第27話【闇勇者SIDE】エルフ軍を撃退し、調子に乗る

「アスタロト様! エ、エルフ軍が! 今まで守勢に出ていたエルフ軍が攻勢にでてきましたぞ! わ、我々はどうすれば」


 報告に来た魔族兵が大慌てをしていた。ふっ……ださい奴だよ、そんな事で大慌てするなんてさ。これだから力を持たない雑魚は。余裕がなくて僕は嫌いなんだ。


「うろたえるな。これから、この闇勇者ハヤトが我々に実力を見せてくれるそうだ。今回のエルフ軍の攻勢はその実力を見せる場としてこれ以上ない、恰好の舞台となるであろう」


「は、はぁ……そうですか」


 魔王軍の四天王であるアスタロトにそう言われて、魔族兵は一応の落ち着きを取り戻した。


「なにも心配する必要はないですよ。サクッとやっちまいますよ。サクッと。安全なところで、遠くから離れて見ていてください。くっくっく」


 僕は魔王軍の陣営を抜け出し、エルフ軍の迎撃へと向かった。


                ◇

「エルフ軍だ! エルフ軍が来るぞ!」


「くう! 森に籠城し、我々が消耗してきたタイミングで攻勢に転じてくるとは、なんと卑怯な連中だ!」


 魔族兵は負け惜しみを言ってきた。


「我がエルフ国を侵略しに来た魔王軍に卑怯だのと言われる筋合いはないっ!」


「ぐあっ!」


 エルフ兵が魔王軍を斬り伏せた。魔族兵が短い悲鳴を上げて、絶命する。


「魔導士部隊! 魔法を放て!」


 エルフ軍の隊長らしきエルフが命令する。後衛には魔法を使用する為、エルフ軍の魔道士部隊が控えている。前衛を戦士系の職業が護り、後衛を魔法系の職業が務める。実にオーソドックスな陣形であった。


「「「『火炎魔法(フレイム)」」」」


「「「グ、グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」」」


 複数の魔導士により放たれた、紅蓮の炎に魔族兵の群れは焼かれていった。


「まだだ! 続いていけっ! 魔導士部隊っ!」


 エルフ軍の隊長に命じられるままに、魔導士部隊は魔法攻撃を連発する。


「「「『氷結魔法(アイスフロスト)』!」」」


 極寒の冷気が魔族兵の群れを襲う。


 ピキィ! ピキィ! ピキィ!


 悲鳴を上げる事すらなかった。極寒の冷気により、一瞬にしてその身が凍り付き、固まるのだ。その結果、多くの魔族兵の氷の彫刻が出来上がった。


「く、くそ! このままじゃ俺達は全滅だ」


「どいていろ、雑魚ども」


 前線に僕が姿を現す。


「誰だ! てめぇは!」


「確か、アスタロト様の傘下に加わった新入りだろ。新入りの上に、人間風情がでかい口きいてるんじゃねぇ! ぐ、ぐわっ!」


 僕は裏拳をかまし、黙らせた。勿論、死なないように手加減はしたさ。これでも一応は味方なんでね。


「雑魚は黙っていろ、殺されたいのか?」


「くっ……ううっ……こ、こいつ、強ええぞ……」


 僕に凄まれると、魔族兵達は押し黙ったのだ。


「大人しくそこで見ていろ。お前達なんて、今の僕にとっては邪魔でしかないんだからな」


 僕は単身でエルフ軍を相手にするのであった。


               ◇

「もはや、魔王軍、我がエルフ軍にとって恐れるに足らず! ……ん?」


 エルフ軍の隊長が俺の前で歩みを止める。他の魔族兵が後退していく中、僕だけが進行してきたので、不思議に思ったのだろう。


「き、貴様! なぜ一人でそんなところにいる! それに貴様は人間か! なぜ魔王軍につくのだ!」


 隊長は僕に剣を向けてきた。


「人間? ……そんなものはとうに捨てたよ。今では僕は完全に魔王軍の手の者さ」


「……そうか。だったらこちらとしても手加減をするつもりはない。しかし、一人でこの大軍を相手にするのは勇敢ではなく、蛮勇というものであろう! 我々、エルフ軍を舐めているのか!」


「クックック……蛮勇かどうか、試してみればいいだけの事だろ?」


「覚悟は決まっているようだな。弓兵隊、一歩前へ」


 エルフ軍の後衛には、魔導士部隊の他にも、弓兵隊がいた。弓矢による物理攻撃を仕掛けてくる部隊だ。稀にだが、魔法攻撃があまり効かない相手もいる為、その場合は弓兵隊がいると何かと都合がいいのである。


「射(う)て!」


 隊長の命令の元、僕に大量の矢が注がれていく。


 だが、その程度の攻撃、僕に僅か程のダメージも与えられなかったのだ。余りに防御力が違いすぎて、鎧に弾かれていく。


「なっ!?」


 隊長は絶句するが、すぐに思考を切り替えたようだ。的確に次の指示を出す。


「魔導士部隊、こいつに魔法攻撃を放て!」


「「「「『火炎魔法(フレイム)』!」」」」


 大勢のエルフの魔導士達が僕に向かって火炎魔法を放ってくる。紅蓮の炎が僕に襲い掛かってきた。

 

「やったか!?」


 隊長がフラグみたいな事を言ってくる。しかし、炎が治まった後には殆ど無傷の僕が姿を表す。僕の魔法防御力の高さと比較して、火炎魔法の威力が弱すぎたのだ。


「な、なんだと! こいつは化け物かっ!」


「ふっ……弱すぎるんだよ。くっくっく。そんな程度の魔法が僕に効くわけないだろ」


 僕は今までにない程の充実感を覚えていた。絶対的強者として弱者をいたぶる高揚感が全身を支配する。これ程気持ちいい事はない。


「……さて、それじゃあ、今度は僕の番といかして貰おうか」


僕は闇勇者としての力を行使する。


「『ダークウェイブ』」


 僕は魔法を発動させた。圧倒的な闇の波が多くのエルフ兵達を飲み込んでいく。


「「「ぐわああああああああああああああああああああああああああああああああ!

!」」」


「な、なんだと……い、一瞬で。あれほど大勢いた我がエルフ軍が……」


 僕の魔法の一撃で、エルフ軍は半ば壊滅状態になった。


「ふっ……手応えがないなぁ……まだやるつもり? 逃げるなら追わないよ。君達程度、僕はいつだって殺せるんだからね。くっくっく」


「くっ! 仕方ない! 撤退だ! 撤退!」


 エルフ軍の隊長は残った僅かな戦力を引き下げ、自国へ帰っていたのであった。


「気持ちいい、最高に気持ちいいよっ! 弱者を絶対的な力でなじる快感! 優越感! 実に最高じゃないか!」


 僕は誰もいなくなった戦場で一人、余韻に浸っていた。


 勝利の余韻ではない。これはもはや勝負ではなかったのだ。ただの虐殺である。


 虐殺の余韻に僕は浸っていたのだ。


「この力さえあれば、僕はこの世界に復讐を果たせる。果たせるんだよ!」


 僕の覇道を阻む者はいないように思えた。しかし、僕は思わぬ再会を果たすのだ。


 そう、僕が勇者として本来貰うはずだったチートスキルを手違いで貰ってしまった。


 あの『うすいかげと』とかいう、ただのモブキャラと。それとそいつに従える剣聖エステルと。


 思ってもいない再会を果たす事となる。






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