獣人の少女
「なんだ、生きてたのか」
少女、セビア・リモニウムは学園に戻ると同時に先程一緒にいた少年の一人、ニッグと遭遇する。
「お前みたいな魔力も持ってないゴミがどうやって帰ってきたんだ?」
「え、あ……あの悪魔がすぐに帰って……」
強く当たってくるニッグにおびえつつも正直に答える。
「弱すぎて獲物とも認定されなかったんだな、これだからゴミは」
「……それって追いかけられなかったニッグ君も同じじゃ……」
セビアは控えめに思っていたことを口に出してしまった。
「あ? テメェ舐めてんじゃねぇぞ! ウィンドカッター!」
セビアの言葉に激昂したニッグは再びセビアに向けて風魔術を放つ。
「ひっ……」
びびったセビアは目を瞑り手を前に構え反射的な防御姿勢を取り、痛みを少しでも軽減しよう務める。しかし待てど暮らせど、痛みは一向に来なかっ。
「お前……何をした?」
目を瞑っていたセビアは見ることができなかったが、ニッグは確かに見ていた。セビアに当たるおよそ50センチ手前、ニッグの風魔術が霧散したのだ。
「え? あの……」
「お、こいつ生きてたんだ!」
セビアが答えようとした瞬間、残りの二人もニッグのところへ来て、醜い笑みを浮かべていた。生きている……おもちゃが壊れなかった喜びだろうか。それともーー
「いくぞ」
ニッグは二人が来たと同時にセビアに背を向けて教室の方へと向かっていった。
ニッグ達が見えなくなったことを確認してセビアも教室へ向かう。昼休みの終了まで後1分くらいしかない。このままではHR遅れてしまう、と少し足を早めた。
「はーい、みんな集まったかな? それじゃ連絡事項を一つ、森には近づかないようにね、詳細は明日以降伝えます。それじゃあ今日は午後の授業はなかったね、解散! あ、セビアは残ってね」
おそらくはあの
◆
「リーフ先生! 職員室に獣人を入れないで下さい、獣臭いったらありゃしない。全く、これだから若い者は……」
セビアが職員室に入るとすぐに、担任の先生、リーフ=レヴァンが怒られる。教員としては、生徒を差別するというのは本来問題であるはずなのだが……セビアは獣人であるため何の問題もない。それほどまでに獣人の立場というものは低く、セビアが学園に未だ通えていることも奇跡なのだ。
「ま、まあ、セビアも生徒なんですからそんなこと言わずに……」
リーフはまだ新任の教師であるため、上の先生には強く意見できないようだ。すみません、すみませんと謝って、話を躱しながらセビアの方へと足を運ぶ。
「さてセビア、少し話そっか」
「はい、いいですけど……ここで大丈夫ですか?」
視線を感じ、そちらの方を見ると複数の先生が早く出て行けと言わんばかりにセビア達を睨んでいる。このような対応も、もう慣れたのもだ。
「うーん……それじゃあ空き教室行こうか」
二人できつい視線を背に、空き教室へと向かった。
「さて、今日呼んだのは森について何だが……率直に聞こう、森で何があった? そして
世間話も一切せずにいきなり本題へと入る。
「何で僕に聞くんですか?」
リーフ先生には森に行くなどとは一言も言っていないはずだ。つけてきたのか、あるいはいじめっ子どもの報告を聞いたのだろうか。
「実はな……昼休みの始まったあたりでセビアとあのいつもの三人が森に入って行くのが見えてな、そのあとあの三人だけ帰ってきて私に
「……いましたよ、
あまり思い出したくない出来事だったのだろう、彼女は少し表情をゆがめながらおもむろに口を開いた。
「囮に!? 大丈夫か? 怪我とかは!? すぐ保健室行くぞ!」
「無理ですよ、僕は保健室も使わせて貰えません。それに怪我ならもう治りましたから大丈夫です」
「そうか……それじゃ怪我した時は私に言いに来い! こう見えて回復薬は常備してるんだ!」
そう言ってリーフは服の中にしまってある大量の回復薬をセビアに見せつける。
「一応足に使っておくか」
そのうちの一本を取り出して、セビアの足にかける。
「あ、ありがとうございます……あの、何で獣人の僕にそこまで優しくしてくれるんですか……?」
世間の常識では、獣人は基本的に奴隷、家畜と同じ扱いである。そんな獣人に優しく接する人間など本当に一握りだ。セビアに優しくしてくれた人間は一人だけいたがそれだけだ。寧ろ、獣人であるセビアが学園に通うことを是としない人の方が多く、先ほどのようないじめが横行する上に先生もそれを止めない。寧ろ陰ながら応援しているだろう。
「んー? だって下らないだろ? 獣人だの人間だのって、獣人だろうが人間だろうがセビアはセビアだ! それにな……私はオーディン教が嫌いなんだよ、あの人間至上主義の腐った宗教が」
「先生!? そんなの誰かに聞かれたら……!」
「ああ、魔女認定されて即刻死刑だろうな。まあここなら防音壁張ってるし誰にも聞かれないよ」
「僕が聞いてますよ……?」
「ん? セビアは誰にも言ったりしないだろ? お前はそういう奴だ!」
「まあ最終的な答えは……セビアはセビアだ、それ以上でも以下でもない。それだけだ」
そう言う先生の笑顔は少しだけ陰りがあったがすぐに消え失せ、屈託のない笑顔に切り替わる。
ーーほんっとに下らない……
「あ、そうだ……先生、
いくら
「ああ、あの森に出たとなれば討伐隊が組まれるだろうが……何かあるのか?」
「あ、いえ……あの
セビアはしどろもどろになりながらも必死に先生を説得しようとする。
「セビアの言いたいことはよく分かった」
「じゃあ……!」
リーフの期待を持たすような言い草に一瞬期待するがーー
「いや、悪いけどそれは無理だと思う、
「そうですよね……変なこと言ってすみませんでした……それじゃあ失礼しました」
セビアの願いは最もな理由があるため、かなうことがなく、彼女は少しだけ落ち込みながら部屋を出た。
◆
(ふむ、討伐隊が組まれる可能性ありか……それにしても獣人は随分蔑まれてるみたいだな……まあどうでもいいか、さて、これからどうしたものか……討伐隊を大人しく待つか、それとも別の場所に逃げるか……待つことにしようか、もしかしたら来ないかもしれないしな。できればもう少し力をつけるまで移動するのは避けたいところだ)
(それにしてもオーディン教……俺がいた頃にはなかった宗教だ。獣人の地位が低いのはそれが原因か……? もっと他に要因があるのか……? どちらにせよ、少し調べる価値はありそうだな)
何をするにしてもまずは力が必要だ。今のギルは知識、それから技術の全てを総動員したとしてもせいぜい
(さて……と、魔物を探しにいくか。流石にこの辺にいる魔物には負けないだろ)
ギルは再び魔物を探しにいった。
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