第二話 これから始まる高校生活

「今日から高校生だー!」


 俺は廻神 進(えがみ しん)。今日は高校の入学式だ。

 幼馴染と一緒に高校へと登校するために、待ち合わせをしていた。


「ふふっ、朝から元気だね」

「おう、おはよう」

「おはよう」

「あ……」


 おしとやかに笑っているのは、幼馴染の安治 優羽(あんじ ゆう)だ。

 俺の家の正面に住んでおり、小学校からの付き合いであり、小・中と一緒に登校している。

 長く、黒い髪で綺麗な顔立ち、スタイルも良く完璧だ。

 優羽の制服姿は控えめに言っても可愛い。

 そして、制服の内側から圧力をかけている物には目が釘付けになる。


「ちょっと、どこ見てるの!」

「いや、べ、別に何も……」

「全く、変態だなー」

「う、うるせぇよ」


 俺の視線がバレ、優羽ゆうに注意される。

 仕方がないじゃないか、俺は思春期真っ最中の高校生だぞ。

 破壊力のある兵器を持っている優羽ゆうが悪い。


「それにしても、何かいいことでもあったの?」

「え? いや、別に」

「ふぅーん。顔がニヤついているけど」

「それはニヤつくだろ! 今日から俺のニューライフが始まるんだからな!」


 正直に言おう。

 俺は優羽ゆうのことが好きだ。

 俺の言うニューライフ、それは今日からの優羽ゆうとの青春だ!

 高校生になれば、知り合いがかなり減るので、周りを気にせずに思い切ってアピールができる。


「学校でもこのテンションで居れたらね……」

「そ、それも今日から始めるんだよ!」

「ふぅーん。中学校の時みたいにならないといいけどね」

「ちゃんと見てろよ!」


 中学校の時の俺の話? 言うは必要ない。

 だって、これからが大事だろ? 過去のことなんかもう気にしない!


「同じクラスじゃないと見れないけどね」

「うっ⁉」

しんは私と同じクラスになりたいのかー」


 小悪魔の様な笑みを浮かべてこちらを見てくる。


 可愛すぎる……


 からかってくる優羽ゆうの笑みに引き込まれそうになる。

 俺はからかわれている感覚よりも、目の前にいる優羽ゆうに対する感情が大きく、照れ隠しのために足早に登校する。



 そうして、学校に着いた。


「着いたねー」

「やっぱり中学校とは大きさが違うな。俺と優羽ゆう、何組だ?」

「『俺と優羽ゆう』ってやっぱり、私と一緒のクラスがいいの?」


 またまた優羽ゆうが小悪魔の様な笑みを浮かべている。

 正直、今すぐにでも抱きしめたい。

 そんな気持ちを隠しながらも、動揺は隠しきれずに声が裏返ってしまう。


「い、いやぁ! べ、べ、別にっ!」

「アハハ! 何その声? どうやったら出せるのよ」

「もう! ちょっと声が裏返っただけだろ!」


 優羽ゆうは、ツボに入ったようで腹を抱えて笑っている。

 俺は少し不機嫌になりながらも、一組から順番に並んでいるクラス決めの紙から自分と優羽ゆうの名前を探す。


「……えっと、俺は一組か」

しんは一組なんだー。私は何組だろう?」


 俺の名前が見つかったので、続けて優羽ゆうの名前を探す。


 頼む、同じクラスでありますように。

 神様、お願いします。俺の青春の為にも……


「……」

「……」


 俺は、必死になって一組の欄を上から順に見ていく。

 汗が額から流れていく。


「あったぞ!」

「おー、同じクラスだね!」


 優羽ゆうの名前は俺と同じ一組の欄にあった。


 よっしゃあぁぁぁぁぁ!!!!!!

 神様は俺の味方だったんだ!

 これから俺のニューライフが始まるぜ!


「嬉しそうだね」

「俺の高校デビューを見ておけよ!」

「あ、そっちね……」

「『そっち』って、他に何があるんだ?」

「な、何でもない!」


 優羽ゆうは頬を赤らめながらも、少し寂しそうな表情をしていた。

 俺はそんなことを気にすることなく、これからの青春を夢見ていた。

 

 例えば、文化祭なんて、あんなことやこんなこと、他にもたくさん……

 ドュフフ、ニヤニヤが止まらんぞー!



 この青春という名の妄想は本当に夢になってしまうのだが……



 そんなことは知らずと、俺は少しビビりながらも過剰に元気に振舞いながら教室へと向かう。



 ◆



 ―入学式が終わり、クラス内の自己紹介も終わり、自由な休み時間―



「……」

「……」



 俺の周りには誰もいない……

 悲しいよぉー!


 自分から話しかけることができない俺は、悲しさを紛らわせるために机に顔を伏せ、眠ろうとした。

 すると、俺の席へと歩いてくる足音が聞こえた。


 もしかして、だれか来てくれたのか?


 俺は期待をしつつも、その期待がバレないために伏せた頭を上げない様にしていた。


しん、高校デビュー失敗したね」


 その声は、優羽ゆうが馬鹿にしてくるときの声と完全に一致した。

 俺は、恐る恐る頭を上げ、声の主を見る。


「やっぱりお前かよ」

「自分から話しかけられなくて、悲しそうにしてるしんのために来てあげたのになぁー」


 俺の予想通り、優羽ゆうがニヤニヤしながらこっちを見ていた。


「う、うるせぇ! た、タイミングがあるんだよ!」

「ふぅん。まあいいや。あっ、友達が呼んでるから行くね! 寂しかったらいつでも言っていいからね!」

「くそっ、でも、可愛い……」


 俺はやけになって言い返す。

 しかし、優羽ゆうは表情を変えず、自慢するかのように言うと、友達らしき人と教室を出て行った。

 俺は、悔しい気持ちがあったが、それよりも優羽ゆうの可愛さが勝ってしまい、ただ虚しい気持ちになった。


「もういいや、寝よ」


 そうして俺は、再び顔を伏せた。



 俺の高校デビューは、失敗に終わった。

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