第7話(1) クリスマスイブ
食卓には、いつもよりやや豪勢な料理が並んでいた。
準備を済ますと、私とソフィアちゃんは食卓を挟んで向かい合って
あの後、切峰駅の周辺を三十分程散策して、私達は帰宅の途に着いた。
もちろん、早坂家に。
切峰駅とは対照的に、イルミネーションのイの字もない小さく寂しい
「いただきます」
手を合わせ、スプーンに手を伸ばす。
まずはそれでビーフシチューをすくい、口に持っていく。
うん。ちゃんとビーフシチューだ。
実のところ、ビーフシチューを作るのはこれで二回目。カレーやクリームシチューを作った事は何度もあるが、ビーフシチューは今回のために練習で一度作っただけ。正直ちゃんと味が定まっているか自信がなかった。
食卓の上に並んでいるのは、ライスにサラダ、ビーフシチューにグラタン、そしてお店で買ったフライドチキン。ビーフシチューとグラタンは大半を私が作り、ソフィアちゃんにはご飯の準備や野菜のカット等を主にお願いした。
「うん。美味しい。さすがいおね」
同じくビーフシチューを口に運んだソフィアちゃんが、味の感想をそんな風に私に告げる。
「ホント? 良かった」
それを聞いて、私はほっと胸を撫で下ろす。
人からの感想は重要だ。特に大切な人からのものは。
「ビーフシチューはほとんど作った事がなかったから、あまり自信なかったんだよね」
「そうなの? 普通に美味しいんだけど」
「ありがと」
よし。ソフィアちゃんがここまで絶賛(?)してくれているのなら、これから自信を持ってビーフチューを私のレパートリーの一つと
当面の
私の
カリッ、サクッ、ジュワーという三段階の食感とジューシーな味が口全体に広がり、チキンを食べている実感を私に与える。
フライドチキンを一度皿の上に置き、スプーンでライスを口に突っ込む。
肉にはご飯がよく合う。それはこの世界の真理とも言える、
「美味しい?」
「うん」
ソフィアちゃんの質問に、私は即答する。
「いおって、ホント可愛いわよね」
「何、急に」
というか、今のやり取りのどこにそんな要素が?
「見ててそう思ったの。チキン食べてるところとか、答え方とか」
「?」
よく分からないけど、馬鹿にされている感じはしないのでまぁ別にいいか。
「私も食べーよ」
そう言ってソフィアちゃんが、フライドチキンを手に取り、そして口に運ぶ。
フライドチキンにソフィアちゃんが
「うーん。確かに、いおがあんな顔になる理由が分かるわ」
あんな顔、とはどんな顔だろう? 変な顔じゃないといいけど。
「この後、ケーキもあるのよね。食べ切れるかしら」
「ちょっと、調子に乗って作り過ぎたかな」
クリスマス
「最悪、ケーキはお風呂を出てから食べましょうか?」
「そうだね」
お風呂を出た後となると、大分遅い時間にケーキを食べる事になる。
色々な意味で体には良くなさそうではあるが、クリスマスは特別、年に何度もある事じゃないしたまにはいいだろう。
「時間も時間だし、今日は一緒に入る?」
ソフィアちゃんの言うように、今日は晩御飯の時間が少し遅くなってしまった。
早坂家に帰ってきたのは七時前。そこから夕食の準備をして終わったのが八時過ぎ。食べ終わる時間は、適当に見積もって九時前後といったところ。そして、お風呂に入るには満腹状態では厳しいだろうから――。
「二人で入ろっか」
早坂家のお風呂はウチのお風呂よりは大きいが、それでも二人で入るには広さが足りない。とはいえ、そういうのがいいと言うカップルもいるので、全くのマイナスポイントかと言われると判断が分かれるところだ。
「クリスマスだしね」
とソフィアちゃんが笑う。
「……」
そう言われてしまうと、なんだか無性に入りづらいような……。
いや、深く考えてはダメだ。多分、ソフィアちゃんもそんな深い意味は込めていないはず。……多分。
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