接触

「おい、ちょっと面貸せよ」


放課後、先生と話し終わり、荷物を教室へ取りに来たセビアが帰ろうとすると、その前に数人の男達が立ち塞がる。


「もう帰るので、失礼します」


セビアは男達を無視してさっさと帰るために教室を出ようとする。


「いいから来いって言ってんだよ!」


無視して去ろうとしたセビアの腹部を一人の男が思い切り殴りつけた。


「いっ……!」


同年代の男からの殴打、当然無視できる訳もなく彼女はその場で蹲る。蹲ったセビアを男達は持ち上げ、そのまま目立たない所へと連れて行った。


「テメェ最近調子乗りすぎなんだよ、獣人風情が! お前ら抑えろ!」


リーダー格の男、ニッグの言葉に、横にいた者達はセビアの腕を拘束する。動けないセビアに向けて、ニッグは手をあげる。


「やめて……! 離して……!」


セビアも必死に抵抗するが二人の力には勝てず、抜け出すことができない。


「魔力無しのクズが! 魔素測定マナそくていでこの俺様より上に行きやがって……! お前がC−クラスだって!? どんなイカサマをしたんだ!」


事の発端は今日の午前に行われた魔素測定マナそくていだった。この測定では、技術、魔力関係なしに純粋な魔素量を測定するもので、ニッグはセビアに上をいかれたことが気に入らなかったらしい。

 学園生は入学と同時にEクラス騎士という地位を与えられる。そして訓練等により魔素量や魔力のコントロールを経て卒業していくのだ。本日の測定においてニッグはD+でセビアはC−だった。こと魔素マナ測定においてはセビアは学園1だ。


「僕はイカサマなんてしてない……! 離して!」


イカサマという言いがかりを否定して、必死に抵抗する。


「黙れイカサマ! 魔力なしのゴミクズが……!」


反抗してきたセビアにさらに怒ったニッグはついに魔術を発動させようとする。


「ニッグ! それはまずいって!」


仲間達も流石にまずいとニッグを止めようとする。


「黙れ! フレイム!」


仲間達の注意も無視してニッグは第一位階魔術をセビアに向けて放った。かなり速度が遅い。ニッグも冷静ではなく、術式構築になんらかの欠陥があったのだろう。しかし先程の暴行によりボロボロになったセビアには、魔術を避ける気力はない。セビアは目を瞑り、手を前に出しできるだけダメージを減らす措置を取ろうとした。


「おい、大丈夫か?」


炎とセビアの間に一人の男が立ち塞がり、容易にニッグが放った炎魔術を止めた。


「……え? あ……」


セビアは守ってくれた何者かにお礼を言おうとするが、言い終わる前に気を失ってしまった。

 謎の男は倒れたセビアを軽く見た後、校舎の壁に座っている男達に目を向ける。


「お前らは何のつもりだ?」


冷たい視線に怒気を孕んだ声、目の前の男が怒っていることに気がつきニッグ達は一瞬怖気づく。しかしすぐさま立ち上がりニッグは男を睨み返す。


「お前こそ何なんだ、邪魔しやがって! 俺の親父はSクラス騎士だぞ、親父に言いつけてやるからな!」


物怖じせず、大きい声でニッグが男に向かって言う。

ニッグの言葉を聞き終わった男は興味なさげに視線を外し、気を失っているセビアを担いで場を離れて行った。



「あれ……? ここは?」


セビアが次に目を覚ますと、彼女の視界には生い茂った木々が映された。


「目覚めたか」

「ま、魔物!? ……って昼の悪魔デーモン……」


気を失っていたセビアが目を覚ますと、まず目に入ったのは自分のそばに座り込んでいる魔物だ。一瞬「殺されるのでは?」と怯えたが、すぐに昼間に会った悪魔デーモンだと気がついた。


「ああ、さっきぶりだな」

「あの、さっき助けてくれた男の人って……」

「俺だよ。人間に変装してな」

「ありがとうございました。正直あんな魔術でも結構危なかったです……」


メンタル面も肉体面も既にボロボロだったセビアだ。あのような低域の魔術だろうと抵抗レジストできずにそれなりのダメージを負っていただろう。


「気にしなくていいぞ、自分の為でしかないんだ。それよりもいくつか聞きたいことがあるんだがいいか?」


あくまでもギルがセビアを助けたのは情報の為でしかないのだ。共有リンクが解かれたら情報を入手しにくくなるためやむなしである、決して同情からなどではない。


「あ、はい……ってナチュラルに魔物が喋ってる!?」


段々と意識がはっきりしてきたセビアは目の前の魔物と会話していると言う驚愕の事実に気がつき思わず叫んでしまう。


「気にするな」

「流石に気になります」

「黙れ、それ以上言うと殺す」

「酷くないですか!?」


軽く脅されたため、セビアはそれ以上言うのをやめた。


(あの目は本気だ……)


彼女は目の前にいるギルの目に軽く恐怖を覚えることとなった。生物的な本能だろうか。


「それで……聞きたいことですか……?」


セビアは気持ちを切り替え、対話を試みた。あくまでも怯えながらではあるが……ギルにとってはセビアが怯えていようがいまいが気にしないので何も問題はない。

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