第四話 さらば、俺の青春

 担任に連れられて、簡易型の壁が立てられている広い部屋へと連れてこられた。

 壁の先で検査が行われるのだろう。

 そして、他の部屋には同じ一年生であろう生徒たちが待機している。

 各クラスごとに検査をしているようだ。


「それでは、順番にハンター適性検査を行っていきたいと思いまーす」


 国の職員であろう女性が、俺たちの前に立ち、話を始める。

 女性はの表情は無であり、ただやらされているという感じがある。

 それに、話し方からも分かるように、堅苦しい人では無いようだ。

 そうして順番に検査が行われていく。


しん君、君はハンターになりたいかい?」

「いや、俺は青春をしたいな。愛人あいとは?」

「僕は興味はあるけど、自分がダンジョンに行くのは嫌だね」

「そうだよなー」


 愛人あいとと話しながら順番を待っている。

 この時でさえ、クラスの女子たちは愛人あいとのことをずっと見ている。

 すると、優羽ゆうが俺たちの元へとやってきた。


しん、やっほー。あれ? 隣の人は友達?」

「ああ、そうだよ」

「どうも、僕は逆瀬 愛人です。よろしくお願いします」

「どうも、私は安治 優羽。よろしくね!」

「あぁ、なんて美しいんだ! ぜひとも仲良くしたい!」

「え?」

「あ、あはは……」


 俺は、愛人あいとの急激な態度の変化に驚きを隠せなかった。

 こんなにも愛人あいと優羽ゆうに対してデレデレになるとは思ってもいなかった。

 これは、ガチのやつだ。

 あの優羽ゆうが顔に出るほど引いている。


「何あいつ、愛人あいと君に色仕掛けでもしたのかしら」

愛人あいと君がそんな不健全なわけないでしょ! ただの挨拶よ!」

「あぁ、それなら納得だわ。愛人あいと君は誰にでも優しいもんね!」

「そうよ! 私たちの王子様だもの!」


 愛人あいと優羽ゆうのことを「美しい」と言うと、周りにいた女子たちは皆、鬼のような目をして彼女ゆうのことを睨みつける。

 そうして、それぞれが勝手な妄想をして現実逃避を済ますと、落ち着いた表情で再び王子様あいとのことを見つめる。

 本人は本気で言っているとは知らずに……



 女子って怖いな……



 俺はこのことを再認識して、これから女子には気を付けようと心に決めた。

 しかし、俺はレディーファーストの心がけを常にしているので、問題は起こらないだろうが。

 女子たちの視線は優羽ゆうも察した様で、すぐに俺の方へと身体を向け、話を続ける。


「ま、まあ、友達ができてよかったじゃん!」

「ああ、高校デビューしてやったぜ!」

「アハハハハ!」


 俺が自信満々に言うと、優羽ゆうは大きな声で笑い出した。

 俺は顔をムッとして、怒り交じりの声で威嚇する。


「何笑ってるんだよ!」

「ごめんごめん」


 優羽ゆうは笑いながら適当に謝る。


「安治 優羽さーん! こちらに進んでくださーい!」


 話していると、優羽ゆうが職員の人に呼ばれた。


「あ、私、呼ばれたから行くね。じゃあね!」

「おう」


 優羽ゆうは駆け足で壁の裏へと向かって行った。


「あぁ、なんて美しいんだ……」

「……」


 俺も、優羽ゆうと同じく愛人あいとの姿に引いている。



 これが『王子様』なんだから、女子って見る目が無いよなー



 検査が後半になるにつれてだんだんと分かってきたのだが、検査に行って戻来ない人が何人かいる。

 恐らく、適正認定をされた人が何かしらの用事があるのだろう。

 そして、少しすると愛人あいとが呼ばれ、俺一人が取り残された。



「よりによって俺が最後かよ……」


 優羽ゆう愛人あいとも帰ってこない。

 二人もハンターに認定されたのだろう。

 それなら俺もハンターにならないと、一人ぼっちになってしまう……


「ある意味ピンチじゃね?」


 俺は頭の中で、もの凄い葛藤がされていた。



 ハンターに認定されたら、二人とは一緒に居られるが、青春が失われてしまう。

 そして、ハンターに認定されなかったら青春は得られるが、確定ボッチだ。

 もの凄いに二択を迫られている。


「……ちょっと待てよ?」


 ここで俺は、大事なことに気が付いた。


「これって、もう青春を失うの確定じゃね?」


 そう、俺にとっての青春は優羽ゆうとの毎日だ。

 その優羽ゆうがハンターになったということは、もう既に優羽ゆうとの学校生活は送ることがほぼ不可能である。

 このことを知った瞬間、俺は一気に虚無感を覚えた。


 優羽ゆうがいない学校生活に、青春は無い。

 じゃあな、俺の青春……



「廻神 進さーん! こちらへどうぞー!」


 落胆していると、職員が俺を呼ぶ声が聞こえた。

 重い足取りで壁の裏へと向かって行く。

 そして、やけになった俺はどうにでもなれという思いが芽生えていた。


「こうなれば、優羽ゆうと同じハンターになってやる!」


 そう覚悟を決めて、検査を受ける。


「それでは、始めていきますね」

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