はじめての生徒

もしや、自分の知り得る全ての情報を持っているのではないか? と思えるほどにセビアのことを知っているギルに、彼女は思わず監視されているのでは? と疑う。一瞬『同期シンク』の魔術を掛けられているのでは? と疑ったが、ここでリーフの名前が出てくるあたり同期シンクではないのだろう。


「気にするな」


「もういいですよ……僕はあの人が一番嫌いです」


セビアの口から出た言葉にギルは心底驚く。彼が見る限りリーフという人間はセビアの味方であったからだ。


「……何故だ? 俺が知る限り奴はお前の唯一の味方という感じだったんだが……」


「嫌です……言いたくありません……」


「ならいい、早く戻れ」


ギルは話を切り上げてさっさと戻るよう指示する。


「あの……魔術を教えて下さい!」


しかしセビアはそこから動かずに頭だけを下げ教えを乞うてきた。


「……随分と都合のいい奴だな、リーフとやらに関しては言いたくない、そしてその直後に魔術を教えろと?」


口に出してから少しだけ疑問に思った。自分も共有リンクをかけて彼女をパイプとして情報を得ている。これで教えなければこちらが都合のいい奴なのでは? という疑問だ。


「それに俺は魔物だ。何故魔物である俺に教えを乞う? それこそ学園の騎士とやらに教えて貰えばいいだろう。学園なら俺より強い教員など山ほどいるはずだ」


正直教えたくはないので自分が魔物である、ということをフル活用する事にした。


「貴方は自分より格上のAクラス騎士二人を殺しています。余程魔術の扱いが上手いのではないでしょうか?」


元勇者であるだけあり、魔術や武器の扱いは人並み以上であるという自負はある。しかし彼は怖かった。一度裏切られた身であるからこそもう一度裏切られるのでは? という恐怖もあったのだ。そう、次に裏切られたら今度こそ自分は完全に魔物となり、人類に完全な敵対をしてしまうのでは? という恐怖があったのだ。


「残念だが、俺が奴らに勝てたのは戦いの最中に下位悪魔レッサーデーモンから中位悪魔グレーターデーモンに進化できた事による所がある。魔術の強さじゃない」


咄嗟に出た言葉であったがこれは事実だ。もし仮に下位悪魔レッサーデーモンのまんまであった場合、おそらく魔力弾では倒しきれず、劣勢を強いられたに違いない。


中位悪魔グレーターデーモンはAクラスの魔物、本来はAクラスの騎士が単独で討伐可能な存在です。それを退けたとなるとやっぱり魔術による所が大きいんだと思います」


「……まあいい、それじゃあ一つだけ聞かせろ。お前が最も嫌っているリーフとやらが言っていた討伐隊っていうのはどう言うことだ?」


あの二人が来てから、一つだけずっと気になっていたことをセビアに問う。


「討伐隊? 何のことですか?」


「お前がリーフと話していた時に言っていただろう。討伐隊が組まれるとか」


二人を相手取るだけでもあれだけ苦戦したのだ。あんなのが10人も20人もこられたら流石に現状では敵わないだろう。最悪は森を出ることも考えなければいけない。


「ああ、あれは気にしなくていいですよ、あの人すごい大袈裟なので。少し魔物がでただけで討伐隊だの何だのって騒ぐんです、情報の仕入れ先は……もう聞きません」


そろそろ共有リンクについて教えるべきか? という考えが一瞬頭によぎったが直ぐにかき消す。


「懸命な判断だな。まあ魔術に関しては教えてやる」


「いいんですか!? ありがとうございますっ!」


(勝手に共有リンクをかけたんだ。これくらいはするべきか)


ギルは勝手に魔術をかけたことに少しだけ罪悪感を感じていた。都合のいい奴にもならないために、ここらで教えておくが吉だろう、と考えた。


「それじゃあまずは一つ目だ。魔術を使う時に大切なものは?」


「……魔術陣の精度でしょうか……? 学園ではそう教わりました」


「残念、的外れだ。まずはここからだな、明日までに考えてこい。そしたら自ずと答えは見えて来るだろう。それじゃあもう帰れ。少なくとも今のお前に教えることは何もない」


そう言ってセビアに背を見せ、ギルは森の奥へと消えて行った。

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