第22話(2) 幸せ
「今頃、お母さん達も食事してるのかしら」
二つ目のサンドイッチを手に、ソフィアちゃんがふとそんな事を言う。
「あー。どうだろう」
美玲さんが家を出るのに合わせて私とソフィアちゃんも家を後にしたため、移動時間の差を考えれば向こうの方が先に目的地に着いた可能性が非常に高い。そうなると、後はどのくらい食事の時間を取っているかだが……。
「どんな話してると思う?」
「そりゃ、私達の事でしょ。そういう会だし」
まぁ、話の内容はそれだけではないと思うが、その話が本題なのはまず間違いなかった。
「変な事言ってないといいけど」
「例えば?」
「娘の恥ずかしい話とか」
「あぁ」
してそう。しかも、
「小さい頃のソフィアちゃんか……。可愛かったんだろうなぁ」
「一度会った事あるでしょ」
「うん。お人形さんみたいに可愛かった」
「その言葉そっくりそのまま返すわ」
……そっくりそのまま返されてしまった。
人形。人形ね。あー、あれか。日本人形的な? だとしたら、まぁ分からないでもない。なんにせよ、私の想像するお人形とソフィアちゃんの言う人形が、別の種類の物である事はまず間違いないだろう。
「あのまま一緒に過ごしてたら、私達どうなってたのかしらね」
追いかけっこをして遊ぶ二人の子供の方を見ながら、ソフィアちゃんが呟くようにそんな事を言う。
「どうだろう。仲良くはしてそうだけど……」
しかし、関係性までは分からない。ただの友達? 親友? あるいは今のような……。
「まぁ、でも、もしかしたら今の出会い方が一番だったのかもね」
とソフィアちゃんは言う。
「なんで?」
「そりゃ、ね?」
言い方とこちらに向けた目の感じで、ソフィアちゃんの言いたい事は分かった。つまり、今が一番、という事だろう。それには、私も激しく同意する。
「「……」」
なんだか急に気恥ずかしくなり、私達は視線を
「いおはさ、卒業後の事何か考えてる?」
その沈黙を先に破ったのは、ソフィアちゃんだった。
「進路の話?」
「それもあるけど……」
他にもある、と。
「もし、もしもよ、二人共この辺りの大学に進学するってなったら……」
ソフィアちゃんの物言いはどこか歯切れが悪く、これから凄い事を言われるのではないかと、思わず身構えてしまう。
「二人で、暮らさない?」
「え? あ、はい。よろこんで?」
意表を突かれ、言われた事の意味をよく理解出来ないまま、なんとなくで返事をする。
「何よ、その感じ」
「だって、ソフィアちゃんが変な空気出すから」
「出すから何」
「もっと凄い事言われるのかと思って……」
「凄い事?」
私の言葉に、ソフィアちゃんがそう言って首を傾げる。
「ほら、その、あれとか」
「あれ?」
どうやら、あれでは伝わらないらしい。当たり前だ。
「けっ、こんとか……」
「……」
瞬間、ソフィアちゃんの動きが停まった。
それくらい
「いお、あのね」
まるで大人が子供を
「プロポーズは
「なるほど……」
ん? なんかそれだと、行われる事はすでに決定しており、尚且つ告知を受けたみたいになっちゃうんだけど……。いや、深く考えるのはよそう。とりあえず今は、プロポーズは今ではないという事だけ分かっていれば、それでいいだろう。
「バイト始めようかな」
「え? なんで?」
「なんでって、一緒に暮らすなら色々入り用だろうし」
そうでなくても、最近は出費がかさんでお
「お金の心配なんて別にいいのに」
「そうはいかないわよ。どちらが上でも下でもない、私達は対等な関係なんだから」
「好き。結婚して」
「然るべきタイミングと準備は!?」
「冗談よ」
いや、冗談とかではないような。単に、思考が漏れ出ただけでは?
「ねぇ、いお」
「何?」
「私――」
それは、いつか
「私も好きよ、ソフィアちゃんの事」
どちらかは分からなかったが、私はあえてあの時と同じ言葉を口にした。
これは夢の中の出来事ではない。だから、
半年前の自分に教えてあげたい。あなたは今後、ソフィアちゃんと付き合うのだと。きっと信じないだろうけど。
第五章 始まりの場所 <完>
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