クリスマスに願い事したら美少女サンタが自分をプレゼントしてきた。

やのもと しん

第1話 「プレゼントは私」

 ――その時目の前に現れたのは、サンタクロースだった。真っ先に目に入ったのは長くて綺麗な白髪。その上に乗る赤い三角帽子。先端に白いポンポンが付いている。赤と白でデザインされた服、下半身はミニスカートのようになっている。

 今、俺の目の前に現れたサンタクロースは美しい女の子だった。


「あれ、起きてたんですね? 蒼樹さん」


「なんで、俺の名前を……?」


 窓を開けて入ってくる不法侵入者。少女は何故か俺――半田はんだ 蒼樹あおきの名前を知っていた。


「私はなんでも知ってるんですよ。だってサンタですもん」


「いや普通に不審者ですよね?」


 少しだけ冷静さを取り戻した俺はなんとかツッコミを入れる。人の家に許可なく入るのは犯罪だ。法律に詳しくない俺でもそのぐらいは分かる。


「ふっふっふ。今日はなんの日か知らないのですか? 蒼樹さん」


「クリスマス……だろ?」


 今日は十二月二十五日。子供たちにお爺さんがプレゼントを渡す特別な日。俺の前にいるのは、お爺さんとは似ても似つかないサンタだが。


「クリスマスにサンタが他人の家に入るのは正当な権利です! ……多分」


 とんでもない超理論を自信満々の言う少女。


「で、そのサンタクロースがなんの用だよ」


「もちろん、プレゼントを渡しに来ました。さてさて、蒼樹さんが欲しいものはなにかな?」


 少女が俺の部屋を歩き回る。なにかを探しているようだった。


「流石に高校生にもなって靴下置いてたり欲しいものをメモってたりはしてなさそうですね……って、今なに隠したんです?」


 俺は枕元にあったそれを自分の背後に隠す。それを目ざとく見られ、言及される。


「てい」


 素早く俺に近づいてきた少女。それに戸惑っている内に後ろに隠されたものを奪われる。それは、


「靴下……私が言うのもなんだけど、高校生でサンタを信じてる人って実在したんだ……」


「うるせえな! もういいだろ! 帰ってくれよ!」


 サンタ姿の少女に煽られて顔が赤くなる。


「良くないですよ。サンタは子供たちに夢と希望だけじゃなく、プレゼントを渡すのがお仕事ですから」


「子供って歳じゃねえだろ」


「別に外見年齢だけの話じゃないですからね〜」


「今サラッと俺の精神年齢が子供って言ったな」


 あまりに自然すぎる罵倒。だけど、靴下を置いていただけに反論しても弱い。


「この様子だと、靴下の中に欲しい物リストとか入ってそう。…………あ」


「……」


 その瞬間、部屋の中に気まずい空気が流れる。靴下の中に小さな紙切れが入っていたからだ。

 正直、それが見つかる前に靴下を奪い返したい気持ちはあった。そうしなかったのは女の子相手に力づくの手段を使いたくなかったのと、中まで詳しく見られないだろうと楽観視していたからだった。


「これって……」


 二つ折りにした紙を広げた瞬間、少女が驚く。その紙切れに書かれていた文字は――



 ――『彼女欲しい』



「「……」」


 中身を読んだ少女が「どうしよう」とこちらに助けを求めてくる。いや、俺の方が聞きたいが。


「蒼樹さんってこんな感じの……」


「それ以上言うな」


 なにを言いたいのか分からないけど、絶対碌なことじゃない。


「うん、まあ、その……どうしましょうか、この空気」


「もう許してくれ……」


 同情のような視線が痛い。帰りたい。ここ自宅だけど。


「私もサンタ歴が一日なので、彼女は用意できてないですね」


「持ってきてたら怖いわ。ていうか、サンタ暦一日って、ほぼ一般人じゃねえか」


「本当はお父さんがサンタの予定だったんですけど、ぎっくり腰で動けなくなったので代理として私が来たって感じです。……そんなことより本当に、どうしましょう。あ! そうだ!」


 真剣に悩んでいる少女。と、直後なにか閃いたように手を叩く。


「蒼樹さんにプレゼントを差し上げましょう!」


「そういうのもういいって……色々ありすぎてお前のサンタごっこに付き合う元気ねえよ」


「ごっこじゃありませんよ!? って、私が言いたいのはそんなことじゃなくて、差し上げるんですよ! 『彼女』を!」


「……は?」


 理解が追いつかない俺は間抜けな声をあげてしまった。


「そう! 私――花森はなもり 芽依めいが蒼樹さんの彼女になります!」


「……は?」


 なにを言っているのだろう。芽依の言葉を理解できない俺の耳に、またも衝撃的な言葉が聞こえる。


「つまり、プレゼントは私……ってことですよ!」


 ――とんでもない展開になってしまった。

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