第13話 社会クソだ連合
「枚田さん?」
「む、向井さん!? どうしてここに!?」
枚田さんは俺を捉えるととっさに立ち上がりウルトラ○ン顔負けのファイティングポーズをとった。
ウルトラ○ン顔負けのファイティングポーズってなんだよ。
「会社から呼び出されての帰りです。枚田さんは?」
「私は就活中です。ただ今面接を受けた会社から「高嶺の花すぎて手を出せない」と言われたところです」
「………」
落ちたんか……ん? けど枚田さんって江東響のマネージャーじゃ? なぜ就活する必要が?
「……無言は一番辛いやつです」
「あっ、えーなんで就活してるんですか?」
どストレートすぎた。太谷も驚きの豪速球だ。絶対今この人にとってのタブーな話題を俺は聞いた。
「……まー気になりますよね。どうです? このあと暇なら昼食べに行きません? 今すごい誰かに話を聞いて欲しい気分です」
「そうですね……俺も今誰かに話聞いてもらいたい気分です」
「そっか。んじゃいこっか」
****
俺たちは近くのファミレスに入った。休日の昼だから混んでるかと思ってたけど、中は閑散としていた。
先に案内されとりあえずお互い注文し、沈黙が流れる。
彼女からの誘いのため黙っている向井。流石に向井も枚田さんの現状を察していた。
だから待つ。彼女が話すつもりになったら聞こうと。それまで急かすことなどしなかった
「私さ……クビになったんだよね」
意を決して発言したのだろう。ちょっと声が震えていた。
そうか、佐川さんは枚田さんの後釜だったんか。
「江東さんってすごいわがままだから、すごい大変だったんだ。けど仕事してることは楽しかったし、何より私を頼ってくれていると思うと頑張ろうと思えた」
聞いてる限り、彼女はドがつくほどの真面目なんだろう。
打ち合わせの時も彼女なりの精一杯だったのだろう。
じゃなけりゃ、あんな必死に『最爽が、最爽が』って言ってない。
江頭の望んでいることを叶えようと頑張る枚田さんは素晴らしいマネージャーなのかもしれない。
「けど、私の……向井さんとの打ち合わせの様子が……ラピスベリーのブランドに傷をつける打ち合わせって言われて……クビになった」
た、確かに打ち合わせの様子はすごいことしてたけど……しっかりと江東さんの要望を勝ち取ってきた彼女をいくらなんでもクビは……
「……ま、そういうこと。んで、新しく仕事探してるんだけど入社してすぐ会社をクビになった私を採用する会社なんてないわけだ。聞いてくれてありがとう。話したらスッキリしたよ」
枚田さんは笑って見せた。けどその笑顔にはまだ何か“隠している”ように感じた。
「……まだ言いたいことありますよね? 俺でよければ全部吐き出してください」
真剣な表情で彼女を見つめた。
枚田さんは「あ、あ……う……」と困った表情をしながら顔を俯けた。
静寂が走るがやがてポツポツ涙をこぼし、俯きながら口を開いた。
「わぁ! わぁたしはすごいがゆばった! よろきょんでもらうためにぎゃんばったぁあ!! なのにぃぃぃぃぃ……あんまりだぁぁぁぁぁぁ!!」
“愚痴を聞いている”で表される表現ではない。この彼女の魂の叫び。
俺には鋭く突き刺さる。頑張りが認められないこの気持ち……つい先程体験したから分かる。
まだ注文した品はこないようだ。
****
「美味しいですね」
「そうだな。やっぱりチーズinハンバーグしか勝たん!」
枚田さんが少し落ち着いた頃に注文の品が来た。タイミングを見計らってくれたのだろうか? それぐらいジャストタイミングだった。
「そういや、枚田さんなんか雰囲気違いますね。今更ですが」
打ち合わせの時感じた枚田さんはなんかザ・キャリアウーメンみたいな感じだったが、今はすごく接しやすく気さくな方と思う。
「あーあの時は仕事モードよ。普段はこんな感じだけど仕事の時だけ切り替えてるんだ。嫌?」
「いえいえ! 全然! 逆にこっちの方がやりやすいです!」
打ち合わせの時たまに出してたノリの良かった枚田さんが本性なんかな? そっちの方が俺的には良き。
「そういやコラボどうなった? クビになって就活に勤しんでたから見てないんだ」
「………めちゃくそ失敗して……」
「まーまー誰にだって失敗あるって!」
「炎上して……なうで……」
「え、炎上か〜まー配信者なら一度は通る道? 的な?」
「なんか知らんけどその炎上を全て俺のせいにされて……」
「………」
「配信活動休止。実質クビです」
「…………社会ってクソだよな……私のことはめっちゃ聞いてもらった! 今度は向井の番だ!! 私に全て吐き出せ!!」
「はいぃぃぃぃぃぃ!! そうさせていだだいまう……」
俺はガン泣きしながら枚田さんにぶちまけた。
こうして“社会クソだ連合”が誕生した。この気持ちは社会クソだ連合に加盟しているものしかわからない……
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すみません。土曜丸一日寝てました。
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