ダンジョンスイーパー

駅前商店街

第1章 掃除仲間

第1話 今度は何になる?

これで何回目の転生だろう。

俺っていわゆる異世界転生のベテランなんだろうな。

勇者、魔王、英雄、王、賢者になった。はたまた謎の冒険者、ギルドマスター、暗黒街を牛耳る顔役、奴隷、酒場の親父にもなった事がある。義賊として処刑されたりもした。


だが転生したその度に思う。

ああこれからまた旅が始まるんだなと。

このわくわく感。

当然始めは取るに足りない低いステータスからのスタートだ。

だがこれがいい。これから伸ばせばいい。成長すればいい。

経験値を積み重ねればいい。


思えばこれが俺の原点なんだな。

現代日本での生活、まだ中学生だった俺は、当然バイトも出来ず収入は親からのおこづかい、それとお年玉。

それらの貴重な財産を使って買うゲームソフト。

当然その頃はネットなんてものは無く、情報はゲーム雑誌か、友人からの怪しい噂のみ。なのでソフト1本買うのも、言葉はあれだか、命がけだ。

そのゲームがクソゲーならは、一か月間は暗い生活を送る。

だが当たりだったら?


そのころ流行はやりはじめたRPG。

俺は日本製ではなく、海外作品のとあるダンジョンものを購入した。

地下10階、たしかマス目が20x20の大きさだったと思う。

一番始めのキャラクターメイキング。良いボーナス値が出るまで何回もやり直し、二日かけて6人パーティを作り、訓練場と呼ばれるダンジョン地下一階へ。

そこであっさり全滅。慌てて第二次のパーティを作り、それらの亡骸を回収して最アタック。これがはまった。

毎日学校から帰って来ると、すぐダンジョンへ。

マッピングもアナログで作成だ。

学校の教材の方眼紙を使って、一歩歩くごとに地道にマッピング。

2~3週間後には、地下9階へ到達。そして最終階へ。

ラスボスを苦労して倒すが、このゲームはそこからが本番だ。

毎日地下9階~10階をうろつき回り、<??>のついたアイテムを探す毎日。そしてやっと見つけた歩くだけで回復する<回復の指輪>。その夜は興奮して寝られなかったことを憶えてる。


そんなRPGゲームに味を占めて、それからは弱い冒険者をひたすら強くすることを繰り返す。


なので、異世界に転移、転生したとしても、レベル1は大歓迎だ。

最初はもちろん、弱い魔物の討伐、薬草などの採取クエストからスタート。これがなんとも楽しい。


だから、勇者メンバーの剣士として魔王を討伐した1年後、やることが無くなって呆けていた時に現れた、おなじみの女神さま。


「今度は何になりたいの?」

「そうですね、もうあらかた経験したので次はちょっと変わった職業に就きたいですね」と旧知の間柄になったその女神さまに話した。


「う~ん、物凄~く変わったのがあるけどなあ」

おお!それこそが自分の望みです!

「そ、そお?ならば・・。それと今回どうするの?レベルはどこからスタートする?」

もちろんレベル1で!

「もしかしてそれだとつらいかも・・」

大丈夫です!

「そんなに言うのなら。でもいつもと同じく、ちょっとしたプレゼントを渡しておくわね」

これもおなじみだ。

勇者の時は、<ブレイブリング>なるものを貰って味方全員の士気を高めたり、伝説の鍛冶屋になった時、必ず鋳造物に付加価値が付く、<ゴッドハンマー>なるものを貰っていたのだ。一種のチートだな。


「もうあなたにはなにもアドバイスすることは無いわ。今回も頑張ってね~」

という声と共に女神さまは居なくなった。

そして気が付いた時には、どこか見知らぬ土地にいて、目の前には大きく口を開けているダンジョンが。


ふむ、いきなりのダンジョン攻略と来たか。

よしいいぞ。

でもまずは、今回自分が何者になったか検証しなくては。


今までと同じように目の前の空間に手をかざし、「ステータスオープン」と唱えた。


【名 前】 ケンタ 

【年 齢】 15

【JOB】 掃除人

【職業レベル】 1

【一般スキル】 <清掃><裏・清掃>

【特殊スキル】 <アイテムボックス><鑑定><ステータス操作>

【ユニークスキル】 


え?掃除人?

お!これってもしかして、魔物を一掃スイープする職業か!

ふむふむ、なかなかかっこよさそうだ。

で【一般スキル】が清掃か。なるほど。


ちなみに【特殊スキル】にある三つは、いつもデフォルトとしてついてくるスキルだ。


【一般スキル】のスキルシステムは過去と同様だな。

職業レベル=スキルポイント(以下SP)だ。 


【一般スキル】はスキルレベル(以下SL)①~SL⑩まであり、それらにSPを割り振ることによって使用可能となる。


SL①の取得には、SPが+1必要  :【職業レベル】  1

SL②の取得には、SPが+2必要  :【職業レベル】  3

SL③の取得には、SPが+3必要  :【職業レベル】  6

SL④の取得には、SPが+4必要  :【職業レベル】 10

~~~~~~~

SL➈の取得には、SPが+9必要  :【職業レベル】 45

SL⑩の取得には、SPが+10必要 :【職業レベル】 55



なので早速この<清掃>という【一般スキル】にSPを割り振る。

割り振った結果・・。


【一般スキル】

<清掃>   SL① : 掃除用具装備可能

       SL② : ???

<裏・清掃> SL① : 裏・掃除用具装備可能

       SL② : ???


はい?

・・おお、そうか!魔物一掃用の武器だな、きっと。

鎌なのか?槍で薙ぎ払うのもいい。弓矢で全敵にホーミングかもしれない。


「お、こんなところにおったべな、早うこっちこんかい」

え?誰?

「お前今日から、このダンジョンの掃除人として来たケンタじゃろ?」

「ああ、俺がそうだ。でダンジョンの何階層をスイープすればいいんだ?」


「はあ?何ボケかましとんじゃ。お前の仕事はこのダンジョンの入口の掃除じゃ」

え?入口にもモンスター出るの?

「ばかこくでねえ。つべこべいわずあの用具置場から道具もってきて掃除せんか」

おお、そうだな、まずは武器や防具やアイテムが無いとな。

俺は指定された物置のような倉庫に行き扉を開けた。


その途端、頭の中にメッセージが浮かび上がった。

<ブラシ>が装備可能になりました

<モップ>が装備可能になりました

<ほうき>が装備可能になりました


<オーバーオール>が装備可能になりました

<布マスク>が装備可能になりました

<皮のエプロン>が装備可能になりました


アイテム<チリトリ><ごみバサミ>を取得しました


え?これってまさしく街を綺麗する人たちの事?

まさか掃除人って・・。


ええええええええ~~~~~!!!!!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


王都から南西へ馬車で4~5日ほどの所にある中規模の街、アスランデ。

穀物や野菜の生産が主だが、もう一つ重要なものがある。


街から30分くらい歩くと見える建造物。

建造物?いや違うな。神殿風の建物で地上一階建てだ。規模は大きいが、それだけだ。しかし入口あたりには大勢の人間がいる。


そうだ、この神殿こそアスランデの街を全国に知らしめたダンジョン「夢幻の穴倉」の入口なのだ。

「夢幻の穴倉」は地下30階。

地下10階までは、初心者。

地下20階までは、中級冒険者。

それ以降、最終の地下30階までは、ベテラン、上級といった冒険者といった区切りで攻略されるのを待っている。

そのわかりやすい構造だからか、全国より冒険者が集まり、稼いだ金をアスランデの街に落とす。

しかもこのダンジョンには、特筆すべきことがもうひとつある。

なんと地形が変わるのだ。毎日では無く、季節ごとなので年に4回変化する。そしてそのたびごとに、魔物、ボス、落ちているアイテムが一新される。


その区切りは、このダンジョンを管理しているアスランデの冒険者ギルドとダンジョン協会アスランデ支部によって調査されていて、内部の構造が変わった時点で、その支部から周知される。

その時期は、一種のお祭り騒ぎだ。全冒険者が我先にとダンジョンに入っていく。


腕に覚えのある冒険者は、より早くより深く潜ることに専念し、レンジャーや盗賊、トレジャーハンターなどは、マッピング、隠し部屋、見えない扉などをじっくりと探索していく。

特にマップは、ダンジョン変化時の一番人気の商品となるため、先を争って作られる。

まあ当然日数の経過とともに価値が下がってしまうが。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


今の季節は春から夏にかけてといったあたりだ。

前回のダンジョン再創生から約一か月。

やっと創生日の狂乱から解放されて、今はマップとか魔物、ボス、討伐アイテムと言った情報がほぼ出揃ったことで、第2陣といった冒険者たちがやってくる。


俺がこの世界に転生してから約2週間。

なんとかアスランデの街の一角にある貧相な狭いアパートを拠点として、生活することができて、これらの情報を知ったのだ。


俺の仕事はやっぱり清掃人だった。

神殿の一階はダンジョンへの大エントランスホールとなっており、そこにはダンジョンアタック受付、売店、レンタル武具屋、軽食堂等がある。

神殿を出るとそこは公園のような広場となっており、各パーティ同士の歓談や情報交換、またはメンバーの入れ替え等で賑わっている。

そしてその広場からアスランテの街まで続くメイン街道へ出ることができる。俺の清掃担当は、そのメイン街道と公園広場をつなぐ長さ100m、幅10mくらいの連絡用の通り道。そこが俺の職場だ。


もちろん野外なので、いろいろなゴミ、葉、土砂が飛んでくる。

とくにひどいのは、冒険者たちが捨てていくゴミだ。

やつらは、ダンジョンからの拾得物で不要なアイテム、金になりそうもない武具、刃がかけた剣や、ぼろぼろになった服をこの通路に捨てていくのだ。

それらを拾い集めて、所定の場所に捨てる。中にはまだ使えるアイテムなんかも落ちてる。まあそれは掃除人たちの暗黙の了解で自分のものになる。公園広場にはそういった掘り出し物が多く、掃除人も多数いるが、この連絡通路は俺だけだ。しかし本当にろくなものがない。


今日も端から端まで、ほうきで掃いたり、ゴミとかを拾い集めている。

ちなみに今の俺のステータスは以下の通りだ。


【名 前】 ケンタ 

【年 齢】 15

【JOB】 掃除人

【職業レベル】 3

【一般スキル】<清掃> 

【特殊スキル】 

【ユニークスキル】 


実はこれは表向きだ。身分証明や、街への出入りとかで提示を求められた時に見せる部分だ。【特殊スキル】の<ステータス操作>で見た目を変えているのだ。そしてこれが俺の本来のステータスになる。


【名 前】 ケンタ 

【年 齢】 15

【JOB】 掃除人

【職業レベル】 3

【一般スキル】<清掃><裏・清掃>

【特殊スキル】<アイテムボックス><鑑定><ステータス操作> 

【ユニークスキル】 


【一般スキル】にある<清掃>スキルは、掃除人なら誰でも持っているスキルだ。そして<裏・清掃>。これは俺だけが持っているものだ。


なので今はこの<清掃><裏・清掃>スキルの2段階目のSL②を取得している。【一般スキル】へSPを振り分けると、そこにあるすべてのスキルに適用されるので、俺の場合、この二つがSL②となるわけだ。


【一般スキル】

<清掃>   SL①:掃除用具装備可能

       SL②:吸い寄せ(半径3mのゴミを一か所に集める)

       SL③:???


<裏・清掃> SL①:裏・掃除用具装備可能

       SL②:吹き飛ばし(半径3mのゴミを吹き飛ばす)

       SL③:???

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


俺がこの世界に転生してきて一か月が過ぎた。

なんとかかつかつで生活出来てるといったところだな。

といっても相変わらず、いつもの連絡通路を清掃しているが。

その掃除の順路を一旦終えて、掃除具置き場に戻ってきた。

この内部の清掃も、新人の担当なので今は俺がやっている。

その時ブラシが並んでいる床の上でキラリと何かが光った。

ごくたまにだが、硬貨とか落ちている場合もある。なのでなんとか器具をどかして、やっとそれを掴むことが出来た。


指輪だな、こりゃ。ぱっとみ、薄汚れていて、価値のあるものには見えない。だが思い当たるところがあるので早速<鑑定>だ。


【主張の指輪】

落ちている物または捨てられている物限定で、自分の物だと主張することが出来る

成功確率100%

レア度:反則級


家に帰って綺麗に汚れを落としたら、普通の指輪になった。

おそらくこれが女神さまの言っていた、チートアイテムだろうな。

今までもこのような取得方法だったしな。


次の日からこれを装備し、清掃業務を続けていたが早速この指輪の効力が発揮する場面に出くわした。

いつものように冒険者が捨てていったゴミを束ねて、ゴミ置き場に持って行った時のことだ。

このゴミ置き場からは、何日か毎に専門の焼却業者が来て全部もっていくんだが、遅れているようでゴミが置き場に入り切れず外まではみ出していた。


「まったく、早く持ってってくれないと置き場に困るぞ」

と文句を言ってみたが、ふと目の端に違和感を感じた。

そこへ目を向けて見ると、大きめの麻袋があり、なにやらもぞもぞ動いている。

はあ?おいおい、誰だよ。

こんなところに魔物を袋詰めして捨てたやつは!

慌ててこのダンジョンを管理しているギルドの分室へ向かおうとしたが、なにやら袋の中から声がする。

「・・んん・・むむうう・・あううう」

え?人間?うそだろ?捨て子?小さいが幼児ではなさそうだ。


「おい、あんた人間か?なんで袋に入っている?」

「・・はうう・・ううう・・おねがい・・」

え?女の子の声?

俺は慌てて袋の結び目をほどいてその子の顔だけ出してあげた。

「・・はあはあはあ・・」

え?顔は汚れていたが確かに女の子だ。まだ若いな。12歳くらいか。


と思っていたら、急に周りが騒がしくなった。

「ふさけんじゃねえぞ。あんなお宝、間違えて捨てんじゃねえ!この間抜けが!」

「す、すいやせん、アニキ。他のガラクタと一緒だったんで!確かこっちに捨てたと・・」


げ?なんかやばそうだ。

「悪い!もう一度隠れてくれ!」と俺はその子に言って再度、袋の中に押し込んだ。

「え?ちょ、ちょっと!・・む、むぎゅう!!」


やがて一目で荒くれ者とわかる一団に囲まれた。

「おう、小僧!おとなしくそいつを渡しな!」アニキと呼ばれたリーダらしい男が俺に詰め寄ってきた。

「え?何を?ここはゴミ捨て場だぞ」

「うるせえ、でめえの抱えている袋は俺が間違って捨てたんだ・・・・・。とっととそれを置いて失せやがれ!」

「ああ、悪いな、お兄さん方。捨てられたものはすべて俺のものなんだ」

「なんだと?ああ?この野郎!」

俺はそいつに胸倉を掴まれながら、【主張の指輪】に意識を向けた。

「・・ああ。ちくしょう!こいつのいうことは間違っちゃいねえ・・くそっ!上玉だったのによう、あきらめるしかねえぜ!おいてめえ!覚悟はできているんだろうな!」とそいつは捨てた方の手下を小突きながら、その集団と共に帰って行った。

はああ・・・助かった。

以前だったら、剣士のスキル一発で蹴散らしていたが、今の俺は単なる掃除人だ。


「お~い、やつらいなくなったぞ。もう大丈夫だ」

と言って、また麻袋の結び目をほどいた。

「・・ああ、あ、ありがとうございます!なんとお礼を・・」

「まあ、いいさ。今度から変なのに捕まるんじゃないぞ。じゃあな」

「あっ!待って!待って下さい!ここはどこなんでしょう!そ、そしてわたしは誰なんでしょう!」


はあ?なんだって?


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