第15話

猶予期間のギリギリ最終日、アミールはメーガンを連れてユーリン王国へ帰国した。

レナードのアドバイスを大いに取り入れ、メーガンの関心を見事にGET。

当然、関心のネタは宝石。

メーガンの行動を秘かに調べ、偶然を装い遭遇するという・・・まさに古典的な手段。

レナードと共にいたので、もしかしたら気付かれるか・・・と思っていたが、メーガンは、彼の胸に燦然と輝く珍しい宝石に釘付け。

顔なんて見ていない。

事実、アミールの顔を見ても何の反応も示さなかったのだから、レナードの後ろに控えていた事すら気付いていなかったのだろう。

アミールが砂漠の国出身である事を告げてもさほど興味も持たれなかったが、珍しい石が採れる鉱山を持っている事に大いに食らい付き、ダメ元で見に来てみるかと誘ったところ二つ返事が返ってきたのだ。

正直、これにはアミールも驚き、そこからはとんとん拍子で話が進み、レナードからの猶予期間最終日にはタナビ国から出国する事が出来たのだった。


始めは、ティラー公爵は彼女が国から出ることを反対した。

婚約破棄を大々的に発表し、その所為で巨額の賠償金が公爵家と王家に降りかかってきたのだ。

その元凶が、呑気に砂漠の国へ宝石を見に行くなど言語道断。

何を考えているのだと叱ろうとしたその時、ユーリン王国第二王子のアミールからの招待だと知り、瞬時に頭の中で色々な計算が始まったのだ。

もし、万が一にも第二王子に見初められたなら、結婚の条件として金を引き出せるかもしれない。

ユーリン王国は金持ちの国だ。沢山の側室を、金と引き換えに迎えているという。

公爵家を窮地に追い込んだとはいえ、やはり可愛い娘。遠くへと嫁がせるのは心苦しいが、もう苦しめられなくなるのだと思えば、安堵感の方が遥かに大きい。

どうせこの国では傷物扱いだ。どこにも嫁ぐ事は出来ない。

ならば、側室の中の一人でもいいではないか。

娘の幸せだとか何だとかよりも、自分たちの心の安寧を選んだ公爵。

そんな色んな人達の思惑が渦巻いている事など全く気付かないメーガンは、ユーリン王国へと旅立って行ったのだった。


本来であれば、長くても一月ほどの滞在予定だったメーガンだったが、半年たった今もユーリン王国へ滞在中。

というのも、なぜか鉱山で採れた宝石の原石に心を奪われ、きらびやかなドレスを脱ぎ捨てアミールの幼い頃のズボンとシャツを身にまとい、鉱夫と共に採掘場で汗を流している。

その話を聞いた時のレナードの顔は、色男台無しの自主規制がかかりそうな表情をしていたという。

愛するセシリアに見られる事がなかったのは、本当に幸いだった。

アミールの話が信じられず、宝石の買い付けも兼ねてユーリン王国へ行ってみれば、見違えるようなメーガンがそこにいた。

あの煌びやかな極楽鳥の様な孔雀の様な・・・派手さは一つもなく、長かった髪は無造作に後ろで括られ少し大きめのシャツの腕を捲り、職人たちと一緒に原石を前に話し合っている。

まるで、一端いっぱしの職人の様に。

そして、今まで見た事のないような、真剣な顔。

これは本気だと、レナードはまたも開いた口が塞がらなかったことは言うまでもない。


アミールの話では、意外な事に結構あっさりと職人たちに受け入れられたようだ。

石を掘り出す作業は、これまでのメーガンであれば拒絶しそうな、埃まみれの泥臭い大変な仕事だ。

だが、汚れることを厭わず進んで採掘に加わり、そして、その宝石を生かすデザインなども手掛け、一目置かれる存在にまでなっているという。

今では、アミールに雇われている形で滞在しており、その働きに応じて給金も出している。

その給金に関してはアミールの助言の許、公爵家へと送金しているようだ。

それを聞いて、アミールにどんな魔法を使ったのかと思わず詰め寄ってしまったくらい、彼女の変わりようは天変地異に等しい事実であった。


既にレナードは、公爵家と王家から慰謝料は貰っていた。

支払いをごねられるかと思っていたが、ユーリン王国を充てにしていた公爵はあっさりと支払ってくれたのだ。

実際の所、ユーリン王国からの援助などあるわけがないのだが。

よってレナードはもう、ティラー公爵家とは無関係になった事で慰謝料を貰った足で、すぐさまメルロ国へと移住したのだ。

エステル商会は本社をメルロ国へと移し、これまで本店だったタナビ国の店は支店という形で取り敢えずは残すことになった。

そして、メーガンとの婚約破棄から半年後、セシリアと婚約。

爵位はタナビ国に居た時と同じ伯爵位をメルロ国王から賜った。

というのも、若かりし頃に父ダニエルが、当時メルロ国王太子だった国王の結婚に一役買った事を今もまだ感謝されており、この国に移住する事を伝えたとたん、タナビ国に居た時と同じ爵位を恩返しにと言って与えてくれたのだ。

勿論、世界経済を牛耳っていると言っても過言ではない最強の商会の主でもあるのだから、例えメルロ国以外の国へ移住したとしても同じ反応だっただろう。

そのおかげで、セシリアとの婚約もスムーズに進み、さらに半年後に結婚式を挙げる事になっている。


ユーリン王国から帰ってきたレナードは、まっすぐにセシリアの許へと向かい、アミールとメーガンの話を恐怖体験でもしてきたかのように語って聞かせたのだった。

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