ぼっちな私と美人な転校生の何気ない日常。

みゅう

第一部 何気ない日常

第一章 恋に大事なもの

第1話(1) 美人な転校生

 今日も私は教室で読書をしている。


 昔から本は好きだ。本を読んでいる間だけは、私は私以外の何かになれる。それは某王国のお姫様だったり、怪盗を追い詰める名探偵だったり……。まぁ、最近読んでいるのはもっぱら日本が舞台のライトノベルで、出てくるのは普通の高校生ばかりなのだが。


 とにかく本はいい。現実逃避が出来るから。後、ぼっちの私が教室で好奇な視線を浴びずにひまつぶせるから。

 いや、実際は浴びているのかもしれないが、本に目を落としている間は感覚が鈍感になり、例え注目を浴びていてもあまり気にならなくなる。


 中学まではこうではなかった。学校にはそれなりに友達と呼べる人間もいて、人並みに学生生活というものを謳歌おうかしていた。しかし高校に入り事態は一変した。同じ学校に進んだ友達が少なかったというのもあるが、それに加え友達が高校デビューを果たしたのだ。


 中学まで根暗代表みたいな子達が身なりを整え、キャラも一新し普通の学生として過ごし始めた。きょをつかれた私は完全に出遅れ、今に至る。

 いや、例え虚をつかれなくても、私には彼女達のような真似まねは出来なかっただろう。何せ私は根っからの根暗で、尚且なおかつ陽キャと言われる人達を毛嫌いするような人間なのだから。


 もちろん、そこには嫉妬の感情も混じっている。たが、ああはなりたくないと思っているのもまた事実だった。みんなでまとまってトイレに行き、内容のない話で盛り上がり、同意を強要する。考えただけで息が詰まりそうなやり取りだった。


 なので私はこうして一人読者・・いそしむ。


 願わくば、この日常がずっと続きますように。


 ――しかし、そんな私の些細ささいな願いは、ある日突然、思わぬ形で崩れるのだった。




 実力テストから少し経った頃、教室がにわかにざわつく出来事が起きた。


 ウチのクラスに転校生が来るというのだ。しかも、職員室でその人物を見てきたというクラスメイトいわく、物凄ものすごく美人な子らしい。

 その情報に男子は歓喜し、女子も興味津々といった様子だった。


 ホームルームの時間になり、担任の高橋たかはし先生が教室にやってきた。


 高橋先生は現代文を担当しており、若いのにあまり覇気はきのない女性教諭だった。「問題だけ起こさないでくれ」が彼女の口癖くちぐせだ。ちなみに顔はいい。髪は短く全体的に女っ気はないが、それでも一部の男子からはそういう対象としてバッチリ見られているし、一部の女子からも同様の視線を送られている。もちろん、先生の方はその事を迷惑がっているが。


 話を戻そう。


 高橋先生が入ってくる前からくすぶっていた教室の火は、彼女が来た事により完全に発火した。

 クラスの大半がその時を今か今かと待ち受けている。かくいう私も多少は興味があった。自分とは直接関係ないとはいえ、やはり美人の転校生というワードには心かれるものがある。もし私が物語の主人公なら、彼女となんやかんやあった後、恋に落ちて付き合うのだろう。まぁ、私は物語の主人公ではないし、女なのでその妄想はあり得ない事なのだけれど。


 高橋先生が「今日は紹介したい者がいる」と言った瞬間、教室がよりいっそうざわついた。「ざわざわしない」と注意するが、それは無理な話だ。もはや教室内は爆発寸前、後は導火線が燃えきるのを待つだけだった。


「入れ」


 先生がそう扉に告げると、扉が開き、一人の女生徒が教室に入ってきた。


 教室が更にざわつく。その理由は、女生徒のあまりの美貌と明らかに好意的ではない面倒くさそうなその表情にあった。


 髪はセミロング、色はブロンド。一見して染めているようにも見られてしまいがちだが、青みがかった大きな瞳がその予想は早計だと見る者に気付かせる。ハーフあるいはクォーターなのだろうか? 身長は私よりやや高い百六十くらい? 手足はすらりと長く、実はアイドルと言われても余裕で信じられる綺麗きれいさが彼女にはあった。


 先生が黒板に転校生の名前を書く。

 早坂はやさかソフィア。


 容姿同様名前もまた可愛かった。当たり前だが私には絶対似合わない名前だ。


「じゃあ、早坂、自己紹介を頼む」


 先生の言葉に、早坂さんは心底面倒くさそうな顔をし、それでも渋々といった感じで口を開いた。


「早坂ソフィア。親の仕事の都合でこちらには引っ越してきました。祖母がイギリスの人間で、この髪は地毛です。以上」


 その自己紹介にクラスは呆気に取られた。おそらく、今言った事は質問されるだろう事を予め答えたに過ぎず、出来れば一言も発せず済ましたかったという雰囲気が、その様子からはビンビンと感じられた。


「よし。席は左の一番後ろだな」


 他の先生ならそれに対しフォローらしきものを入れたかもしれないが、ウチの担任は良くも悪くもサバサバしており、そういう事はしない人間だった。


 早坂さんもその事はなんとも思っていない様子で、とっと自分の席へと向かう。教室の左側の一番後ろ、すなわち私の後ろの席に。


 こちらに向かってくる途中、ふと早坂さんと目が合った。なぜか彼女は私を見てぎょっとした様だった。しかし、すぐに視線をそらし、先程までの仏頂面に表情を戻した。


 なんだろう? 私の顔がそんなにみにくかったのだろうか? 平凡な顔だと自分では思っているのだけど……。


 早坂さんが私の後ろに座ると、必然クラスメイトの視線が私の方へと集まる。正確には私の後ろを見ているのだが、視界に私がとらえられている事実には変わりなかった。


 まさに針のむしろ状態。本当に勘弁して欲しかった。

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