身代わり

連喜

第1話 手紙

 僕が家に帰ったら、お母さんから「手紙が来てたよ」と言われた。何の手紙だろう。正月に年賀状が届く以外、僕に郵便が来ることはない。多分、塾とかからの郵便かと思っていた。玄関でお母さんからもらったのは、ペンのイラストが書いた便箋で、僕の名前宛の住所と名前が書いてあった。送り主を見たら、虎田啓太君だった。習い事が一緒で、会えば話すという感じの子だった。僕たちはそんなに親しくないけど、お母さんと虎田君のお母さんが仲良しで、習い事が終わるのを待っている間、道場の後ろで立ち話をしていたと思う。


 その習い事は、格闘技系で、僕やはりたくなかったけど、お父さんに連れて行かれて5歳くらいから習っていた。虎田君は僕よりちょっと遅く入ったけど、背が高くて、運動神経がよくて、強かった。でも、意地悪でもないし、威張ってもいなかった。多分、いいやつなんだろう。


 僕は中一になって、高校受験の塾に通うから、その習い事を最近辞めていた。何だろう・・・辞めたから別れの挨拶とかだろうか。僕は玄関で立ったまま封筒を開けた。

 お母さんはいつもそうしていた。いらない郵便をその場で仕分けするためだ。


「啓太君のお母さんに住所を聞かれてたから、手紙を送ってくれたんだね」

 お母さんは言った。そして、興味なさそうに2階に上がって行った。僕ははっきり言って啓太君に対しては何の感情もない。嫌な人でもないし、好きという感じでもない。普通だった。しいて言うなら、手紙に返事を書くのは面倒臭かった。

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