第十二話 『平和』と『復讐』
「みんな、大丈夫だよね?」
「そうだと信じよう!」
「頼む! みんな、無事でいてくれ!」
俺たちは、家へと急いだ。
「はぁ、はぁ、ほとんどの家が崩壊してる」
「はぁ、はぁ、あと少しだ!」
俺たちの身体は、ダンジョンに潜ったせいで体力がほとんど無く、走る気力など残っていない。
しかし、家族の命の危険が、俺たちの足を前に出す原動力となっている。
家までの道のりでは、ほとんどの家が崩壊しており、下敷きになってしまった人や一人残された子供など、様々な悲しい姿が目に入り込んだ。
しかし、今の俺たちは助ける余裕もなく、ひたすらに家へと足を進めている。
そうして、家へと到着した。
「うそ、でしょ……」
「遅かったか……」
向かい合っている俺たちの家は、二つとも他の家と同じように崩壊していた。
「っ……ぅ……」
「
「おにぃぢゃん!」
―ギュ、
家の前に妹の
名前を呼ぶと、泣きじゃくりながら俺の胸に飛び込んできた。
それに、
そんな子が一人だったのだから怖いのは当然だろう。
「もう大丈夫だぞ。お兄ちゃんが
「っ……ぅ……おにぃぢゃん! お父さんとお母さんがぁ!」
「父さんと母さんがどうしたんだ⁉ どこにいるんだ?」
「あそこ……」
そう言うと、
「まさか、嘘だろ……」
「ぐぅぅ、ぅぅ」
「そこにいるのか⁉」
弱々しい声が、崩壊した家の方から男性の聞こえた。
そうして、声のする方を見てみると、瓦礫の隙間から腕が伸びていた。
「
「父さん! 今助けてやるからな!」
俺は、必死に瓦礫を動かそうとするが、とても重くて持ち上がらない。
それでも、諦めずに何度も持ち上げようとする。
父さんは、弱々しい声で話を続ける。
「父さんのことは、もういい。
「そんなことできるかよ!」
「父さんは、もうすぐ、死ぬ。たくましく生きなさい」
「そんなこと言うなよ!」
「……」
「父さん! 返事をしろよ! おい!」
「……」
見えている腕の力が抜け、ダランとなった。
それから、返事が返ってくる事は無かった。
「父さん……わかったよ。ありがとう」
「お兄、ちゃん?」
俺は、涙を堪えながら話す。
「
「え? 嫌だ、嫌だよ……」
「ごめんな……」
「うわあぁぁぁぁん!!!」
中学二年生にとって、この事実を受け入れるのは難しいことだろう。
顔をグシャグシャにして、大きな声で泣きだした。
―ギュ、
俺はただ、抱きしめてやることしかできなかった。
「
「わからない……」
しかし、その両親の姿が見当たらない。
「どこにいるの? パパ! ママ!」
いつになく大きな声で、両親のことを呼ぶ。
「
「よかったわ。無事だったのね!」
「パパ! ママ!」
「
―ボトン
―ボトン
―バタン
―バタン
「え?」
言葉が途中で途切れたと思うと、二人の頭だけが先に地面へと落ち、続いて身体が倒れた。
そして、上空から声が聞こえた。
「ハハハハハハ!」
「あれは、モンスターか⁉」
上空には、背中から生えている翼で飛んでいるモンスターがいた。
そのモンスターは、嬉しそうな表情で笑っていた。
「あなたが、パパとママを殺したの?」
「そうだ。この私、ガゼル様の力だ!」
「モンスターが話している⁉」
モンスターは、基本的に話せるほどの知能が無い。
しかし、ガゼルは馴れた様子で話している。
そのため、知性を持ったかなり強いモンスターだと分かる。
「許さない。許さない!」
「ほう、私と戦うというのか。いいだろう」
―ビュン!
それは、魔力が尽きているため、物理攻撃しかすることができないのだ。
「おりゃあ!」
「動きが遅いぞ」
―ドガァァン!!!
「
ガゼルは
そして、力強い蹴りで
「んん、んぐっ」
「まだ生きていたのか。まあいい、お前も死ね」
ガゼルがそう言うと、無詠唱で巨大な火の球の【火属性魔法
俺はただ見ているだけで、どうすることもできない。
このままでは、
しかし、ガゼルの圧倒的な圧に負けて身体に力が入らず、何もできないでただ座っていた。
「水属性魔法【
―ドガァァン!!!
ガゼルの放った
「チッ、Sランクハンターが来たか」
「Sランク?」
実はハンターには、S~Eのランク分けがされている。
単純にSが強く、Eが弱い。
「大丈夫か?」
「この子を連れて早く逃げて」
―バサン!
「
「パパ、ママ……」
「……行くぞ」
そうして、俺は
「パパ、ママ……」
「お父さん、お母さん……」
「……」
俺は、何もできなかった。
父さんを助けることも、
ましてや、モンスターを目の前にして、ビビって動くことすらできなかった。
「わあぁぁぁぁ!!!」
「っ……、ぅ……」
俺は、ただ、泣いている二人を連れて逃げているだけで、何もできいない。
「俺は……弱い……」
何が『俺が助ける』だ。『お兄ちゃんが守る』だ。
口だけで、何もできないじゃないか。
こんなんじゃあダメなんだ……もっと強くならないと。
「みんなが笑っていられる『平和な世界』のために、俺は強くなるんだ!」
ステータスが低くたって、関係ない。
俺は、強くならないといけないんだ。
そして、俺たちの大切なものを奪ったあいつらに……
「『復讐』をしなければならないんだ!」
―ギュッ、
拳を強く握りしめ、俺は覚悟を決めた。
ここから、一人の青年の『平和』と『復讐』を目指す物語が幕を上げる。
「絶対に成し遂げて見せる!」
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