第16話 【勇者SIDE】盗賊に身ぐるみを剥がれる

「あのクソ女神めっ! クソ女神めっ! クソッ!」


 僕はぶつくさと文句を言いながら、あてもなく道を歩いていた。僕にはもう、目指すべきものなど何も残ってはいなかったのだ。こんなスキルも何も授けられなかった僕が魔王を倒す事など夢のまた夢である。


 そんな時の事だった。この異世界『ユグドラシル』に来てからというのも、良い事なし、災難続きの僕であったが、その災難はこれからもまだまだ続きそうだった。


 ガサゴソッ。


「ん? なんだ?」


 物音がした。僕は一瞬、野生動物が動いた音かと思ったが、そうではなかった。草陰から現れたのは、数人の男達であった。

 男達は明らかにゴロツキといった感じの、ろくでもない連中だった。ナイフや鉈のような武器で武装した明らかに危険な連中だ。


「へっ……兄ちゃん。俺達は盗賊をやってるんだ」


「言うまでもねぇ事だけどよ……有り金と持ってる装備やアイテム、全部置いてけ。そうしたら命だけは助けてやるよ」


「……ふざけるなっ!」


「あん?」


「ふざけるなっ! ふざけるなっ! ふざけるなっ! あのクソ女神の落ち度でスキルを授けられなくて、異世界での人生を真っ逆さまに転げ落ちている僕に、これ以上酷い仕打ちをするつもりなのかっ! お前達は鬼なのか! 悪魔なのかっ! 慈悲ってもんはないのかっ!」


 僕は嘆いた。実に悲しかった。神様の理不尽な仕打ちに……。あまりに酷いではないか……そう、投げかけたくもなった。


「何をわけのわからない事言ってるんだ、いいから、命が惜しかったら装備とアイテム、それから有り金全部置いていけ。なっ?」


「ふざけるなっ! ふざけるなっ! ふざけるなっ!」


 僕はヤケクソになって、鉄の剣を抜いた。


「こ、こいつ、やるっていうのか!」


「ふざけんなっ! 目に物を見せてやるぜっ!」


 こうして、勇者である僕と盗賊団との闘いが始まった。

 

            ◇


「ぐほっ! がほっ!」


 盗賊の拳が僕の腹に突き刺さった。


「へっ! こいつ、てんで話にならねぇ! 弱すぎるぜっ!」


「ち、ちくしょう……」


 僕は膝から崩れ落ちた。多勢に無勢。僕のLVが低く、スキルもない為、対抗しようにもどうしようもなかったのだ。


「ご、ごめんなさい……も、もう抵抗はしません。装備もアイテムもお金も上げます……だ、だから命だけは助けてください」


「ちっ……最初から大人しく渡してりゃあいいんだよ、坊主」


「そうそう……俺達だって鬼じゃねぇんだからよ、鬼じゃ」


 身ぐるみをはぐ盗賊なんて鬼みたいなものだと僕は思ったが、口には出さない事にした。余計ひどい目に合うのは目に見えていたからだ。


 こうして僕は盗賊に武器と装備をはぎ取られ、お金も奪われ、最初からスキルもない上に、何一つとしてなくなってしまったのである。


======================================




日向勇人 16歳 男 レベル:1




職業:勇者




HP:5




MP:5




攻撃力:5




防御力:5




素早さ:5




魔法力:5




魔法耐性:5




運:5




装備:鉄の剣※攻撃力+20 鉄の鎧※防御力+20 →盗賊に奪われなくなる




資金:10000G ※剣聖エステルがモンスターを倒して稼いだお金→盗賊に奪われなくなる


スキル:特になし



アイテム:ポーション※回復力小×10 エーテル※回復力小×10 → 途中で使ったりした分もあるが、基本的には盗賊に奪われなくなる


勇者の剣※勇者が装備できるとされている剣。不思議な力を秘めている。攻撃力+10。LVによって攻撃力が増加する→剣聖エステルが持っていった


======================================


 こうして僕はありとあらゆる物を失い、ただ一人で立ち尽くす以外になかったのである。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る