第10話 爆誕、グランシャリオの不思議館。
グランシャリオ領の発展と共に、領主館の見すぼらしさが際立ってしまった。
だって、板張りの平屋だし、屋根も藁葺きでまるで農家なのだから。
それで、母さまが家族も増えたことだし、娘達が成長すれば一人部屋が必要だわと、声高らかに父さまに迫り、家臣達も領外から研修者も来るし、この館では恥をかくと主張したので、生まれ育った館に未練がある父さまを説得して新築することになった。
もちろん、俺の出番だ。俺は漫画で見た忍者屋敷を造りたかったのだが、シルバラの冷めた視線を浴びて諦めた。
代わりにヨーロッパの古城をイメージして、四方の塔と天守閣のある三階建ての白壁の館を土魔法で築いた。塔の屋根は銅板葺、天守閣は瓦屋根である。
天守閣のある本館は、一階が洋室で領務を行う執務室。二階は和洋折衷の大広間と会議室。
三階は俺達の居住スペースで、洋室の寝室とダイニングを除いて、畳敷きの和室のリビングや客間、男女別に大浴場を設けた。
しかし、どうしても漫画の忍者屋敷が作りたくて、子供部屋を繋ぐ『どんでん返し』の壁(扉)や廊下の押入れの中に、一階から三(四)階の隠し部屋まで続く、隠し階段を作った。
子供部屋の天井には、天井収納の隠し梯子を設置し、屋根裏に隠し部屋を造ったのだ。
隠し部屋からは、潜望鏡で外の様子や三階の部屋の様子などが、密かに見ることができる。
これが妹達には、大人気の秘密基地(部屋)となった。嫌いな勉強時間に、妹達が忽然と消えた事件があったとか。
もちろん、これらの仕掛けは父さまと母さまだけは知っている。母さまに強制され、母さまの部屋にも衣装部屋へのどんでん返しや、隠し通路を作らされた。
母さまの衣装部屋には、なぜかくの一の装束と忍者の武器がある。
ちなみに、俺とシルバラの部屋も、もちろん秘密がいっぱいの子供部屋だよっ。
浴場の総ガラス張りの窓から見下ろす、グランシャリオ領の景観は素晴らしく、それを見ながら湯に浸かると一日の溜まった疲れが取れると、両親には好評だ。
ただ、まだ俺は幼子だからと、母さまやシルバラ、妹達に侍女達と一緒に混浴させられるのはとても心外だ。来年は男湯に入ってやるっ。
館の中庭には、花壇やブランコやシーソー、滑り台などの遊具もある小さな公園にした。
妹達は大喜びで、毎日飽きずに遊んでいる。
そんな様子を東屋から眺めながら、母さまは侍女達とお茶を愉しんでいる。グランシャリオ家の平和な日常だ。
新築館の隣には、三階建ての別館を建てた。
領外から来る研修者達の宿泊施設だ。500人も宿泊できる。一階には食堂と研修室がある。
研修者達は、来春の種蒔きの前に来ることになっている。改良された田畑の状況や苗作り、種蒔きの実態を学ぶためだ。
沿岸部からは、海路で来れるが内陸部からは陸路の馬車だ。飛行艇で送迎するのはなん往復もしなければならず、お断りした。
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俺は今、鉱山の開発に取り組んでいる。金銀財宝の採掘だけでなく、鉄や石灰、石炭、硫黄などの戦略物資が必要不可欠だからだ。
今回、館の新築に当たっては、俺の土魔法で造ったが、俺の魔法だけでは国中の建物を造るなんて不可能だ。
道路や橋や建物を造るコンクリート、武器はもちろん、農具や生活器材には鉄製品が欠かせないし、暖房や燃料にする石炭も重要だ。
だから、このごろは毎日、土地の古老や猟師達のところを回って、鉱山発見のヒントを聞いて回っている。
魔の森で見つけた休火山の海岸側で、硫黄と石灰を採掘できた以外は、グランシャリオ領であまり鉱物資源は期待できないようだ。
今度ナルト王国に行ったら、鉱山開発をして見よう。
グランシャリオ湾の南側では、大型船が接岸できる岸壁の港造りが進んでいる。俺も土魔法で手伝い、岩場の岸辺を深く掘ったりした。
火山の近くから船で運んだ石灰で、コンクリートを作って一輪車で地道に木枠に流し込んでいるから、岸壁の工事は長期に渡っている。
おまけに、その隣には大型帆船の造船ドックも建設しているから、たいへんだ。
俺は時々その隣の岩場へ、シルバラと妹のセルミナとトットを連れて、釣りに行く。結構深みもあって、サバやアジが釣れる。
シルバラや妹達は、海水が被る岩場で小さな蟹を追い掛けて遊んだり、岩海苔やつぶ貝を採って焼いて食べている。
途中で何度も『ジルにい、釣れた?』と聞きに来て、釣れた魚の数を数えて家族全員の分はまだだとため息を吐いて戻って行く。
必ずしも家族の数を釣らなくてもいいと思うが、妹達のあいだでは許されないことらしい。
しかして俺に、絶大なプレッシャーが掛る。
家族思いの妹達を持つ兄はつらいのだ。
シルバラは、島国に育っただけあって以外と浜での遊びというか、貝や海藻採りが上手い。
トットに危険がないように、気を配りながら食べれる貝や海藻、危険なものを教えている。
妹達にとっては、頼れるお姉ちゃんである。
秋の森の中は宝の宝庫だ。魔の森でなくとも
雨上がりの森に母さまや妹達、侍女達を引き連れて、ご馳走採取兼ピクニックにやって来た。
「兄にい、木を傷つけたりして、何をしているの?」
「これかい、これは楓の木だよ。こうすると、この木からメープルシロップという、甘い蜜が採れるんだよ。」
「へぇ、甘いの? トットが食べてみる。」
「ほら、トット。舐めてごらん。」
「わぁ、甘い、甘いっ。蜂蜜みたい、トットこれ好きっ。お姉ちゃん、舐めて見てっ。」
「まあ、トットったら。口も手もベトベトよ、ちゃんとハンカチで拭きなさい。」「」「」
セルミナは、お姉ちゃんぶっているが、甘い物や美味しい物には弱い。見かけに寄らず食いしん坊さんなのだ。
「まあ、なんて甘いのかしら。独特の風味があるけど、とても美味しいわ。きっと、ホットケーキにぴったりよ。」
「トット、セルミナ。こっちへ来てごらんなさい。杏子が熟れて美味しいわよ。」
母さまが二人を呼んでいる。母さまの傍らにはミウと、ちゃっかりシルバラがいて、夢中で杏子を頬張っている。侍女達が肩車したりして上の方の杏子の実を採っているけど、危なっかしいなっ。
「ジル坊っちゃん、この茸は食べれますか。」
「それは
「むふふっ、梅の木見っけっ。」
「ええっ、坊っちゃん。その実は熟してなくて酸っぱいですよ。」
「いいんだよ、酸っぱい実なんだ。でも砂糖を入れてお酒を造ると、美味しいお酒ができるんだよ。父さまより母さまが喜ぶかもっ。」
「兄にい、この棘棘の木の実はなにっ?」
「あははっ、それは栗だよ。棘の皮を剥いたら、セルミナも知ってる木の実さ。」
「ねぇジル。ここにとっても綺麗な赤い花があるの。持って帰ってお庭に植えたいわ。」
「母さま、その花は薔薇ですね。わかりました、根から採って持ち帰りましょう。」
侍女達も一緒になって、籠いっぱいに採った木の実や茸、母さまご指定の薔薇の花などを、俺の収納魔法に詰めて、森の収穫祭を終えた。
後日作った梅酒は、やっぱり父さまより母さまが喜んでいた。
父さまは梅酒より、山葡萄酒の方が旨いと言っていた。酒好きの好みは俺にはわからんっ。
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