第3話 晩秋
狭い庭に植えられた木々の葉も、昨夜の雨と風ですっかり落ちてしまった。わずかに数枚、真っ赤なもみじの葉がさびしげに揺れている。
日ごとにため息が多くなり、ふさぎがちになる私に対して、ユミは変わらず、
「おかあさん、お昼は何がいいかしら。」
と明るく声をかけてくれる。
お昼は炊き込みご飯、生姜を利かせた瓜の浅漬け、ごぼうと人参しいたけ、厚揚げの煮物、とろりとした里芋とフカネギの味噌汁。何も言わなくても私の好きな秋のメニューが用意されている。
「食べなければ。」そう思いながら、やっとのことで半分程食べる。そこまで食べて、後は口に運ぶのも面倒になってしまった。
私はきっと全てのことに興味を失っているように見えるだろう。
今日はわずかに生き残っている高校時代の同級生、友人である久子を招くことになっていた。
「おやつは何が用意できるの?」
「昨日フルーツケーキを焼いておいたから、フルーツケーキとミルクティーでいいかしら。」
といつものようにユミから弾んだ声が返ってくる。
今日招いた久子にも、ひろみと同じ年の孫娘がいる。
思えば、私と久子は長い歳月を二人で励ましあいながら過ごしてきた。
出生率が落ち、巷に子供達の声が響かなくなってたのはいつごろからだろうか。特に日本では、新しい生命の誕生が不自然なほどに減っていた。
極端に誕生する子供が減る現象は日本から始まった。やがて世界に先駆けて少子高齢化が進んでいた。その上、日本は度重なる地震や水害経済危機の対策に目をつぶり続けてきた。そして、パンデミック、第3次世界大戦で多くの人々が亡くなっていった。
晩婚化と結婚制度の崩壊、放射能による汚染、食物の供給形態の変化による食品添加物の増加。遺伝子組み換えした食料、医薬品の使用。一体どれが原因で子供が生まれなくなったのかわからない。いや、どうやらこれらの全てが複雑に影響して、子供たちは誕生しなくなったらしい。
いつの間にか、卵母細胞の欠如した女子が誕生し始めた。初めは都市部から、しだいに田舎でも同じことが起こり始める。
そして今、日本だけでなく、世界中にこの現象は広がっていった。
初めの頃は、原因の究明や遺伝子の操作など、優れた科学技術のどれかで問題は簡単に解決すると誰もが考えていた。
久子も私も楽観主義だったから、人類が絶滅することなど考えられなかった。両親を失い家庭に一人取り残された私達は「アンドロイドを家族にする」と二人で決めた。
やがて科学技術が進歩して卵母細胞を使わなくても体細胞からクローンを作ることができるようになった。そして15年程前から、クローンを作る人々も増えていたが、成功率は低かった。誕生しても無事成人を迎えるクローンは少ない。久子も私も成長の途中で多くの命が失われることに耐えられず自分たちのクローンを誕生させることが出来なかった。
二人が終にクローンの作製に同意したのは、七年前だった。二人の共通の友人である文子が亡くなってからだ。
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