2
「あの、糸さん」
「はい、なんですか? 湖ちゃん」
にっこりと笑って糸は言う。
「糸さんは兄さんのどんなところが好きになったんですか?」湖はいう。
「どんなところって、えっと」
と糸は考える。(本当はすぐに全部です、という答えが自分の頭の中に浮かんだのだけど、恥ずかしいのでそのことを言うのをやめてしまったのだ)
うーんと考えている糸の顔をじっと湖は見つめている。
そんな自分より四つも年下の女の子の視線を感じて、糸は早く答えてあげないと、と焦ってしまう。
四つ年下、と言っても側から見るとどちらかというと小柄で童顔な糸のほうが背の高くて大人っぽい顔をした湖よりもずっと幼く見える。(実際には糸は二十歳であり、湖は十六歳の女学生だった)
「……優しいところ、かな?」
と少し顔を赤くしながら糸は言う。
「優しいところ。確かに兄さんはとても優しいですね。ずっと昔から、ずっと優しいです」うんうんと頷きながら湖は言う。
「湖ちゃんは清志郎さんのこと大好きですもんね」ふふっと笑って糸は言う。
「そんなことありません。私は別に兄さんのことなんて好きでもなんでもありません」と真顔のままで、湖は言う。
清志郎の年齢は二十二歳だった。
だから湖とは六つ歳が離れた兄妹ということになる。
六つ歳が離れている兄のことが湖は小さな子どものころからずっと(もちろん今も)大好きだった。
大人になったら兄の清志郎と結婚することが湖の(ずっと変わらない)夢だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます