見届けたヒト

 目の前で倒れるヒトの子を支える。気の遠くなるほど長い年月を生きてきた中で初めて自身に寄り添ってきてくれたヒトの子。恐れでも、嫌悪でも、軽蔑でもない。初めての感情を向けてくれたヒトの子。


「君とは良い友達になれるような気がしたんだけどなぁ」


 すっかり重たくなってしまったその子を抱きかかえて、寝具の上にゆっくりと下ろす。ふわりとした布団が子を抱き込んだ。


「もし君が純粋なヒトではなくて、同じような存在であれば」


 叶いもしない空想を思い描きながらヒトの子の髪を整える。思っていたよりも固い髪に一瞬「おや」と驚いたものの、それも一瞬の出来事で。この子がまだ温かいうちにもっといろんな言葉を交わしておくべきだったなぁと一抹の後悔がよぎる。


「……今日はもう帰ろう」


 座卓の上に並べられた2つの透明な湯呑に手を伸ばす。それらを飲み干すと何事もなかったかのようにその場を後にした。

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