第10話 「目的の店」

 開放された屋上。人が落ちないように金網が外縁部に取り付けられている。ぽつんと置かれたベンチに座って、俺は弁当の蓋を開く。


「で、話はなんだ?」


「蒼樹さんは今日、放課後に一二三さんと遊びに行くじゃないですか。そこに私もついていこうと思って」


「今さらっと言ったけどなんで俺が遊びに行くことを知ってんだよ」


 しかも、誰と行くのかも把握されている。蒼樹の頭には一つの推測が浮かぶ。


「もちろんサンタアイテムです。蒼樹さんの発言は逐一聞かせてもらってます」


「もちろんじゃねえよ。なんでもありすぎるだろお前」


 当たってほしくない推測がものの見事に当たってしまう。俺にプライベートはないというのか。


「ともかく、私も付いていくことに決めたんですけど、そこで蒼樹さんに聞きたいことがありまして。一二三さんに蒼樹さんの気持ちを打ち明けても良いでしょうか」


「なんで、そうなったんだよ」


「協力者は一人でも多い方が良いからです。それに、一二三さんは口も堅そうですし」


「まあ、あいつは普段適当だしふざけてるけど、秘密はちゃんと守ってくれるからな」


 だからこそ、俺も一二三を良い友人だと思ってるし、交友関係を守っている。


「そういうことです。いかがでしょうか」


 協力者が多い方が良いというのは俺も賛成だった。現状、恋愛経験がない芽依からしか意見が出てこない。一二三の恋愛経験は聞いたことがなかったが、全く別の視野から意見を言ってくれる人も大事だろう。


「芽依の言う通りかもしれない。ちょっと恥ずかしいけど、打ち明けるのもありだな」


「でしょう。ということで、今日の放課後、一二三さんと一緒に作戦会議です!」


 こうして俺達は美佐と付き合うための作戦を立てることになった。



「あたし、先に帰るね。また明日」


 授業が終わり、美佐が俺にそれだけ伝えて出ていく。美佐の背中を見届けて、寝ていたままの一二三を起こす。


「ん……もう授業終わりか」


「お前、せめて授業終わりの挨拶くらいは起きろよ。先生にバレなかったから良かったけどさ」


「深い眠り過ぎてマジで声聞こえなかった。先生の声聞こえてたら起きてたよ? 多分」


 声が聞こえても起きていたか確実じゃないという恐ろしさ。一二三の睡眠欲は俺の想像を凌駕していた。


「ふわぁあ……まだ眠い」


「寝ぼけて帰り道で事故るなよ」


「だいじょーぶだいじょーぶ」


 寝ぼけている一二三を連れて、芽依を探す。丁度俺達のクラスに向かってきていた芽依と合流し、学校の外に出る。


「そういえば、初めましてですね。一二三さん。私の名前は芽依と言います。蒼樹さんからあなたのお話はかねがね」


「どうも……おい蒼樹。お前こんな可愛い子と知り合いだったのかよ」


「知り合ったのは最近だけどな。で、目的地はどこなんだ?」


 辺りに視線を向けながら歩く。学校近くの商店街は少し前までクリスマス仕様の飾りつけをしていたが、クリスマスも終わり、色々と撤去されている。年末に向けて大特価セールをしているところもあるようだ。


「商店街の中に隠された無名の名店。どうやらラーメンを提供しているらしい」


「無名の名店って矛盾してないか?」


「いや、そうでもないらしいぞ。オレも親父から話を聞いただけだから詳しいことは知らないけど」


 広い通りから少し外れて、小道を歩く。成人男性の肩幅くらいの道を越えた先にそれはあった。


「なるほど。無名の名店……そういうことか」


 その店の暖簾には、名前がなかった。どこを見ても店の名前らしきものがない。


「美味しいと評判が出るほど人気だけど店そのものに名前がない。無名ってそのままの意味だったんですね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る