7度目の人生(4)

 そうして私は彼と旅に出た。


 彼はもう何十年もご飯をまともに食べてないと言う。ではどうして死なないのかと聞くと、精霊達が果物や木の実を持って来てくれたから、それで飢えを凌いでいたと言った。確かに彼は精霊達に愛されている様だ。一緒に旅をしていると、そこかしこに精霊の気配を感じる。


 あの集落も彼を虐げなければ精霊の加護があっただろうに……。一応、最初の人生で見つけた過酷な環境でも芽を伸ばす植物を渡したが、無駄になるかも知れない。精霊は愛した者を害する人間には容赦がないから。


 冒険者として彼をギルドに登録しようとしたが名前がないと言う。聞けば母は彼を産んだ時に亡くなり、父は5歳の時に亡くなったらしい。父が亡くなった後に狩をしていたら、住民達が彼の異常さに気付き、小屋へ閉じ込めたそうだ。植物を上げるんじゃなかった!もっと酷い目に遭えばいい!ついついそう思ってしまった。


 私も精霊に愛される者だ。あの集落が滅びるかも知れない。そうティンクに言ったら、「自業自得ですよ」とあっさり切り捨てられた。そうかも知れないと納得する事にした。


 彼にはアルノーと名前をつけた。生贄にされた可哀想な勇者アルノーの代わりに魔王を退治して欲しい……そう願って付けた。


 アルノーは人間離れした成長速度で強くなっていく。これが勇者の才能かと舌を巻くほどだ。私にもこの才能が有れば……そう思いながら一緒に旅をする。


 11歳の時に戦士のヨルダンに会った。前回の時には知らなかったけど、彼は奴隷として売られていた。元々彼の剣筋は悪くなかった。即金で買い、剣術を教える。

 聞けばアダル国の騎士だったらしい。自国の政策が許せず反発したら売られたと言う。その政策については何度聞いても教えてもらえなかった。お嬢ちゃんが聞くもんじゃねぇ、といつも断られた。それでもやはり彼はムードメーカーだ。なんだかんだでいつも明るく前向きな気持ちにさせてくれる。


 12歳の時にドミニクに会った。魔塔へ向かうと言う彼をスカウトして私の弟子にした。魔塔より私の方がより良い魔法を教えられる。真面目な彼は私の期待に応えてくれた。次々と魔法を覚えていく。このままいけば20歳を超える頃には賢者になれそうだ。そう……そこまで生きれれば……。私が死ななけれれば……。


 3人を鍛えながら大陸中を冒険する。

「フェリは小さいのになんでそんなに強いんだ……」

 ため息混じりにつぶやくアルノーに私は笑って誤魔化す。


 するとヨルダンが指を振り、チチチチと言いながら「女には多少の秘密があるもんだ。それを聞くのはヤボだぜ」と言ってくれる。

 それを見てドミニクが笑ってくれる。本当に良い仲間だと思った。この人達を殺させたくない……心からそう思った。


 15歳になった頃、魔王軍侵攻の情報が入る。その頃私の身代わりをさせている精霊から情報が入った。オレリアの武器、防具が完成したと。そこで私は世間に聖女として魔王討伐に行くと発表した。


 仲間達には身代わり精霊のことを話し、実は聖女でイリゼ国のエルヴェシウス伯爵令嬢だったと正直に話をした。もちろん人生を繰り返していることは内緒だ。それだけは言えない。

 仲間達は納得してくれた。そしてオレリアの作った武器防具を身に付け、一緒に魔王討伐に向かう事が決定した。


 オレリアの武器防具は前回を凌ぐ出来だった。私が前回の知識を伝えているとは言え、これほどの物を作るとは……。彼女には薬より武器防具に開発の方が向いていたのかも知れない。


 私が鍛えただけあって、このパーティーは強かった。ましてや今回は本物の勇者だ。オレリアがどんなに良い武器を作ってもジークシュベルトには敵わない。


 魔物や魔王軍を撃破しながら4人で旅をする。そして前回私が死んだ地アダル国の国境沿いにやってきた。

 ヨルダンが目を細めて彼の地を見てる。ヨルダンにとっては故郷だ。魔王軍に蹂躙されているとすれば見たくもないだろう……。

 

 そう思ったのでアダル国の都市を迂回しながら魔王城を目指す。そして私達は目的の地、ウルス国にやってきた。魔王の住まう土地だ。

 

「ご主人様……レオナール様から呼び出しの手紙が届きました」

 ティンクが教えてくれたので、私は仲間を残し一旦離脱した。レオナール様に想いが届けば、魔王も倒せるかも知れない。そう思いながら……。


 場所はお馴染みの人気のない荒野だ。転移してレオナール様を待つ。すると紅い前合わせの派手な着物を着たレオナール様が現れた。こんな格好も似合うのかと、ついつい頬を赤らめる。


 だがレオナール様からは相変わらずの容赦ない婚約破棄の言葉が下される。


「……では勝負を」

 私の言葉はいつも同じだ。

 レオナール様は頷き、私は天へと祈りを捧げる。呼び出すのは天界の神!周囲に浄らかな気配が漂う。最高神を降臨させて私の実力を認めて頂く!

 だがその思いで呼び出した天界の神は、レオナール様の手によって、あっという間に天へと戻った。


「まだまだだな……」

 レオナール様の一言が私の心を穿つ。私ではまだ足手纏いだと言う事だ。大地にうなだれる私にレオナール様の一言が下される。


「さようなら」

 私は泣いた。もうこれ以上どうすれば強くなれるか分からない。レオナール様との明日が見えない。

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