第17話 夜行性の泥棒たぬき捕獲作戦。
北部で捕えた山賊達の自白から、山賊の根城というか、妻子達の隠れ里が見つかった。
妻子達は、見つかることを恐れて、狭い谷の斜面を直角に削った穴に笹の葉を葺いて作った屋根と壁を兼ねた仕切りの中で暮らしていた。
春夏は山菜と狩猟で。秋は冬籠もりのために夜に収穫前の畑に忍び込み、作物収奪の効率が悪い中で、食糧を備蓄して細々と飢えを凌ぐ。
見つけた者達は、皆痩せ細って過酷な暮らしぶりを露呈していた。
俺はそんな村とも言えない山間に来て、お粥と芋鍋の炊出しを始めた。隠れ里の人達には、新しい住む場所に連れて行くからと話したが、皆お腹を空かせているし、まず腹ごしらえだ。
炊き上がる鍋の周りに、皆集まってごくりと唾を飲み込んでいる。
「さあ、できたぞっ。ほら、受け取れ。熱いから火傷するんじゃねぇぞっ。」
兵士達が自分達の皿や器に盛り、皆に渡している。
「わぁーい、すごーい。お肉もお芋もいっぱい入ってるっ。」
「ふ~ふ~、熱いけど、美味しいっ。」
「こんなご馳走、いつ以来かしら。」
「おかわりをしろよっ、いっぱいあるぞ。」
「ぼくお粥おかわりっ、とっても美味しい。」
今回、俺達の前に現れた山賊は、ほんの一部に過ぎない。まだ、多数の山賊として潜伏している者達がいる。
戦乱が治まって3年だ。今冬は4度目の冬、決して無事に過ごして来たとは言えぬだろう。
俺は、ナルト王達と相談して、山中の各所に高札を掲げさせた。
『既に戦後三年が過ぎ、帝国に組みして逃げ隠れした者も苦難の時を過ごし、罪を悔いているものと思う。
ナルト王は、そなた達の罪を許し、王国の民として生きることを望む。
この高札を見た者は、すみやかに近くの村々に出頭せよ。』
だが、高札を信用されず、なかなか出頭する者が現れなかった。
「高札を見ているはずだが、一向に出て来ませぬな。よほど処罰を恐れておると見えます。」
「もうじき、収穫の時期だよね。刈り入れの前に盗みに来るのかい。」
「さようで。数人で夜間にこっそりと刈り取って行きます。農民達も元は同じ領民、見て見ぬふりをしてございます。」
「そうか、たぬきといっしょだね。たぬきの罠でも仕掛けるか。怪我をさせるわけにも行かないしね。」
「はて? たぬきの罠などあるのですか。」
「えっ、これから考えるのさ。」
夏も終わりを告げ、畑の作物の収穫が近づいて来た頃、収穫前の収奪を狙って山賊達が動き始めた。
俺は、考えに考えて漫画のような作戦を発動した。
名付けて『夜行性の泥棒たぬき捕獲作戦。』
収奪する畑は広範囲に及び、ましてや数人のグループでしかない。
そして、人々が寝静まった深夜に出没するのだ。夜盗というか、まるで夜行性の狸だ。
俺達は農民達に命じて、山側に近い畑の作物の実りの早い物を数ヵ所に積上げさせて、その周りに罠を仕掛けた。
どんな罠かというと、地面に埋め隠した網の罠で、集積している作物が収奪されて軽くなると、止め金が外れて網が地面に埋め込んだ竹竿の反発で、盗っ人を包み込むというものだ。
おまけに罠に掛ると、その場の鳴子がなる。
事前に実験したところ、複数のたぬきが罠に掛ったので、この名を付けた。
罠を仕掛けた畑には、数人の兵を潜ませた。
何人かを捕縛すれば、彼らの隠れ里が分かるだろう。
北部と中部の城下町の郊外に、捕縛した山賊達の住居を準備した。多数の集合長屋と大食堂や大浴場を備えた管理棟だ。
集合長屋の屋根上には、貯水槽が設けられ、各住居に給水がされる。断熱パネルの部屋には石炭の暖炉と煉瓦の床暖房がある。
『泥棒たぬき捕獲作戦』は、3週間程で完結。
捕まった者達が死刑などにならず、逆に手厚い保護を受けているとわかった残りの者達が、次々と投降して来たからだ。
山賊となって、兵とその家族達を率いていた元貴族や指揮をしていた達は、王城に招集されて処罰を受けた。
貴族は地位剝奪の上、他の者達と併せて1年間の鉱山の労役処分だ。
でも、鉱山の労役は山に潜んだ生活よりも、ずっと快適なはずだ。
余談だが、この作戦で使われた網の罠はその後も狸や害獣の罠として、重宝されたそうだ。
狸の毛皮は毛皮帽子の材料になって、ナルト王国の子供達の冬の帽子として、定着した。
帽子にしっぽが付いて、垂れ下がっているのが、なんとも理解しがたいが。
なお、この帽子は『タヌキヘッド』という。
( 某、投稿小説の命名が使われたようだ。)
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「トリアス
「ああ、遠方だが何人かの商人を潜り込ませて国情を探っている。バルカ帝国は、トランス王国の北にあるキト神教国、その北のレムリア王国のさらに北にある広大な面積を持つ大国だ。
しかし、国土の大半は寒冷で実り少ない土地らしい。
そこに偶々、ナルト王国に遭難して救われた商人達から、ナルト王国の温暖な気候や実りの豊かさ、そして黄金に輝く建物などの噂話が伝わったものだから、暖かいナルト王国を侵略して自国の領土にしようと目論んだようだ。」
「バルカ帝国は、そんなに横暴な侵略国家なのですか。」
「いや、今回の侵略を主導したのは、王弟のバラキ公爵のようだ。次期国王の座を嫡子のタリス王子と競っている。そのために功績を立てたかったのだろう、失敗したがな。タリス王子はまだ11才だ。」
「なんともまあ、しかしジル殿やシルバラ王女殿下と比べれば、同情などできませぬなぁ。」
「宰相。
「兄上。ジル君は特別ですが、私は普通ですわっ。」
「ですが、事の始まりは、王女様が未知の土地であるにも拘わらず、いきなりグランシャリオ領に乗り込まれたことですからな。いやはや、その豪胆さはなんとも。くくくっ。」
「オリバー、その笑いは、なあに?」
「ジル殿も気を付けなくては、
「「「ぶぉっ、ほほっ。(がっははっ。)」」」
えっ、そうなの?
〘男も女も、結婚前は優しいのです。既婚者は皆知っている。影の声〙
その傍で、妹達は納得している。意味がわかてるのかな。
「母ちゃま、父ちゃまより、つおいでちゅ。」
「「うん、うん。母さま、最強っ。」」
「私も母さまのような『くの一』になるわ。」
おやおや、セルミナは何か勘違いしてるよ。
「それで
「うむ、10隻ずつの三艦隊を作り、配備訓練しているところだ。投石機を備えているから、弓矢より遠距離から攻撃できるし、ポンポン蒸気動力で急加速もできる。
我が国は島国だから、洋上防衛を第一に考えているんだ。」
「ジル殿、中部東地区の鉱山で鉄鉱石の出荷が始まりましたぞ。大型船が接岸できる岸壁と、鉱山からのトロッコが、ほぼ同時に完成しましたからな。」
「ありがとうございます、宰相。これでグランシャリオ領で高炉による製鉄ができます。」
「南部の東海岸にも、岸壁を作っておりますから、高炉の建設を頼みますぞ。」
「ええ、岸壁の完成に合せて、近いうちに始めます。」
よし、これで『産業革命』の準備は整った。あとは綿花栽培の拡大と蒸気機関の発明だね。
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