ハロウィンランド・サッポロ

夏川冬道

第1話 人喰い書庫の恐怖


「コロポックル先輩、ここにいますか? いるんだったら返事してください!」

 しかし、コロポックル先輩の声は聞こえなかった。

 俺は今、大学付属図書館にある巨大書庫、通称『人喰い書庫』の内部に来ている。この書庫は内部に異世界じみた巨大空間を内包していて不用意に入室すると迷子になるという大学屈指の危険スポットだ。

なぜ俺がそんな危険スポットに来ているのか? 説明すれば僕は話は長くなるので詳細は省くが、大学のサークル棟でハロウィンパーティを開催することになり実行委員の役目を押し付けられた俺たちはハロウィンパーティの準備を進めていた。そんなさなかのことであった。

「野田くん、野田くん。大変だよ!」

「コロポックル先輩……どうしたんですか?」

「ハロウィンパーティのポスター制作に使うイラスト素材が足りないんだよ!」

「そんなものいらすとやを使えばいいじゃないですか」

「いらすとやだといい感じのモンスターのイラストがないんだよ……これは困ったな」

 コロポックル先輩は困ったような表情をした。俺は些細なことで頭を悩ませるコロポックル先輩は本当に困った先輩だと思った。

「んー……んー」

 コロポックル先輩は唸り声を出しながら鉛筆鼻の上に乗せていたが、突如として明暗を思いついたような表情をした!

「人喰い書庫に在住しているという伝説のイラスト職人にモンスターのイラストを発注すればいいんだよ!」

 そう言ってコロボックル先輩は人喰い書庫に出かけていってモドッてこなかった。心配した俺はコロボックル先輩を迎えに行くべく人喰い書庫に向かったわけだ。

 しかし、人喰い書庫は広かった。広大な書庫だとは話に聞いてたがこんなに広いとは予想してはいなかった。これではコロポックル先輩を見つけるのは不可能だ。どうしたものかと思った。まずは協力者を探さないといけない。


◆◆◆◆◆


 人喰い書庫の内部には休憩スペースが数多く用意されている。書架から持ってきた本を読む目的以外にも多目的に使われている学生の憩いの場だ。ひょっとしたら学生会館より使われているのでは無いかという仮説もあるくらいだ。

 そんな休憩スペースのひとつ、類田の酒場は暇な大学生で賑わっていた。

「コロポックル先輩が人喰い書庫の内部で行方不明ですか……この書庫は本当に広いですから迷子になっても不思議ではないですね」

 穏やかな表情で女性バーテンダーは俺にオレンジソーダを渡してきた。彼女は類田の酒場を切り盛りする女主人にして、読書サークル『類田ブッククラブ』の会長だ。彼女以上に人喰い書庫の内部を熟知している人物はいない。

「コロポックル先輩捜索隊を組みたいので助力を頼みたい……なんとかできないか?」

 女主人が考え事をし始めると、酒場の扉が乱暴に開けられて焦ったような表情をした大学生がは言ってきた。

「会長、大変です! サークル室にこんなものが送りつけりました!」

 大学生はそう言ってUSBメモリを周囲に見せるように掲げた!

「榎本くん、落ち着いて! USBメモリの中身を見ましょう!」

 類田ブッククラブの会長らしい毅然な態度で榎本と呼ばれた大学生を落ち着かせるとUSBメモリを受け取り酒場に備え付けのノートパソコンにUSBメモリを接続する。

「こ、これは……」

 中身を確認した俺たちは目を見開いて驚愕した。

『親愛なる大学生の諸君、ごきげんよう。魔王ヘルバーンだ。吾輩は今、不用意に我が領地に踏み込んだ大学生を預かっている。返還してほしければ大学食堂の割引クーポンと引き換えだ。良い返事を期待しているよ』

 魔王ヘルバーンの姿の隣にはコロポックル先輩が縛られている画像が映し出されていた。

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