コンビニ店員だったオレが異世界転生したらバイト先が神ってたので無理なく平穏に暮らす

四志・零御・フォーファウンド

異世界コンビニ研修編

深夜のワンオペは何かあった時に困る


「いらっしゃいませー」


 オレは業務マニュアルを拡大解釈して、感情の籠っていない薄っぺらい挨拶を済ませる。

 

 田舎に位置するこのコンビニは過半数が車での来店客。ましてや、平日のド深夜の来客なんて、トラックの運ちゃんが休憩がてらに寄るぐらいだ。そのほとんどは愛想の無いものだが、意味も分からず怒鳴る人なんてそうそういない。逆にそれが起こりうる昼間なんかと比べて精神的疲労も少ない。


「114番ください」


 頭に巻いたタオルと口ひげが特徴的な40代前後に見える男性客が来店していた。オレがシフトに入ってからこれで5人目の客だ。


「1点で580円になります」


「PAsuTAで」


「では、そちらにかざしてください」


 ピッ! という電子決済完了の音がしてレシートが自動的に出てくる。


 ひと昔前、と言ってもここ5年ぐらいの話だが、レジは全て手打ちだった。それが今では半自動ともいえる状態だ。都心部ではセルフレジを導入しているコンビニもあるそうな。コンビニでは、日々社会実験をしているというネット記事を読んだことがあるが、実際に的を得ているものだろう。


 子供から老人、貧乏から金持ち。様々な社会的立場の人間が小さな箱に集結する。世にも珍しい場所である。


「このままのお渡しになります。ありがとうございましたー」


 男性客は軽く会釈をすると、レシートとたばこを乱暴にポケットに突っ込んで自動ドアの抜けた。


 店内では名前だけ聞いたことのあるアイドルたちが店内放送を行っている。1週間は同じ内容が流れ続けるので、嫌でも内容を覚えてしまう。


 ワンオペ状態では話相手がいないので、耳にタコが出来る店内放送を聞き続けるか、隠れてスマホを触るしかない。


 納品トラックが来るまではまだまだ時間があるし、やはりスマホでも触っていようか。


 そう思ってバックヤードへ向かおうとしたところで自動ドアが開いて、おなじみの入店BGMが流れた。


「いらっしゃいませー」


 今度の客は杖を突いた、80代前後のおじいちゃんだった。どうしてまた、こんな人がこんな時間にやって来たんだ。これが深夜徘徊ってやつか?


 だが、外を見れば車が一台止まっていた。先ほどまでそこは空車だった。ガラス越しなので絶対とは言い切れないが、運転席には誰もいない。ということは、このおじいちゃんがこの車を乗って来たのだろうか。


「お兄さんや、北海道に行きたいんじゃが、どこへ行けば」


「えーっと、今からですか?」


「ああ、そうじゃ」


 うーん、おじいちゃん確実にボケている。


「どこから来たんですか?」


「神の世界じゃ」


「か、神……?」


 そっち側の人なのか。これは今までのお客さん史上最大にヤバい人だ。


「…………」


「……どうしましたか?」


「はて、どこかへ行こうと思っていたんじゃがな」


 駄目だこりゃ。最悪警察でも呼ぶしかないか。


「おじいちゃんは何しにコンビニに来たんですか?」


「そうじゃ、道を尋ねに来たんじゃった。沖縄にはどうやって行けばいいんじゃ」


「さっき北海道に行くって言ってませんでした!?」


「北海道? そうじゃった北海道じゃ。北海道の……なんと言ったか、オレゴン州に行きたいんじゃ」


「それはアメリカですけど!!!」


「カナリア吹けるぞい」


 どうしよう。会話が成立しない。こうなったらおじいちゃんには申し訳ないが、上手いこと帰っていただこうか。


「おじいちゃん、いまは夜中だからまた陽が昇ったら出かけませんか?」


「うーん、それもそうじゃな。助かったよ。また来るわい」


「ご来店ありがとうございましたー」


 二度と来ないで欲しい。


 自動ドアを抜けたおじいちゃんはそのまま徒歩で道に出ようとして、そこで思い出したかのように車へ向かった。しかし、本当にあの車の持ち主だったのか。


 何はともあれ、万事解決。あのおじいちゃんが今日一番の山場だろう。後はいつも通りスマホでも弄って、朝一に来る店長を待てばいい。


 監視カメラに映らない場所へ移動しようと一歩踏み出した時、それは

起こった。


 ぎゅいいいいいん!!!!というけたたましい音と、ガラスが粉々に割れる音。迫り来る黒い物体。


「おっさん、ふざけんなよぉ……」


 そして、意識はそこで途絶えた。


     *


 遠くから聞こえるサイレンの音。朦朧とした意識の中、視界に映るのは蜘蛛の巣を彷彿とさせるヒビの入ったフロントガラス。これでは外がどうなっているかもわからない。頭を右に捻るとカップ麺やお菓子、パンなどが床に散乱していた。


 老人は何が起こったのか分からなかったが、一つだけ分かったことがある。


「あれ? わし、なんかやってしまったかのぉ……?」




<あとがき>


更新遅いかもしれませんが、どうぞよろしく。

評価、コメント、ブックマークなど頂けたら幸いです。


あ、主人公の名前は ささささもり まさもり です。

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