余る話だな……。
「なぜに俺が?」
「貴方の体は、もともと古代魔法に対しての適応能力が高い。そしてその根源には豊富な魔力を蓄えるだけの余裕がある」
「だが肝心の魔力が無いんだろう?」
「今はそう。でもこれからは違う」
「どういうことだ!?」
「神同士の争いに敗北した私のこの体はもう死へと向かっている。でも私は創造神として世界を創造するだけの魔力を持っている。だから私は、全てを貴方にあげる」
全くもって話が見えてこないな……。
前提としての知識が俺には無さすぎる。
「まだ俺は、お前の求めに応じるとは一言も言ってないぞ?」
誰かに或いは何かに縛られて生きていくことなどもうごめんだ。
「これを見ても同じことが言える?」
抑揚のない儚げな声で創造神エステルは、水晶のようなものを取り出した。
そしてそれを俺の体へと埋め込んでいく。
瞼の内側に映る光景は、血塗られたこの世界の歴史だった。
人族同士の諍い、神族同士のしがらみ、人族と魔族との戦い。
怨嗟、恨み、悲しみ、苦しみ。
筆舌に尽くし難い光景がひたすらに俺の脳内へと流れ込んで来た。
「う、うぐっ……」
目を覆いたくなるような凄惨な光景に思わず嗚咽の声を漏らすほどだ。
「これがこの世界の歴史。だから私は貴方に求める。この世界を優しい世界にして欲しい」
今さっき脳内に流れてきた光景を思えば俺の抱える悩みなど、些事に過ぎないちっぽけなものに思えた。
そしてこれまで
この世界には人族魔族を問わず多くの苦しみを抱えた人達がいて、理不尽に悶えているのだ。
そんな人達の役に立てるのなら俺は、喜んでこの身を差し出そうじゃないか。
だから俺は決めた――――。
「必ず優しい世界にしてみせる」
「……ありがとう」
それまで悲しさ以外の感情を露わにしなかった創造神エステルの声が上ずった。
そしてその頬には一筋の涙が流れた。
「これより私の記憶と全てを貴方に託します。力及ばなかった私の代わりにどうかこの世界を救ってください」
創造神エステルはそう言って光の煌めきへと変わると俺の身体へと溶けていった。
「まかせとけ……」
別に自信があるわけじゃない。
でも死んでいった彼女を送り出す言葉は、前向きな方がいいと思ったんだ。
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