第9話 アルラウネ(ふわふわ幼女)とはじめる異世界農家
「……アルラウネの捕獲とテイムか。面白いことを考えるな」
「本気なんです。リゾットさん、できますかね?」
明朝。
俺は食材を納めに来たリゾットさんに相談した。
俺が所属していた冒険者パーティー。そのリーダーのチョコが、アルラウネをテイムして「薬草」を作らせていたのを思い出したのだ。
詳しい原理は分からないが、「薬草」が作れるなら「キャベツ」も「タマネギ」も「しょうが」もできるんじゃないか。
そのためにアルラウネを捕獲したい。
「……難しいだろう」
上級職【アサシン】の判断はシビアだった。
だが、「無理だ」とも言わない。
なにかを知っている目だ。
覚悟を問うようにリゾットさんが俺をにらんだ。
「……まず、アルラウネは中層のフロアボスだ。テイムは難しい」
「けど、チョコ――知り合いの魔法使いはアルラウネを飼っていたんです!」
「……そこだ。魔法使い同士には横の繋がりがあると聞く。おそらく彼女のアルラウネは他の魔法使いから株分けされたものだ」
「なるほど」
「……そして『テイムできるよう品種改良されたアルラウネ』だろう。世の中には、そういうモンスターを趣味でつくる魔法使いがいるからな」
鋭い指摘に舌を巻く。
アサシンは戦闘だけじゃなく頭もキレるみたいだ。
腕っ節だけじゃ務まらないのだろう。
俺は素直にリゾットさんの知啓に敬服した。
「……その知り合いに分けてもらうのは難しいのか?」
「難しいですね」
「……他に魔法使いのアテは?」
「ないです」
「……ふむ、厄介だな」
その時、リゾットさんを呼ぶ声がする。
彼が所属する【駆除チーム】のメンバーだ。ダンジョン入り口に集まった彼らは「早く帰ろう」とリーダーを待っていた。
きびすを返すリゾットさん。
背中を向けたまま、彼はぽつりと呟いた。
「……俺も冒険者ギルドには顔が利く。知り合いの魔法使いに当たってみよう」
「リゾットさん!」
「……成果は約束できない。お前の方でも探してみてくれ」
「分かりました!」
やはり相談してよかった。
持つべきものは熟練の冒険者の知り合いだ。
これで一歩前進だ。
もちろん、アルラウネで全てが解決するかは分からない。
本当に野菜を育てられるのか。弁当屋の需要を満たせるのか。
懸念事項は多い。
けれども、まずは話が進展したことを喜ぼう。
「……待てよ?」
「どうしましたリゾットさん?」
仲間に呼ばれて戻るのかと思いきや立ち止まった【駆除チーム】のリーダー。
彼は急にこちらを振り返ると、いつも通りのシリアス顔で俺を見下ろした。
まるで、これから無慈悲に殺される男を見るような顔で。
ただの気のせいなんだけれど。
「……すまん。俺としたことがうっかりしていた」
「うっかり?」
「……いいかよく聞けジェロ。その『テイムできるよう品種改良されたアルラウネ』をつくったのは、うちの【駆除チーム】のメンバーかもしれない」
「…………はい?」
リゾットさんの口から出た台詞は、予想外どころか想像もできないものだった。
◇ ◇ ◇ ◇
紹介された魔法使いはメローネと言った。
そしてリゾットさんの読み通り、彼が『テイムできるよう品種改良されたアルラウネ』を開発した張本人だった。
聞けば「モンスターを改造する」のが趣味なのだという。
魔法使いには変――人が多いな。
リゾットさんから事情を聞いたメローネは、二つ返事でアルラウネの種を用意してくれた。梅干しの種のようなそれを手に彼が微笑む。
「どこか適当な所に植えてください。すぐ成長してアルラウネが産まれます」
言われるまま俺は裏庭の畑にそれを植えた。
すぐに大きな双葉が土から芽を出す。
水をあげる間もなく、双葉はみるみる巨大な植物――いやモンスターに成長する。
驚く俺の横でメローネが舌なめずりをした。
「アルラウネの最大の武器は繁殖能力です」
「な、なるほど」
「魔力の限り彼らは自己複製を繰り返し増殖します。私が調整したアルラウネは、その力を他の植物にも使えるんです」
「それで薬草が育てられるのか」
「ただし、魔力が切れれば枯れてしまいます。定期的に魔力の補給をしてください」
「……どうやって?」
「肉体的な接触による供給です。つまるところセックスですね」
Fate方式かよ。
やっぱり変態だこいつ。
「気にしているんですか? 相手はモンスターですよ?」
平然とした顔で変態が言う。
じゃあ、「お前はするんかい」と思ったが彼は開発者だ。聞くまでもない。
「心配しなくても大丈夫ですよ」
「……はぁ」
「アルラウネは人を誘い捕食するモンスター。そもそも、人を誘うようにできているんです。だから、セックスしたくなって当然」
「ちっとも安心できねぇ!」
「なにより、アルラウネは種から育てると理想の異性の姿に育つんです! それが自分を親と思って慕ってくる! いい――ベリッシモ(とても)いい!」
「もうやだこのへんたい」
変態が作った変態魔法に俺の弁当屋は救われるのか。
いや、倫理観はもう捨てよう。
生まれるアルラウネが、素直で優しい娘でありますように。
ただただ、俺はそれだけを願った。
生い茂るツタの中に大きなつぼみができる。
つぼみが開けば白色の花弁がぽろぽろとこぼれ――中から人影が現れた。
ふわりとした金色の髪。
花弁に勝るとも劣らない白い肌。
くりくりとした青い瞳に少し尖った耳先。
そして――。
「ふぁー、おはよぉー。ぱぁぱ」
「隠しきれない
キャンティをも凌駕するツルペッタン。「合法ロリ」という言葉で絶対に誤魔化すことができない全裸の幼女がそこにいた。
あかん。
これはあかん。
魔力供給したらダメな奴。
ふわふわとして眠たげな顔の少女。とろんとした瞳で俺を見つめて、彼女はこちらに駆けてくる。俺の太ももに抱きついてアルラウネは頬ずりをした。
クッソかわいい。
なにこれ天使かよ。
「ぱぁぱ。わたし、ぱぁぱのためにがんばるからねぇ」
「普通にいい娘や!」
「このはたけでぇ、おやさいをつくればいいのぉー?」
「そうだよ。できるかな?」
「まぁかせてぇ。わたし、ぱぁぱのためにがんばるのぉー」
俺の身体から離れたアルラウネ。
幼女は「うんしょ」と呟いて畑の前に座り込む。
前屈みになり畝に手を添えると彼女は「むむむむむ……!」と唸った。
「おやさいさーん、ぱぁぱのためにおおきくなってねぇ」
「ははは、そんなすぐに育ったら苦労しないよ」
「おねがいなのぉ。がんばれぇ、がんばれぇ」
やだ。
うちの娘ったら健気だわ。
畑に向かって女の子が「大きくなってね」とお願いするとか尊いしかない。
俺は我が子を見守るような気持ちで、土いじりをするアルラウネを眺めた。
そしたら――普通に畝から芽が生えた。
何も植えてないはずなのに。
「……嘘でしょ?」
「しょうがさーん。たまねぎさーん。きゃべつさーん。もうちょっとなのぉ」
舌っ足らずな声で「がんばれぇ、がんばれぇ」と娘が言うたびに、芽は大きくなっていく。にょきにょきと、まるで雨後の筍のように野菜が育っていく。
あっという間に畑は緑一色に染め上げられた。
膝の高さまで伸びたしょうが・タマネギとおぼしき植物の葉。
見間違えようのないキャベツ。
そわそわと吹く風に野菜がゆれる。
これがアルラウネの力。
思わずメローネを確認する。
あわてふためく俺に対して彼は随分落ち着いていた。
「どうです、すごいでしょう?」
「……想像以上です」
変態と天才は紙一重。
今はメローネにただただ感謝した。
これで、弁当屋の野菜問題は解決だ。
こちらを振り返ってアルラウネが満足げに笑う。とてととてと俺の方に駆けてきたかわいい我が娘は「できたよぉ!」とまた俺の脚に抱きついた。
そんな彼女をそっと胸に抱いて、俺は伸びた植物の前に移動する。
一本、試しにそれを抜いてみれば、見たことのある根菜が顔を出す。
色こそちょっと薄いけれども間違いない。
「……しょうがだ」
「そうだよぉ!」
「ありがとう! これでしょうが焼き弁当が作れるよ!」
「よくわからないけれど、ぱぁぱがうれしくてよかったぁ」
しょうがを脇に置くと俺はアルラウネを強く抱きしめた。「くすぐったいよぉ」と照れくさそうに言いながら、できのいい自慢の娘はほわほわと穏やかに笑った。
「そだてたいおやさい、なんでもいってね、ぱぁぱ!」
「あぁ、よろしく頼むよ――えっと?」
「おなまえつけてぇ! ぱぁぱのすきなおなまえ!」
「お名前か……」
うんうんと唸って俺は、ノリとフィーリングでアルラウネに名前を与えた。
その愛嬌と元気のよさに似合った名前を――。
「ペコリーノ、でどうかな?」
「うん! いいの! きょうからぁ、ペコリーノはペコリーノなのぉ!」
こうして俺はできのいい娘と野菜の供給ラインを手に入れた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
幼女(0歳児)モンスターへの魔力供給を「ディ・モールト良いぞッ!」とか思ったら――変態です、評価・フォローよろしくお願いします。m(__)m
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