とある少年の手記

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第1話

彼の名は木村 修

ついさっき目を覚ましたのである。

目が覚めたら知らない天井ならぬ見知らぬ部屋(しかも布団)に寝ていたのだから混乱するのは当然だろう。

その上、自分の事を何も覚えていないのだから不安もひとしおであった。

とりあえず現状把握から始めなければと、修は今いる部屋の確認を始めたのだが......

これがいけなかったのだろう。

何しろこの部屋には物がほとんど置いていなかったのである。

あるものと言えば壁や床など一部に使われている木ぐらいで、それ以外は本当に殺風景なものだったのである。

このことに彼はひどく落胆してしまった。

というのもこの部屋に来たばかりの頃は、もしかしたら誰か住んでいるかもしれないという希望があったからだ。

しかし現実問題として誰もいないことが分かった以上、彼に残されている選択肢はかなり限られてくる。

それは即ち、この部屋に住み着いて生活するしかないということだ。 それもいつ終わるか分からないこの状況下では、かなり絶望的な状況なのである。

それでも何とかしようと思いあたる限りの事を試したものの全て失敗に終わり、やがて彼の中から諦めの気持ちが出てきた頃......

ようやく一つの考えに行きついた。

(もしかしてこれは、俗にいう異世界転移っていうやつなのでは......?) それが、彼にとって最後の希望となった瞬間である。

そして彼がその事を理解するのと同時に......突然頭の中に膨大な記憶が流れ込んできた。

前世で経験してきた様々な出来事が流れ込んできて彼は倒れそうになる。

それをなんとか踏み止まり、頭の中の情報を整理していく。

前世の記憶によると自分は、どうやら神のような存在によってここに連れてこられたらしいという事が分かった。

だが何故そんなことをしたのかという理由については全く思い出せなかった。

ただ分かっていることは自分には前世の記憶があって、今はそれに付随してこの世界の知識があるということだけだ。

記憶によれば今の自分がいる場所はガルバディア共和国という国だということと、この国の王女の名前はソフィということだけである。

またそれ以外のこととしてはこの国の歴史についても多少知っているようだということも判明した。

その事に一先ずホッと一息つくと今度はこれからのことについて考えた。

おそらく自分がここにいるのは何らかの理由がある筈だと考えたからだ。

その理由は分からないが、恐らく自分の中にある知識の中に関係しているのではないかと思ったためだ。

そしてその予想通り、記憶を探ればすぐに答えは出た。

何故ならソフィという少女の名前が自身のものとよく似ていたからだ。

ここまでくればもう疑いようもない。

自分は今、ソフィと呼ばれる少女になっているのだと理解した。

その事実が分かると彼は更に色々なことを思い出そうとする。

すると不思議なことに今まで知らなかったはずのことも次々と思い出すことが出来た。

例えば名前についてだが......なんとこの男、自分の名前さえ忘れていたのだ。

前世では普通に暮らしていた筈なのに何故か自分の名前だけは思い出せない。

名前だけでなく家族構成や家族の顔すらわからない。

それなのに住んでいた街の名前などの細かな情報だけが頭に浮かんでくる辺り本当に不思議だと言えるだろう。

ちなみにそのことで少し落ち込んだことがあったのだが......ここで落ち込んでいても仕方がないので前向きに頑張ることにした。

その他にもソフィがどういう人物だったのかも思い出したりしたので、彼は改めてソフィになる覚悟を決めた。

次に今後の方針についてだが、どうやら自分はこの国で一番偉い地位にいる家の娘らしく将来のために色々と学んでいるらしいということが分かって安心した。

そのことから特にやることが無いなら勉強をするという選択肢もあったのだが、生憎と彼は勉学があまり得意ではない。

そのため、まずは自分に出来る範囲で頑張ってみようと考え直す事にした。

といってもやる事は山積みなのだ。

この国の歴史などについて学ぶことは勿論のこと、

それ以外にも剣術といった武術の練習もしないといけないだろうし、他にもやらないといけない事が沢山ある。

それら全てを同時にこなすことは出来ないので少しずつ時間を掛けてやっていこうと考えていたその時だった。

目の前に、机にぐったりと倒れている青年を見つける。

どうやら、俺を看病してくれていたようだ。

「あの~......大丈夫ですか?」

「......ん? ああ悪い、心配してくれてありがとな。

俺は大丈夫だけど君は大丈夫なのかい?さっきからずっと俺のこと見てるけど」

「えっ!?あっごめんなさい。

貴方の姿があまりにも綺麗だったのでついつい見ちゃってました......」 ソフィは急に顔を赤くする。

異世界慣れしていないのかその姿はとても可愛いらしく見えた。

「そうかな?まあ綺麗なら嬉しいけどさ~」

ソフィの素直な反応を見てつい照れてしまった彼は頬を掻きながら言った。

その様子を見ていた俺の方はというと......

(あれれぇ!?この人なんだかとっても優しいんですけど!! こんな人がこの世に存在しているなんて信じられない!)

などと思っていたりする。

実際俺はかなり純情なのかもしれない。

「えっと自己紹介がまだだったな。俺の名前はアベルっていうんだよろしく!」

「はいよろしくお願いしますね♪私の名前はソフィって言います♪」 こうして二人は出会った。

この出会いこそが後の運命を大きく変えることになるとは知る由もなく―――

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