第26話 エルフ国に案内して貰う

「うっ……ううっ……」


 エルフの少女は呻いていた。俺達は傷ついているエルフの少女にポーションを一個使用した。


【※エルフの少女にポーションを使用した為、ポーションの所持数が11個→10個になります】


「……はっ……あ、あなた達は一体……私は魔族兵と闘っていたのでは」


 回復したエルフの少女は、意識を取り戻したようであった。だが、若干、記憶が混濁しているようだった。状況を飲み込めていないようだ。


「安心してください。魔族兵は私達が倒しました」


 エステルがエルフの少女に優しく語り掛ける。


「そうですか……私はあなた達に助けられたのですね。ありがとうございます。私の名はセシリアと申します」


 エルフの少女はそう名乗った。彼女の名はセシリアと言うらしい。


「俺の名はカゲト、それから彼女はエステルだ」


 俺達も名乗り返した。


「魔王軍とエルフ国が交戦しているのは聞いている……それに、旗色が悪くなっているという話も。俺達は君達の力になりたいんだ」


「あ、あなたはもしかして、異世界より召喚されたと言われる、あの伝説の勇者様なのですか?」


 セシリアは輝いた目で俺にそう聞いてくる。


「違う……俺は勇者ではない。だけど、異世界から召喚されたというのは本当の事だ。俺達を君達の国、エルフの国に案内して欲しい。エルフ王に会って、直接話をつけたいんだ」


 加勢をする上で、やはり上の者に話を通しておく事は大事な事であった。そうでないと味方だと思っていたエルフ側から攻撃される事もあるだろうし、協力をして貰う事もできない。


「話はわかりました……私に出来るのはエルフ国への案内だけですが、それで良いのでしたら」


「そうか……ありがとう。助かるよ」


「いえ。あなた達は私の命の恩人ですから。そのくらい、お安い御用です」


 彼女は笑顔でそう答えた。


「本来であれば、エルフ国に部外者を連れて行くのは禁忌ではありますが、あなた達は特別です。案内します」


 彼女は俺達にそう約束をしてくれた。こうして俺達はエルフの少女セシリアに導かれ、エルフ国へと向かう事になったのだ。


                  ◇

「一つ、聞いていいか?」


「は、はい。何でしょうか?」


「人間界における風の噂では、エルフ国と魔王軍の戦況は拮抗状態にあったはずだ。それが何で、急にその態勢が崩れたんだ? 魔王軍が新戦力の投入でもしてきたのか?」


「それが……」


 セシリアは表情を曇らせる。何やら、深い事情があるらしい。


「エルフ国と魔王軍との抗争は順調とはいえませんでしたが、おっしゃるようにある程度の拮抗状態にありました。エルフにはこの森による地の利と弓矢や魔法による攻撃もあります。むしろ拮抗状態はこちらの都合の良い方向に流れ始めていた節すらありました。——ですが」


 どうやら何かあったようだ。


「恐ろしい人間が魔王軍に加勢したと聞きました。私は直接、その人間を見たわけではありませんが。その人間が魔王軍に加勢した事で、エルフ国と魔王軍の拮抗状態は崩れていったのです。そして私が所属していた部隊も壊滅状態になり、私以外の仲間はもう——」


 セシリアは表情を歪ませる。辛い出来事や悲しい出来事があった事を容易に察する事が出来た。


 恐ろしい人間が魔王軍に加勢したのか。何だか嫌な予感がした。この時の俺にはまだわからなかったが、後にこの嫌な予感は的中する事になる。


 迷宮のような森を抜ける。長い時間、俺達は歩いた。


「ここがエルフの国です」


「何もないじゃないか」


 今まで通り、同じような森が続いているだけである。


「視覚を妨害する結界が張られているのです。特別な魔法を使うか、マジックアイテムがないと視認できるようになりません。今、結界を無効化します」


 セシリアは魔法石を取り出した。輝かしい石。彼女が先ほど言っていたように、結界を無効化するマジックアイテムなのだろう。


 セシリアは呪文を唱えた。聞き取れない呪文。その呪文により、魔法石は輝かしい光を放った。


 すると、目線の先には木々の中で暮らす、エルフの人々の姿が見えるではないか。

 

「……あれがエルフの国か」


「そうです。王城はこちらになります。案内しますのでついてきてください」


 俺達がエルフの国に入国すると程なくして、再び結界が張られる。


 こうして俺達はエルフの国に入る事ができたのだ。



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