第38話 市民革命って?それって美味しいの?
バルカ帝国に侵攻し、一部の奇襲部隊とは言え惨敗を帰して、ほとんどの者達が捕虜となったレムリア王国では、商人を始め民衆の不満が高まっていた。
「戦争などせんで、少しでも鉄製器具を売ってもらえるように交渉すべきじゃったんじゃ。
捕虜の身代金がなんぼ掛かったと思うとるんじゃ。」
(完全に、結果論である。)
「王城の奴ら、俺達から鍬やスコップを、取り上げやがって、どんなに不便してると思ってやがんだ。金返せよなっ。」
(金がもどれば、いいんだっ。)
「王城の奴ら、なんか暗殺されるかも知れないって、慄えているぜ。そんでバルカ帝国には、もう手を出せないだってよ。バルカ帝国が攻めて来たら逃げるしかねぇのかよ。」
(完全に他人任せ、自力で戦う意思なし。)
そんな空気を無視して、捕虜の身代金と多額の賠償金を支払った王城は、その補填にために税を2倍にし、逆らう者は次々に牢獄行きとしたのである。
怒った民衆は、牢獄を襲い囚われいる者達を開放した。
焦った王城は、警備兵を動員するが、民衆の中には家族知人もいる警備兵達は、命令に逆らい反乱を起こした。
そして、民衆と警備兵達は、あっという間に王城を制圧し、王族を始め貴族達を処刑したのである。
だが、統治などしたことがない、民衆はずる賢い商人達に実権を渡してしまい。さらに混乱することになる。
俺の脅迫を受けていない商人達は、怖れを知らないからやりたい放題だ。
商人達は競うように自分の利権ばかりを追い求め、暴利をむさぼった。
その最たるものは、利息である。月間2割の複利は、一年で89倍以上にもなるのだ。
貧しい農村の人々が家族に病人が出たりして治療費を借金すれば、たちまち払える金額ではなくなる。
払えなくなった者達は、悪徳商人の手先達によって、奴隷として売られる運命だった。
さすがにおかしいと、感じる民衆達だったが契約によるものであり、取り締まる権力もなく巷には民衆の怨嗟の声が満ちた。
そんな中、とある村で事件は起きた。
父親と娘の二人暮らしの父親が病に倒れて、娘が治療費のために、禁断の借金に手を出してしまったのだ。
父親の看病をしながら、働き詰めの娘のところへ押しかけた悪徳商人の手先の男達は、利息さえも満足に払えなくなった娘に、奴隷になれと迫った。
そんな様子を固唾を飲んで見守っていた村人の中で、唯一男達に声を上げた少女がいた。
「あなた達、彼女は父親を看病しているのよ。彼女がいなくなったら、看病をする者がいなくなるの。それをわかっていてそんな話をしているの。無理に連れて行くなら、それは人拐いだわ。犯罪よ。」
「なんだと、こちとら慈善事業で金貸しをやってるわけじゃねぇ。貸した金を払えないなら、奴隷に売り払うのが決まりよ。」
「そんなこと、許さないわ。今すぐ帰りなさい。」
「えらく威勢のいい姉ちゃんだな。そいつの替わりに奴隷になるかい。」
そう言って近づく男を、少女は懐から出した短剣で一閃、首を斬りつけた。男は動脈を斬られ血を噴き出して倒れた。
他の男達は、驚いたが少女に打ち掛かろうとして、周りの様子がおかしいことに気づいた。
だが遅かった。男達に敵意を持っているのは少女一人ではなかったのだ。
たちまち、周囲の村人達に血祭りに上げられてしまった。
そして、火がついた村人達は、口々に『商人どもの暴虐を許すなっ。』と叫び、王城へと向かった。
その先頭に立っていたのは、白馬に跨がった少女『ジュルヌ ダクル』であった。
王城へと向かう民衆の数は、途中の村々の人々を加え込み、数千人に膨れ上がった。
当たり前だ。わずか4ヶ月で借金が倍になり一年で89倍にもなる利息など、暴利以外の何ものでもなく、民衆の不満は膨れ上がっていたのだ。
商人達の差し向けた軍隊と暴徒と化した民衆がぶつかる。民衆は数千人にも及ぶが、数で劣る軍隊は武器鎧を着けた正規軍だ。
戦いの始まりは、鍬や竹槍などの民衆達が、たちまち崩されたが、民衆達は負けていない。
軍隊の精鋭達が突撃して来ると引き、懐深く引き込んで四方から石礫を浴びせ、襲い掛って相手の武器を奪い戦力を高めて行く。
敵の指揮官達が戦意を高めようと、前に出ると、白馬の乗った少女とそれに従う者達が猛然と向かって来て、阻止される。
その少女は、別に武勇に優れている訳でも、体格がいい訳でもない普通の少女だ。
しかし、一番危険な場所に猛然と突っ込み、それを護ろうとする人達の勇気が、奇跡を起こしていた。
そして戦いは次第に民衆軍の優勢になって行った。
そんな民衆が軍隊を打払い押し寄せた王都では、王都の民衆も暴動を起こし、商店を次々と打壊して、逃げ惑う商人達を血祭りにした。
焦った王城に籠もる悪徳商人達は、王城から逃げ出すが外へ出ると、次々怒りに満ちた民衆に襲われて血祭りにされたのである。
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【 ジュルヌ ダクルside 】
私は農家の5人兄妹の4番目の長女として、生まれ育った。父は農民だが、村の警備隊長を務める立場にあり、兄達三人が剣や槍の稽古をする傍らで見様見まねで、遊んで育った。
私が16才になった時、王城の過剰な税の賦課と横暴な投獄に怒りを上げた民衆が蜂起して王家を滅ぼした。
でも、その後も政を担った大商人達は、期待外れの政を行い、民衆の暮らしはちっとも良くならなかった。
秋の収穫を終え、父と兄達が収穫した穀物を税として納めるために王都に出向いている時、私と仲の良い村の娘カーシャのところへ、借金取りの男達がやって来た。
その前の晩、私は神の声を聞いた。どこからか私を呼ぶ微かな声がして、満月の月明りの外へ出た。
すると、満月の月に神の顔が浮かんで私に話し掛けたのだ。
『ジュルヌ。明日あなたの大切な友が拐かされようとします。どうしますか。
もしあなたが勇気を出して、友を守るなら、私が力を貸しましょう。』
『神様、私は友を皆んなを守りたいです。』
『ならば、この短剣を授けます。この短剣で人々を率い、王城にいる者達を追払いなさい。
その後は、私が遣わす者に委ねなさい。』
その夜、村人達も夢の中で神の声を聞いた。
『今日、ジュルヌが悪に立ち向かいます。
勇気あるジュルヌを死なせはなりません。』
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レムリア王国での出来事を、逐一報告を受けていた俺は、混乱を鎮めるべく飛行船でレムリア王国の王都に向かった。
民衆の暴動で統治者のいなくなったレムリア王国に秩序をもたらさないと、周辺諸国も混乱を招きかねないからだ。
諜報で掴んだ情報の中に、とある村に借金のかたに少女を捕縛して奴隷に売り飛ばすという話しがあった。
通常であれば、村々には自警団がいて無理に連れ去ろうとすれば、犯罪として捕縛されるがその村の自警団は、近々納税に王都へ向かって不在となるという。その隙を狙うらしい。
俺は、影達にその村の様子を探るとともに、ある策略を命じた。
それは、民衆に革命の火を灯す策略でもあった。
俺はジュルヌ率いる民衆達が王都を制圧したのを見届けると、飛行船で王都の上空から呼び掛けた。
民衆は見たこともない空飛ぶ船から聞こえる声に驚愕し畏怖して、耳を傾けた。
「お前達、何か勘違いしていないか。
この混乱を招いたのは、お前達のせいだぞ。
国の秩序を守る政を他人に預け、自分達は関係ないと逃げた結果がこの様だ。
この国は、お前達でしっかり治めなければ、平和にはならない。
俺が今からその方法を教えるから、しっかり聞けっ。」
そう言って、俺は民主主義国家建設のための必要なことを説いた。
一、村々で交代で代表を選び政を決める場に
参加すること。王都や町にあっては、産業
ごとや住民の代表を選び参加すること。
一、集まった代表の多数決で、税率や貸金の
金利、税の使い道を決めること。
一、法律を定めて、犯罪の刑罰や財産、土地
などの争い事の公平な扱いを行うこと。
法律を定めるにあたっては、他国の法律
を参考にすること。
一、代表者は決め事の前に代表となった民衆
に決めるべきことを説明し、民衆の意向を
聴取すること。
一、代表は二年任期とし、どんなに優秀と認
められても、任期延長は認めないこと。
一、この国は、レムリア王国ではない。
レムリア共和国、ないしは民主国と国名を
改めること。
一、早期に諸外国と、相互不可侵条約、及び
通商条約を結び、和平を図ること。
大まかには、こんなところだ。あとは代表者が決まってから、詳しく話す。
暴動を起こしていた民衆は、今後のことを想い、なるほどと思ったようで、それぞれの町や村に帰り始めた。
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一週間後、王城の大広間に集まった代表者達の前で、民衆のための政をするためには、民衆達が自ら政に参加しなければ、実現できないと説いた。
やり方を知らない分からないと、騒ぐ者達に自分の目で見て来いと、飛行船に無理やり乗せバルカ帝国、ナルト王国、そしてトランス王国を見せに行かせた。
トランス王国以外は、無断侵入である。民の暮しの様子、税や金利、農業や商売の様子を直に見せた上で、トランス王国で各国の法令を見せた。
今なら、好きな法令を元に良いと思う法令を定めることができる。
しかし、一度定めた法令は簡単に変えては混乱をきたすばかりで、政が安定しない。
だから、慎重に検討せよ。
また、法令の改正には、8割の賛成を必要とすることにせよと諫言した。
最後に、レムリアがくだらない国を続けるなら、即座に制圧し奴隷の国とすると脅迫した。
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