第十九話 新しいスキル【刹那】

「もういいや! 行ってやる!」


 そして、やけくそになり、穴へと飛び込んだ。


「ちょっと待てよ、俺はどうやって着地すればいいんだ?」


 俺は、飛び込む前に考えるべきことを落下中に思い出した。

 かなりの高さがあるので、そのまま着地すると絶対にケガをする。

 優羽ゆうは能力値が高いので、難無く着地できるだろう。

 しかし、能力値の低い俺はどうしようもない。


「やばいぞ! このままだと、ただの足手まといになっちまうじゃねぇか!」

「仕方ない、一か八かやってみるぞ!」


 俺は、ピンチな時に使おうと思っていた最終奥義を、ここで使うことにした。


「覚醒だ!」


 俺がそう強く願うと、以前の様に目の前に画面が表示された。


 ~~~~~~


 覚醒をしますか?


 <はい> <いいえ>


 ~~~~~~


「うわっ、もうすぐで下に着いちまうよ! はい! はいはいはい!」


 地面が近づいているのを確認した俺は、急かすように承認する。


 ―ピコン


 ―覚醒が完了しました


「できたぞ! スキルは何だ?」


 ―ピコン!

 ―スキル 【刹那せつな】を取得しました


「終わった……」


 俺が取得したスキルは、使わなくてもわかる。

 絶対に着地を助けるものではない。


「もしかしたら、名前と全く関係ないものかもしれないし、一応使ってみよう!」

「スキル 【刹那せつな!】」


 ―ピュン!


「……」


 スキルを使うと、何かが下に向かって飛んでいったような気がしたが、それ以外には何も起こる事は無かった。


「あはは、やっぱり駄目でしたね……」

「わぁぁぁぁぁぁぁ!!! 死んじゃうよぉぉぉぉぉ!!!」


 俺はただ、大きな声で、叫びながら落ちることしかできなかった。


「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 地面は、もう目の前に迫っていた。

 あと数秒後には、俺は地面に落ちるだろう。


「もう、騒がしい人だわ。ほいっ」


 ―フワッ


「うわぁお!」


 近づいていく地面が、何故か止まったように見えた。


「これが走馬灯か……」


 死を目前にした俺は、穏やかな気持ちになっていた。


 ―ドンッ!


「イテテテ、あれ? 死んでないぞ? いや、ここはあの世なのか?」


 ―バシンッ!


「痛っ!」

「何言ってんのよ! 私が魔法で助けてあげたのよ!」

「そうだったのか! 助かったよ!」


 俺が止まったと感じたのは、優羽ゆうの風属性魔法の仕業だったのだ。

 なんとか死ぬことを避けることができ、下へと到着した。


「これくらい自分で何とかしなさいよ」

「頑張るよ。それで、この人たちが叫び声の元?」

「ええ、そうよ。それよりも、狼牙ボルクが迫ってるの!」


 優羽ゆうが下りた時には、既に狼牙ボルクは五人の目の前にいたようだ。

 五人は、俺が下りてくる前までは距離を取って戦いに備えていたらしい。

 そして、今も目の前に……


狼牙ボルクって、倒れているあいつが?」

「倒れてるって、何言ってん……の⁉」

「「「死んでる⁉」」」


 目の前にいると言っていた狼牙ボルクは、頭に一つの穴を開けて死んでいた。


しん、下りてくるときに何かした?」

「えっと、覚醒してから新しいスキルを使って……」


 ―ピコン



 ~~~~~~



 モンスターを倒しました

 経験値を7500獲得しました

 レベルが19上がりました


 レベル20/20 次のレベルまでの必要経験値0


 ~~~~~~



「なんか倒してるんだけど⁉ しかも、一体でレベル最大までいった!」

「気付いてなかったのね……」

「「「……」」」


 俺は、狼牙ボルクを倒した経験値を得た。

 Aランクと高いので、経験値も多く貰えて一気にレベルが最大にまで上がった。

 違うチームの五人は、その様子を黙って見ていた。

 すると、リーダーであろう人が話しかけてきた。


「助けていただきありがとうございます! 俺は悠斗ゆうとって言います。Cランクです。あの、あなたたちは?」

「俺は、見習いハンターのしんだ!」

「私も同じく見習いハンターの優羽ゆうです」


 俺たちは、自信満々に見習いハンターと言った。

 それもそうだ、まだランク検査をしていないのだから。


「「「見習いだって⁉」」」


 五人は、腰を抜かすほど驚いていた。

 五人は、俺たちを高ランクのハンターだと思っていたようだ。

 狼牙ボルクはAランク級だから、そう思うのも仕方がない。


「どうしてここに来たんだ? あ、ですか?」


 悠斗ゆうとは、敬語で話すかタメ口で話すか迷っているようだ。


「えっと、実は……」


 俺は、申し訳ない気持ちを持ちながら、正直に全てを話した。


「そうだったんですね! お陰で狼牙ボルクに襲われずに済みましたよ!」

「まあ、たまたまですけど……」

「謙遜しないでくださいよ。しんさんには本当に感謝してます! それに、たまたまで倒せるような相手じゃないですよ!」


 魔術師の女の子『有咲ありさ』が、深くお辞儀をして感謝の意を伝える。

 丸い瞳と二つに括った髪は、妹の咲良さくらに似てとてもかわいい。


「それほどでもー。えへへ。そんなことより有咲ありさちゃん、今度一緒に遊びに行こうよ!」

「え⁉ あ、え、えっと……」


 有咲ありさちゃんは、俺の急な誘いにオドオドしている。


「チッ、気持ち悪っ」

「えっ? 今、舌打ちしたよね? しかも小さい声で悪口まで……全部聞こえた……」


 そんなかわいい子に褒められた俺は、ついついデレデレしてしまい、ナンパのようなことまでしてしまっていた。

 その様子を見た優羽ゆうが、ボソッと俺を罵った。


「やばっ、無意識とは言え、好きな人のの前でナンパはマズいよ!」


 俺はやっちまったと深く反省した。


しんさんがいれば、安心して進めますね!」

「俺に任せて下さい。全て倒して見せます(キラーン!)」

「チッ、」

「あ、やべっ、またやっちまった!」


 頭では反省はしたものの、身体は言うことを聞かないようだ。


優羽ゆう、マジでごめん! 俺は、女の子に弱いんだよ!」


 今回のダンジョンで、優羽ゆうからの好感度はどれだけ下がるのだろうか。

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