高校二年生
自転車部発足
新学期になって、美里に自転車の指導をしてほしいという新入生が二人現れた。
身長も大きくなく、バスケより自転車の方に自分の可能性を感じている。自分で色々調べて、美里の事を知った。
スポーツ少女らしく、ショートカットで何にでも真剣に取り組む真面目な頑張り屋さんだ。
自転車部を作ってほしい、作れないなら個人的に指導してもらいたいと、やる気満々の様子で美里に懇願した。
華の両親は自転車の大会で知り合い、結ばれたのだった。
小学生の頃は家族で大会に行くのを楽しみにしていた華だったが、中学生になるとクラブチームに入れられた。キツい練習はあまり好きじゃなかったが、両親の方が熱心で、道具も高価な物を揃えてくれるので、その期待に応えないとという気持ちが強かった。
父親が美里の情報を手に入れて、桜蕾学園への進学を薦めたのだった。
華は美人で痩せ型。大人しくて自己主張しないタイプだ。
高校で自転車をやりたいという気持ちも特になかったが、他に特にやりたい事もなかったので父親の薦めに従った。
また、自分は走りたくはないけれど、もしも自転車部が出来たらマネージャーをやりたいという娘がいた。
名前は
一花は同学年の
紅葉は小学生の時に一緒にBMXに乗り、一番仲良しだった子で、この二人組は華があり、チャラくてカッコいい人気者だった。BMXは中学一年の時に一花がやめると、すぐに紅葉もやめてしまった。
紅葉は才能があったけれど、日々を楽しく過ごしたかっただけという感じでBMXに特に執着は無かった。
お金持ちのお家でスポーツは好きだったから、BMXをやめてからもテニススクールに通ったり、スイミングクラブに通ったりしている。
部活動は根性もののイメージがあって敬遠していた紅葉だったが、一花の話を聞いて、また一緒に楽しく自転車に乗れるなら、それもいいなと考えた。
こうして一花とマネージャー志望の子を入れて五人集まれそうになったので、美里は各々と個人面接をする事にした。
個人的な小さな目標と大きな目標、もしも部を作ったらどういう部にしたいか、という事を聞いた。
やる気満々なのは道穂ただ一人といった感じだ。高校生活は自転車に全て懸けてみたいし、インターハイで優勝したいと言った。将来はツールに出場できるような選手になりたいとの事。
部活動ではチーム一丸となって目標に向かっていくような感じに憧れている。美里先生の元で絶対に頑張りたいと、強い意志を見せた。
華は自分からあまり話そうとしない。両親を喜ばせたいから大会では良い成績を残したい。根性練習はあまり好きじゃないので、効率的に強くなれるような指導を受けられたら嬉しいと言っていた。
紅葉は、また一花と一緒に楽しく自転車に乗れたら嬉しいと言った。小学生の時のように、楽しく自転車に乗って、大会も成績を求めるより楽しみたいらしい。
目標も楽しむ事、とはっきりしている。
一花も紅葉と同じような事を言った。「チャラい自転車部」にしたいと。でもただチャラいだけじゃなくてカッコいいを伴いたいんだと。
部を作って、みんなで楽しめたらいいけど、成績を求めてストイックにやりたい子がいたら、そういう子達と上手く一緒に出来るか分からない。目指すものが違ってお互いが嫌な気持ちになるなら自転車部は作らない方がいいと思う、と言った。
それは美里が考えている事と同じだ。この四人を選手として同じ方向に向かわせるというのには無理があると感じている。
やはり自転車部なんて作らない方が良いんじゃないかと美里は思い始めていた。
マネージャー志望の結奈にも同じように面接をした。
中学校を卒業したばかりなのに、こんなにしっかりと物事を考えられる娘がいる事に美里は驚いた。
結奈はツールファムをテレビで観て衝撃を受けたらしい。それまでは全く自転車レースの事も知らなかったけれど、こんなに激しくて過酷な事をやっているのが、美しい女性達で、すごくイキイキとしていてカッコいいと感動した。
すごく興味を持って少しずつ調べていくうちにロードレースの事をもっともっと知りたくなって、何か関わりたいと強く思った。
そんな風に言っていた。
「マネージャーって、どんな事をやりたいの?」
美里が尋ねると「何でもいいんです」と即答した。
「雑用は何でもやるし、チーム員がやってほしいと望む事を出来るだけやりたい。その中で色んな事を学びたい。部活動の時間で私がやる事がない時は、自転車の本を読んだりビデオを観たりして自分なりに勉強したいと思ってます」
美里は思い切って実情を話してみる事にした。
「今、自転車部に入る可能性のある四人を同じ方向に向かわせる事は困難だと思うの。目標が大きくて結果を求めたい娘、親の方が熱心な娘、とにかく楽しく乗りたいと思ってる娘、チャラくカッコよく走りたい娘‥‥‥。
目指すものがバラバラな者達が活動を共にしても、あまり良い事はないと思わない?」
結奈ははっきりと答えた。
「私、それでいいと思います。自転車っていう共通のものがあるんだから、目指すものはバラバラで、一緒に活動しなくても、何か一つ繋がっているものを持てればいいんじゃないかと思います。
私自身、走りたいと思わないし、皆と行動を共にする事は少ないかもしれないけど、繋がってる部分があれば、一人では分からない事、学べる事が色々あると思うんです。
何が出来るかわからないけど、何かやりたいって思っている人達が集まるんだから、みんなでこれから作っていけばいいんじゃないかと思うんです」
美里は「やられた」と思った。
「私じゃなくて、貴方が先生みたいね。素晴らしい考えだね。何か出来そうな気がしてきた。ありがとう」
素直にそんな言葉が出た。
美里は自転車部を作る事を実現する為に具体的に色々と考え、準備し、『桜蕾学園JK自転車部』が発足する運びとなった。
美里が度々訪れるバイクショップ(一花がウェアーを買ったお店)の店長である
顧問
マネージャー
選手
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