人面犬おじさん、OLを救う
コール・キャット/Call-Cat
人面犬おじさん、OLを救う
‐1‐
『お前の代わりなんてな、いくらでもいるんだよ! 分かったらさっさと現場に戻れ!』
そんな辛辣な言葉をこの半年だけで一体何回聞いたことだろうか。
今日も昨日も一昨日も、その前の日も先週も先月も……思い出そうとするうちに頭が痛くなってくる。そんなやるせなさと無気力感にまだ二十代も後半に差し掛かったばかりの新人OLの新原
そこに広がるのは一面真っ黒な闇。闇。闇。
どこからともなく吹き付ける、夏の名残を感じさせる生ぬるい夜風に揺られさざめく木立はどことなく悪態を吐く上司のような言い知れぬ圧迫感をもたらしてくる。
「っ」
そんな圧迫感をもたらす木立にか、それとも生ぬるい夜風にか、肩を震わせ身を小さくする新原は覚束ない足取りで一歩、また一歩と暗闇の奥へ奥へと進んでいく。
そうしてしばらくの間木立の間を縫うように歩み続け、不意にその歩みを止めると今度はきょろきょろと周囲に視線を巡らせ始めた。
それはまるで迷子の子供が親を探すようでもあり、
天敵の気配に怯える小動物のようでもあり、
人の目を避け、誰もいないことを念入りに確認しているようでもあり、
そのくせ誰かが引き留めてはくれないかと、密かに期待しているかのようでもあった。
やがてその視線は他の木々からは少し離れ、まるで一人立ち尽くすように伸びている一本の太い木へと向けられた。
「これなら……いけるかな」
ぼそっと呟いた声は彼女が思った以上に暗い森の中に響き渡る。ハッと息を飲み口を噤むこと数秒。新原はその場にしゃがみこむといそいそと鞄を漁りだした。鞄の中から出てくるのは縄。封筒。ポケットサイズの折り畳み椅子。
「……まぁ、さすがにこれは使わないだろうけど」
誰に聞かせるでもなく呟きながら取り出したのは薬らしきものが入った小瓶。
それらを地面に並べ終えると新原は「よしっ!」と立ち上がった。
その直後だった。
「おいおい、こんな時間に一人ってのは不用心すぎやしないかい、姉ちゃん?」
「え!? 誰!?」
突然の声に驚きながら振り向く。しかし声がしたはずなのにそこには誰もいなかった。
それが余計に恐怖を煽った。
「う、うそ? も、もしかして幻聴、だったのかな……」
「んなわけあるか。こっちだこっち」
「え──?」
心を落ち着かせる余裕もなく投げかけられた声に導かれるまま視線を落とし──我が目を疑った。
そこに居たのは顔に深い皺を刻んだ中年男性──の顔をした犬、だった。
「おうおうおう、随分とまぁ景気の悪いツラをしてんなぁ。いかにもって感じがぷんぷんするぜ」
「い」
「い?」
それは誰もが一度は噂程度に聞いたことがあるだろう存在にそっくりだった。
いや、そっくりというより、そのものだった。
人の顔をした犬。
つまり、それは……
「いやああああああああああああああああああああああああ!」
それを理解した直後、新原の恐怖は限界を迎え、つんざくような悲鳴を上げながら地面にくずおれるのであった。
‐2‐
森の中で意識を失って、気付けばうっすらと夜が明けたらしい。新原は木立の隙間から差し込む柔らかな日差しを受けて目を覚ました。
「うっ、うぅん……あ、さ? わたし……どうして?」
なんか、とてつもなく恐ろしいものを見たような気が……
そんな風に新原が昨夜起きた出来事を思い出そうと身を起こしかけた、その時だった。
不意に顔に陰が差した。というのも
「おう、起きたか」
「ひっ!」
見覚えのある中年男性の顔がぬっとこちらを覗き込んできたからである。
その深い皺の刻まれた顔を見た瞬間、昨夜何があったのかを瞬時に思い出してまた叫びそうになる新原の口を中年男性の顔をした人面犬は間髪入れずに前足で塞いだ。
「また叫んで倒れられちゃ話が進まん。いいな、姉ちゃん?」
「……! ……!」
こくこくと頷く新原を見て人面犬がゆっくりと前足をどかす。それでも声を出せずにいると叫ばれる心配はないと判断したのか、人面犬はゆっくりと顔を遠ざけると新原のすぐ傍にお座りのポーズで佇んだ。
それを見て新原は一瞬逃げるべきかとも考えたがすぐに考えを改めた。この場から逃げたところでその後どうすればいいのやら。──逃げついた先が
そんなどこか投げやりな気持ちでいるとそれまで黙り込んでいた人面犬が口を開いた。
「で? わざわざ念入りに準備なんざして、よっぽど嫌なことでもあったんかい?」
「えっ?」
「ロープに封筒に……ありゃ折りたたんじゃいるが椅子か? あんな時間にそんなもんを揃えて一人なんざ、おっさんの頭でも首を括ろうってのは察しがつくさ」
「は、はぁ……」
なんで人面犬にそんなことを聞かれてるんだろうか。理解が追いつかずに答えると人面犬は「いつの時代も変わらねぇな」とぼやいた。
「姉ちゃん、新卒か?」
「そうですけど……」
「なるほどなぁ。人間関係か?」
「えっと、その、まぁ……はい」
言って、脳裏に上司の顔がよぎって鈍い痛みが頭を襲い表情が歪む。そんな新原のわずかな表情の変化を見逃さず、人面犬はさらに言葉を重ねる。
「つらかったんだな」
「え?」
思いもよらない一言に新原は一瞬何を言われたのか理解が出来ず、じっと人面犬の顔を見返した。そんな視線を受けて人面犬は「あんま見つめられると照れるぜ」とほくそ笑みながら毛繕いをするような所作で顔を拭った。
「まぁ、冗談はさておき。そういうのは一人で抱え込んじまうもんだからなぁ。んで、それを抱えきれなくなったやつが追い詰められて……ってのはいつの時代も珍しくねぇ」
「そう、ですね……?」
その珍しくもなかった側の人間として何と返したらいいのか分からず、つい疑問形になってしまった。そんな新原に人面犬は気を悪くした様子もなく「おじさんもなぁ」と話を続けだした。
「おじさんもなぁ。どうしようもなく生きるのがつらくなって、いっそ死んじまった方が楽なんじゃねーかって思ってよ」
「あっ。まさかそれで死んで人面犬になったとか?」
「いやこれは生まれつき」
「生まれつき!?」
衝撃的な答えに思わず身を起こすと人面犬は「そんな驚くことか?」と半目になりつつ新原を見据えた。そんな彼に謝りつつも一度沸き上がった好奇心は簡単には収まらない。新原は半ば人面犬に詰め寄るような態勢になりながら疑問をぶつけていく。
「生まれつきってことは、ご両親も人面犬?」
「どうだろうなぁ。おじさんは物心ついた頃から残飯を漁ってたからよ、親の顔なんざ想像もデキねぇや」
「そ、そうなんですね」
人面犬はオカルトらしく自然発生する存在なのか、はたまた動物らしく産まれてくる存在なのか、その答えを知るチャンスだと思った新原だったが、遠い目をして語らう人面犬にそれ以上何も言えなかった。というかさらっと話してくれたけど物心ついた頃から残飯を漁っていたというのは中々ハードすぎでは?
そんな新原の返事に何か察したのか、人面犬は「湿っぽくていけねぇな」と言うと立ち上がりほんの少しだけ距離を置く。
「ついてきな。こんなとこで死のうとしてたぐらいだ、碌に食ってないだろ」
「ま、まぁ……」
言われて、そういえば昨日は昼食を食べてからというもの何も口にしていなかったことを思いだした。思い出して、胃が「くぅ」と子犬のように鳴る。
それを耳ざとく聞きつけて、人面犬がニンマリと笑った。……顔が濃い中年顔だからか、ニンマリというよりはニチャアという擬音が聞こえそうではあったが。
「図星だな。だが空腹を感じるのは生きようとしてるなによりの証拠だ。恥ずかしがることはないぜ」
「は、はぁ」
「じゃ、行くか」
お腹が空いているのは事実だったし、なんだか得意げな人面犬のことが気になって新原はとりあえず人面犬の後について行くことにした。傍に置いていた鞄をそそくさと抱きかかえながら人面犬の隣に並ぶ。
「あ、そうだ。一つ聞きたいんですけど、お名前って?」
「んー? あー、名前、名前ねぇ。今まで気にしたこともねぇからなぁ……まっ、気軽に〝おじさん〟って呼んでくれ」
「おじさんですか……」
なんというか、あまりにもそのまますぎて気が引けたが、当の人面犬がそう言っているのだからと新原は意を決して口を開く。
「おじさん」
「おぅ、なんだい姉ちゃん?」
「ご飯って言ってましたけど、なにを食べるんですか?」
まさか、虫とか蛇とか? と食べるには勇気のいるものを想像してしまい、出来ることなら今のうちに覚悟を決めておこうと尋ねた新原に人面犬改めおじさんは「あぁ、それはな」と返す。
「これさ」
おじさんがそう言った瞬間、不意に視界が開けた。
薄暗かった森の中とは対照的に、朝陽が射し込み明るいそこは水の流れが耳に心地良い、小さな川だった。
おじさんに連れ立って水面に近付けば、朝陽を受けてキラキラと輝く水の中をいくつもの影が泳いでいるのが見て取れた。
「魚?」
「おうとも。まっ、泳いでる連中を捕まえるのはコツがいるからな、姉ちゃんは火起こし用の枝を集めてくれねーか?」
「わ、分かりましたっ!」
おじさんの言葉に頷きながら新原は踵を返して川と森の境目へと駆けて行った。
地面に落ちている程よい太さのそれらを拾いながらちらりとおじさんの方を振り返ってみるとおじさんはバシャバシャと水の中で豪快に走り回っていた。その姿を見て、「よし!」と気合を入れ直しながら地面に向き直る。──が。
《よっ》
そんな軽快な声が聞こえてきそうなぐらいごく自然に、なんだかよく分からない虫の幼虫が視界に映った。めっちゃ太かった。ぶっちゃけ気持ち悪いを通り越して怖いぐらいに。
「ぎゃあああああああああああああああ!?」
瞬間、脳に稲妻のような嫌悪感が走り抜ける。それだけでは目に焼き付いてしまった姿への恐怖心が和らがずおじさんと出逢った頃と同じ、いやそれ以上の悲鳴を上げてしまった。
「おい、どうした!?」
それを聞きつけて、川から飛び出してきたらしいおじさんの声が聞こえてくる。その声にハッと我に返りながら新原は「いやいや、たいしたことじゃ!」と振り向き、盛大に噴き出した。
「ぶふっ!? お、おじさん!? ほっそ!」
川に入っていたからだろう、濡れて毛がべっとりと張り付いたおじさんは別人なんじゃないかと疑わしくなるぐらいに細身になっていた。
「むっ。心配させといてそれはないだろう……」
「ご、ごめんなさい! ちょっと虫にびっくりしちゃって!」
しゅんっと耳ごと項垂れるおじさんにわたわたと弁解しながら謝るとおじさんは「虫?」と小首を傾げる。
「あそこにデッカいのが……」
もう一度あれを直視するのは脳が拒否するので大雑把な居場所を指さすとおじさんはのっしのっしとその場に歩いていくとふんふんと鼻を引くつかせた。
「むぅ? こりゃ……あぁ、これか。こいつは駄目だな」
「で、でしょ?」
「あぁ。毒を持ってるタイプだ。たいしたもんじゃないが、魚の餌には使えんな」
「えっ」
おじさんの「駄目」発言に安堵したのもつかの間、思っていた意味とは違った「駄目」の意味に思わずそんな声が漏れてしまった。そんな新原におじさんは何故か口元を舐めながら振り返ると
「その枝の数なら火起こしにゃ充分だ。火起こしのやり方は教えてやるから火の用意をしてもらえるか」
「……あの、その前に一つ聞きたいんですけど」
「おう、なんだ?」
言いながらべろん。ともう一度舌なめずりをするおじさんに新原はおずおずと問い質す。
「あの虫……どうしました?」
「ん? あー……まぁ、な?」
どうも歯切れの悪い言葉が何よりもあの虫への処遇について如実に語ってしまっていた。
それを受け新原もそれ以上は深く追及はせず、また深く考えることを止めて火起こしのやり方を教えてもらうと黙々と火の用意を進めていくのだった。
‐3‐
「姉ちゃんにゃやっぱ暗い顔は似合わねーな」
「へ?」
おじさんに教わった通りに火を起こし、おじさんが捕まえてきた数匹の魚をじっくりと焼いている時だった。おじさんが不意にそんなことを言ってきたので新原はすっとんきょうな声をあげてしまった。
そんな彼女におじさんは「変な顔だな」と言って笑うとふと視線を木立の向こう側へと向けながら
「昨日、おれが見かけた時にゃほんと思い詰めてったやつ特有のしけた面してたからなぁ。なんっつーんだ、死んだ魚の目?」
そう言われてどちらからともなく焚き火で焼き上げている最中の魚をちらりと見やった。火が通ったそれはタンパク質が固まって白くなっている。
自分の想像したそれと視線の先にある魚のそれがあまりにも想像してたのと違ったからかおじさんはくつくつと笑うと
「魚を前にする表現じゃなかったな。まぁ、なんだ。つまりはよ、能面みたいな顔してたんだよ、姉ちゃんはよ」
「あー」
なんとなく言いたいことが分かって新原が間延びした声を上げるとおじさんも手応えを得たのか話を続けていく。
「だが今は良い顔してるぜ、昨日より全然良い」
「あ、ありがとうございます……?」
正面切って褒められるのはあまり慣れていないせいでぎこちない返事になってしまった。
そんな新原にすらおじさんは嬉しそうに「良いってことよ」と笑う。笑って、先ほどよりも香ばしい匂いを漂わせるようになった魚をあごでしゃくる。
「そろそろ食べ頃だな。姉ちゃんは腹空いてんだし一番デカいのを食べな」
「いいんですか? 獲ったのはおじさんなのに」
「そんなこと言ったら火を起こしたのは姉ちゃんだからな。それに若いもんがそうなんでもかんでも遠慮するもんじゃねぇよ。向けられる好意にゃ難しいこと考えずに甘えるのが丁度良いんだよ」
「じゃ、じゃあ……頂きます」
そう言ってこちらの顔を見据えてくるおじさんに新原はおずおずと遠慮がちに手を伸ばすと一番大きい魚を手に取った。
ぷっくりと膨らんだお腹は見るからに肉厚で焚き火に焼かれた皮はパリパリと音を立てるほどに焼きあがっている。
「えっと……」
こんな風に食べるのは初めてでどうやって食べたものかと思案しているとおじさんがごそごそと顔を動かすのが目に入った。両端を手で抑え、真ん中にかぶりつく動き。
見よう見まねでお腹にかぶりつく。想像通り、いや、想像以上の美味しさが口に広がり目を見開く。そしてそのままさらに一口、もう一口と頬張っているうちに気付けばあっという間に食べきってしまった。
「はっはっはっ! いいねぇ、いい食いっぷりだ! ほれ、もう一本食え食え!」
「は、はい!」
嬉しそうに笑ってさらに勧めてくるおじさんにこちらも弾むような返事を返しながら二本目に手を伸ばそうとして──不意に着信音が鳴り響いた。
「んっ、電話かい?」
「そうみたいです。……うぇっ」
おじさんに答えつつスマホを取り出した新原の表情が曇る。画面には『職場』の二文字。
どうやらおじさんと過ごしているうちに出勤時間をとうに過ぎてしまっていたらしい。
「……出にくいんなら見なかったことにするってのもありなんじゃねーかね」
「──。……いえ、大丈夫です」
おじさんの案ずるような言葉に新原は逆に決心がついたのか、ゆっくりと首を振ると深呼吸を一つ。わずかに震える指で画面をタッチした。
「も、もしも
『新原ァ! お前、何の連絡も無しになにしとる!? さっさ来んかい!』
キーンッ!と鼓膜が破けそうな勢いで放たれた罵倒に思わずスマホを遠ざけてしまった。
それでもまだスマホからはギャアギャアと上司の罵詈雑言が聞こえてくるのがひたすら恐ろしい。
「あ、あの、本当すみません。そのことなんですけど……」
『ああん? まさか当欠とか言うんじゃないよな!? ええからさっさと』
「わたし、今日限りで辞めさせてもらいます!」
『は?』
「は?」
新原の放った一言に電話越しの上司どころか隣で成り行きを見守っていたおじさんまでが間の抜けた声を上げていた。が、それもほんの一瞬のことで電話の向こう側では上司が悲鳴にも似た怒声を上げて捲し立ててくる。
『おま、おまお前! 今なんって言った!? 辞める!? 辞めるだ!? そうやって強請ったとこでこっちは構わんのやぞ、お前みたいなん代わりはなんぼでもおるからなぁ!』
「ということなんで失礼します! はい!」
『あ、おい! 待』
ピッと通話終了ボタンを押して一秒、二秒、三秒……画面上の時間が切り替わったのを確認してようやくスマホを地面に放るようにして手放した。
「……随分と思い切ったなぁ、姉ちゃん」
「は、はは。今になってドキドキしてきました」
へ、へへっと引きつった笑みを浮かべる新原の表情はしかし、微塵として後悔した様子は無い。むしろ「言ってやった」と言わんばかりに清々しく、晴れやかなものだった。
「仕事が嫌で死ぬつもりだったわけだし、だったら思い切って辞めても変わりないかなって」
「へっ。だな」
笑って、食べ損ねた串焼きに手を伸ばしつつ新原はさらに続けた。
「おじさん、知ってます? 今って転職とか珍しくないんですよ。それこそ転職するためのサイトとかも今凄いですし」
「へぇ。そうなのかい」
「なんなら辞めるために本人に代わって退職の手続きをする仕事とかもあるんですよ?」
「は? 本人に代わって? そいつぁすげえな」
「凄いですよね」
おじさんも知らない知識を披露しながら魚にかぶりつく。かぶりついて幸せそうに表情を綻ばせる新原におじさんもつられて笑みを浮かべた。
「もう大丈夫そうか?」
「んっ。なんとか。まぁ大変なのはこれからなんですけどね」
「ちげーねー」
くっくっと笑うおじさん。そんなおじさんの横顔をじっと見つめながら、新原は不意に姿勢を正すとゆったりと頭を下げた。
「昨日は助けてもらってありがとうございました」
「いいっていいって。おじさんが勝手に声かけただけだからな。照れるから頭上げてくれ」
「ふふ、わかりました。それでなんですけど……」
「なんだ? この際だ、とことん付き合ってやるから言ってみな」
本当に照れているのか、仄かに赤くなった顔を背けながらぶっきらぼうに返すおじさんに新原はちらっと地面に放ったスマホへと視線を向け、
「わたし、お仕事も辞めて暇なんで魚の捕まえ方教えてもらっていいですか? お礼におじさんにももっと食べてもらいたくて」
「へっ。そんなもんお安い御用よ。なんなら食える虫の見分け方も教えてやろうか?」
「それは結構です」
「ふっ。くくっ、そうかそうか。ふふ、虫は無理か」
「ふふ、さすがにまだ。まぁ、食べるものに困った時にはお願いしますね」
にやりと笑うおじさんに新原も笑って返す。そしてどちらからともなく笑いだした。
頭上に広がる青空のように、どこまでもどこまでも響く羽のように軽やかな笑い声を。
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