第2話 破壊神と老婆
「破壊神よ、今日こそお前の力を貰い受けるぞ。
すべてを破壊しつくすその力、今日こそ我が物にしてくれるわ!」
近所の川に出かけて行ったおばあさんは、なにやら物騒なことを叫ぶと川の中に宝石のようなものを投げ入れました。
すると、なんということでしょう! 水面がキラキラと光り、その中心から石でできた邪心像のようなものが浮かび上がってきます。その直後、邪心像から不気味な声が発せられました。
「老婆よ!
もはや衰えたお前の力では我を屈服させることなぞ出来ぬ。
身の程を知るがよい!」
石像にひびが入り中から光が漏れ出てきます。まもなく石像の周囲はすっかりと割れ落ち、中から恐ろしい姿をした何者かが現れました。どう見ても人ではない異形の姿、とてもこの世のものとは思えません。
するとおばあさんが破壊神と呼んだ者へ向かって叫びました。
「身の程を知るのはお前だ、破壊神よ!
ワシが今まで何の考えもなしにお前に挑んだと思っておるのか。
今日はその集大成を見せてくれよう!」
間髪入れずに、おばあさんがなにやら呪文を唱え始めます。
「光を待つ闇の化身よ! 破壊の子らよ!
我の呼び出しに応え、その姿を現したまえ!
雷鳴よ轟き、我が子を照らせ!」
おばあさんが呪文を唱えると、破壊神の周囲を取り囲むよう、川面にいくつかの小さな光が現れました。その光から空に向かって一直線に金色の柱が伸びていきます。
破壊神を囲む檻のようにその金色の柱が伸びていき、頭上へ迫ろうとしたその瞬間、天空から雷が落ちてきました。その雷は破壊神の頭上でいくつもに別れると、水面から延びる金色の柱へ向かって行きます。
「出でよ! 神をも封じる雷の檻よ!
我の願いに応え、その力をこの身へ宿すのだ!」
第二の呪文を唱え終るとおばあさんは両の手を大きく広げました。そして、顔の前で手のひらをあわせるように、ゆっくりと閉じていきます。すると、その閉じていく手に合わせたように、破壊神を囲む光の柱がその間隔を徐々に狭めていくのでした。
「これは!?
過去に我を呼び出した魔石のかけらか!
この魔石を使った光の檻で我を封印し、それを自身に取り込もうと言うのか、老婆よ!」
「その通りじゃ、もう観念せい!
お主を呼び出した魔石一つ一つは微力だが、それぞれがお主の分身とも言える。
そいつらをかき集めることで、お主の力を打ち消すものとなっておるのじゃ!
そしてその魔石はお主の分身、いわば子らとも言える存在、自分自身を破壊すことは出来ぬぞ」
「ぐう、老獪な策士よ。
貴様の言う通り、確かに破壊することは叶わぬかもしれん。
しかし何の手立てもない、というわけではないぞ」
「はっは、負け惜しみを。
年老いたわが身、しかし研鑽の結果たどり着いたこの魔道、破れると思うなら試してみよ!」
破壊神の言葉を負け惜しみと一蹴したおばあさんは、高らかに笑いながら光の檻による封印を完成させようとします。徐々に狭まる光の柱が破壊神を完全に包み込み、まもなく指先さえ動かせなくなろうかというその直前!
「我の身は人の物にあらず。
人の身は我の物にあらず。
身は実であり宿るべきはその種。
抗えわが命! 身体を捨て魂を残せ!」
破壊神が呪文のようなものを唱えると、今まさに手のひらが合わさる瞬間であったおばあさんの両手が黒い光に覆われました。
「しまった! もう止められん!
諦めの悪い破壊神よ! お主、何をしたのじゃ!」
「何が起こるのか、その結末を楽しみにするがよい。
今回は一端負けを認めてやろう。
しかし貴様にこの力を奪わせはせんぞ!
やらせはせん! やらせはああ!!!」
おばあさんが手を合わせると同時に、破壊神の最後の言葉は途切れた。それと同時に光の柱が完全に閉じられ、破壊神はその中へ閉じ込められたようだ。
やれやれ、無事に封印が出来ているじゃないか、とおばあさんが安堵しつつ完成した檻を見つめる。全体に宿っていた金色の光が徐々におさまり、実態をあらわにすると破壊神が閉じ込められた鳥かごが現れる、はずだった。
「な、なんじゃこりゃああ!」
なんと、鳥かごが現れるはずだった場所には、小さな桃が一つ浮かんでいたのだ。
「やれやれ、あの忌々しい邪神よ。
最後の最後にとんでもないことをしてくれたもんじゃ。
これを食ってしまえば、もしかしたら力を得られるかもしれん。
しかしそうならなかった場合、なにが起こるかわからんのう」
王国の姫として、産まれた時からすでに高い魔道の力を持っていたおばあさんでしたが、流石になんでもできるわけではありません。光の檻に封印したものを自分自身の中へ取り込むという魔法も、日々研究の結果ようやく生み出せた究極の魔法でした。
「さてと、この桃が腐る前になにか手立てを考えなければならん。
六十年前に起こした魔竜による厄災は失敗に終わったが、早くこの世界を滅ぼす力を得なければな。
二度とあのじじいに邪魔などさせてなるものか」
おばあさんは、痛みやすい桃を丁寧に持ち、家へ向かって歩き出しましたとさ。
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