VTuber始めました〜目指せ、最強の器用貧乏〜

アンカー

初めまして、VTuber。

「VTuber……って、なんか最近流行ってる奴?」


「そう。アンタ趣味多いし声悪くないし向いてる方じゃない?」


 ここ一ヶ月の間に掛け持ちしていたバイト先が奇跡的に全て無くなり(県外への移転、個人経営のオーナーが捕まるなどなど)、自分の謎の運の悪さにドン引きしながらも新しいバイト先をサイトで探していたある日、姉に声をかけられた。


「や、向いてるかはわかんないけどさ。なりたいでなれるもんでもなくない?」


「……なれるかもよ?」


 VTuber業界に関しては殆ど知識がない。というかVTuber好きの友達がたまに話してくる位だが、企業に入るのもそれなりに労力がいるらしい事を言っていた気がする。


「えー……まあ、興味が無いわけではないよね、動画投稿者。面白そうだとは思うけど。……何、なんかそういう伝手でもあんの?」


「伝手というか……なんならご指名ね。遥香ってわかるでしょ、高峯遥香。」


「姉さんの友達のあのカッコイイ?」


「そうそう。ウチの高校時代のバレンタインのチョコ数一位の高峯遥香よ。」


 高峯遥香たかみねはるか、姉さんの小学校からの同級生である。専門学校を卒業した後も連絡を取り続けている人で、凛々しい振る舞いと端正な顔立ちで人気だった格好いいお姉さんだ。

 余談だが姉さんの高校は普通に共学である。


「で、その遥香さんが何?」


「あの子が作った企業が今新人募集してるらしくてね。で、アンタも応募してみないかって遥香が猛プッシュしてきて。」


「……なんで?俺遥香さんとそんな仲良かったっけ?」


 姉さんと遊ぶ為に家に来ていた時にお茶を出しに行くくらいか。偶にゲームとかに混ぜられた事はあるけど、そこまで積極的に話していたわけでは無いはず。


「アンタと遥香の仲の良さは知らないけど。でも何回か遊んだ事はあるでしょ?その時に大分気に入ってたのよ。『弟君の器用さはすごい』ってね。」


「なんか照れんね。」


「私はこう返してたけど。『ただの器用貧乏じゃない?』」


「褒めてよ。」


 スペックだけ見ると優秀な方なんだよ?なんせ友達曰くパ〇プロで言うところの全ステオールBの男だとか。……それ器用貧乏って事じゃね?


「アンタ別に今すぐバイト見つけなきゃいけないってほど金欠って訳でもないんでしょ?苦学生って訳でもないのに毎日バイト入れてたし。」


「まあ、しばらくは大丈夫だけど。」


 そもそもの話バイトを複数掛け持ちしていたのは、学費がどうだとか今すぐお金を工面する必要があるとかそういう話ではない。純粋に自分が自由に使うための金を稼いでただけだ。


「なら、応募してみれば?受かるかはしらないけど。」


「しかも受かるの確定じゃないんかい。」


「百パーコネは炎上し易いらしいわよ。」


 思ったより世知辛い理由だなー……。


「まあ、やるだけやってみればいいんじゃない?別に受からなくても死ぬわけじゃないし。さっきも言ったけどアンタ多分向いてるし受かるんじゃない?」


「……まあ、やってみるかー。わかんないまま終わんの面白くないもんな。珍しく姉さんが褒めてくれてるし。」


「いつも褒めてるじゃない。休日にアンタがいると楽だとか。」


そういうの便利な家電扱いじゃないんだよなー!」


 確かに料理とか好きだから勝手に作るけどね!


「……まあいいや。募集要項読んでみるわ。どの企業?」


「バーチャルアクト……だったかな?そんな感じの名前だった筈よ。」


 ほーん、バーチャルアクト……。なんか聞き覚えあんな。VTuber好きの友達が話に出してた気がする。かたかた。あ、これか。そうそう、確かVTuber業界の一番手とか……。え、俺それに応募すんの?


「……バーチャルアクト?」


「バーチャルアクト。」


「……。有名なやつ?」


「やつ。」


「本当に受かんの?」


「知らない。」


 おっと、終わったか?これ。

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