第7話

ペルソン一家が訪れる際は商会の荷馬車で来る事。その為、裏口からお邪魔したい事が事前に伝えられていた。

それは、婚約したばかりのレナードが堂々と他の女性のもとに通うなどという噂を広めない為と、クレメント侯爵家に迷惑をかけない為だった。

このことが公になれば、半王命で結ばれた婚約であることに異議を唱えることになり・・・まぁ、それはどうでもいい事なのだが、最悪、国家間の問題に発展しないとも限らない事と、我儘メーガンの怒りの矛先がセシリアへと向くことを避ける為だった。


人目を避ける様に馬車から降りてきたのは、深くマントを被った三人の人間。

素早く裏口から入り一室へと通された。

部屋に通され、それほど待たずにクレメント侯爵一家がやってきた。

使用人たちがお茶の準備をし、老齢の執事のみを残し皆が退出して初めて三人はマントを脱いだ。


現れたのは、キラキラという言葉がぴったりのぺルソン伯爵夫妻とレナードだった。

三人とも光り輝くような金髪に、ぺルソン家当主であるダニエルはレナードと同じ澄んだ空の様な青い目をしていた。

本日は屋敷で留守番をしている次男ブレッドと末娘のエレンは、母親に似た新緑の様な瞳をしているという。

そのキラキラとした姿にクレメント一家は一瞬瞑目したものの、にこやかに彼らを迎えたのだった。


「この度は急な面会要請にお応え頂き、感謝いたします」

ダニエル・ぺルソンが頭を下げれば、それに習うように二人も頭を下げた。

「いえ、私共も伯爵の商会には大変お世話になっていましたので、一度お会いしたいと思っていたのですよ」

ハロルドが人の良さそうな笑顔で歓迎する旨を伝えると、サンドラもまた美しい笑みを浮かべ頷いた。

「えぇ、わたくしも娘のセシリアも大変お世話になっているのよ。特にセシリアはレニー商会のアクセサリーが好きで、普段使いから全てレニー商会の商品で揃えていますの」

その言葉にレナードは輝かんばかりの笑みを浮かべ、セシリアを見つめた。

「有難うございます。まだまだ未熟者ではありますが、これからもセシリア様の目に留まるような商品を作っていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします」

「あらあら。セシリアだけかしら?」

「いいえ、侯爵ご夫妻には息子の店などでは物足りないのではとお思いますので、こちらを」

サンドラの揶揄う様なその言葉に、ダニエルが侯爵夫妻にそれぞれ贈り物を差し出した。

レナードもまた、セシリアへと綺麗な青色のリボンのついた細長いケースを差し出した。

その中身に、三人三様感嘆の声を上げる。


サンドラにはネックレスを。ハロルドにはタイピンを贈った。

その不思議な色合いの宝石に二人は釘付けになる。

「その石は最近見つかりました、バイカラーサファイアと言います。ブルーからゆっくりと違和感なくイエローに変わる色合い。ご夫妻の瞳の色に合わせて用意させていただきました。お気に召していただければ嬉しいのですが」

ダニエルの言葉に、サンドラは声を大にして叫びたかった。気に入らないわけがない!と。

愛する人の互いの瞳の色が一つの石に込められているのだ。そして、恐らくこの世で一つしかない貴重な石。

宝石を凝視して動かない夫妻にダニエルは「よろしければお着けになってみませんか?」と言うから、嬉々として着けあった事は言うまでもない。

そしてセシリアもまた、レナードから贈られた物に目を奪われる。

それはネックレスで、金の細やかな細工の下にぶら下がる、ドロップ型の透明な水色の宝石。

その宝石の真ん中にはひと際濃い、青い星のような模様が浮かんでいた。

「それはトルマリンという宝石でまるで湖の様に美しい水色をしているのです。ですが今回珍しくも、青い星が入っているものが取れたのです。この色、まるで水の中に閉じ込められた青空みたいだと思いませんか?」

意味ありげにほほ笑むレナードに、セシリアは顔を真っ赤にして小さく頷く。

「私が着けて差し上げても?」

レナードはセシリアの返事も待たずネックレスを取ると、その細い首に着けた。

「よくお似合いです」

うっとりとしたようにレナードが目を細める。

そんな彼の表情にセシリアは、はにかみながらお礼を言った。

その可愛らしさに、さらにレナードは心臓を撃ち抜かれたように、心の中で悶絶するのだった。

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