第55話 江東響と佐川由里子
*佐川由里子*
あれから私は小平さんと手を組んだ。
事実が捻じ曲げられてるこの現状を変えたい。勇気が出なかったけど、小平さんと話すとそう思えたっす。
そう決意して迎え、現在どこにいるかと言うと。
「……安定の遅刻すか」
会議室である。今日は週一で行われるマネージャーと配信者で行われる名の通りの会議だ。
一週間の結果を踏まえて、今後どうやって配信活動をしていくかを話し合う場である。
これは活動していく上で大切なことなのだが、毎度毎度配信と同じように遅刻してくるのだ。
何度注意しても遅刻を治そうとしないので、もう半分呆れてるっす。
「こちとら他にもいろいろやらなければいけないことあるっていうのに……」
だけど愚痴を言ったところで現状何も変わらない。いつも通り、自分のデスクじゃなくてもできる仕事を片そうとしますか。
****
「ごめんなさ〜〜い。遅れました〜〜笑」
「……予定してた時間の“2時間”は遅れていますが?」
「だからごめんって〜〜」
向井さんの炎上で美味しいのを食べたせいで最近ルーズな性格にもっと拍車がかかってるっす。
悲劇なヒロイン的立ち位置に立った今、最爽エリーのチャンネルは勢い上々でとっくにチャンネル登録者数100万人を突破したっす。
「んじゃ、今週の振り返り始めよう……って言っても話すことないか?笑
今のままで全然大丈夫しょ?笑 ハァ〜ちょろすぎるよ〜〜もう2ヶ月はこのままで大丈夫でしょ笑」
炎上後の最爽エリーの勢いは本人が一番知っている。だから昔以上に鼻が伸びきっているっす。
「そんな余裕こいてたら、すぐオワコンなるっすよ」
「大丈夫だって〜そう簡単にこの勢い止まるわけないじゃ〜ん!!笑」
完全にうの中のちょう。有頂天極まりないっす。
完全に天狗となってるっす。
今も会議中だというのに私の方は見ずに爪にネイルを塗ってるっす。
「この勢いを加速させるためにいろいろ考えました。“コラボ依頼”が来ています。コラボしましょう」
「え〜〜まだいいんじゃない?笑 私“コラボ相手に恵まれなかった”悲劇のヒロインで今やってるんだよ?? まだコラボは早いでしょ〜笑」
「今だからこそっすよ。コラボが失敗したからこそ、ちゃんと次のコラボ成功させてリスナーによかったと思わす。今いい機会すよ」
「………」
江東さんはたまにこうやって沈黙する時があるっす。こちらが問いかけたり、提案しても興味がないことならこうやってすぐ黙るっす。
こうなったらこちらが何を言おうと何も答えなくなるっす。江東さんが喋るようにならない限り。
毎回会議がスムーズにいかないのもこれのせいっす。
美瑠……こんなん相手によくマネージャーを務めたと本当に常々感じるっす……
そして30分ほど沈黙が続きネイルを塗り終わった江東は口を開いた。
「仕方ないな〜どうせそのコラボ相手って私の今の勢いにあやかりたいと思ってんでしょ〜? あやからせてやるよ」
「そ、そういうことじゃ……」
「はぁ? そういうことじゃん。今の私が勢い乗ってる時にコラボ依頼してくるって。んで、そいつ男? 女? 男ならイケボ? 顔わかる?」
「女配信者っす。顔は……」
「ちっ、女かよ。ハァ〜あんなレンとかいうやつが炎上しやがったからさ〜悲劇のヒロイン的存在になっちまってさ〜気軽に男性配信者とコラボできなくなったじゃ〜ん」
さっきまで悲劇のヒロインに酔いしれてたくせに………Vtuber活動を男漁りとしか考えてないんすか。
他にも色々言うことがあるっすけど、一番言いたいのは向井さんをけなす理由がわかりません。
「向井さんのことは言うのやめましょう。それに……本当は向井さんは悪くな……」
「はぁ? あいつがどう考えても悪いでしょ。私が気に入ってわざわざコラボ依頼までしてあげたのに〜? めっちゃ楽しみにして入社したのに〜? 高校生で? 声詐欺? そのせいであたしは気持ちが萎えたんだよ〜? 完全にあっちが悪いでしょ」
「き、気分は江東さんの自分勝っ……」
「だからコラボさせてあげてるのに、気分萎えさせたあいつが悪いの! これ以上その話すんなあ゛」
完全にあの件について向井さんが悪いと思い込んでいる。客観的に言って江東さんのわがままが生んだ……もういいっす。“今回の目的”は江東さんの本心を聞くことっすから。
「わかったっす。それじゃコラボ相手の資料を」
「適当にやっといて。興味ないから。日時だけまた教えてくれればいいから。んじゃ、私やることあるからもう帰る」
そういい彼女はコラボ相手の資料を受け取るどころか見ることもせず会議室を出て行った。
渡そうとしていた資料に書かれていた相手。
コラボ相手・鮫島ガブ(ぐらぶるダクション)
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