第三話 魔女と呼ばれた少女たち
会合
◎
魔女が
人々の心を
♮
私は白い色が好き。
何にも染められていない、何にでもなれる色。
純粋で清潔、そして神聖な色。
だから、私たち福音派の神官服は白を基調にしたもの。
私の下に集まった面々はみんな、制服風の白い衣装に喜んで袖を通してくれた。
でも知ってる?
白は二百近く、またはそれ以上の種類があるんだって。
あなたが見ている白はどんな色ですか?
……少し哲学の話をしましょうか。
私の見ている色や景色。
あなたが見ている色や景色。
それは同一だと思いますか?
意識や感覚とは違うこの現象を『クオリア』と言います。
物事の体験に対する質感、というのが言葉の意味に近いでしょうか。
とはいえ、私たちが同じものを共有していることを確かめる方法はありません。
私とあなたはきちんと意識を持って対話しているのか。
それとも、意識を持った人のように振る舞っている何ものなのか。
――私は白い色が嫌い。
不快で薄汚れた、もう何にもなれない色。
気持ち悪くて生臭い、私の心と
あの日から……私の心は透明になった。
だから、私に関わった全ての人の心を『
広くて深い、大海に
私自身も無垢で綺麗だった、あの頃のように白く着飾って。
それから私は――魔女から聖女と呼ばれるようになった。
福音派の司祭やシスター、信徒たちに私の生い立ちを知るものはもういない。
『聖なる教』の巫女神官筆頭アルスメリアが唱える言葉にこんなものがある。
『大いなる主と信仰の下、巫女神官に対する
私はその言葉の意味を自分なりに解釈し、実践した。
そして、いずれは私が『聖なる教』の巫女神官筆頭となる。
私の下に集まった面々はみんな、私と同じ景色を見てくれているのでしょうか。
❖
南西部の東側、その最奥に位置するスラムにある古い洋館。
そこは福音派にとって重要な拠点で、あたしたちは会合を開いていた。
この場にいる福音派巫女神官は自分を含めて五人。
宗教国家は7つの街から構成されるから、本当なら七人揃わなくてはいけない。
けれど、一人は現在行方不明。
もう一人は候補すら見つかっていない。
おまけに、みんな呑気な雰囲気でなんだか頼りないし。
それぞれどんな特徴のある
三十メートルある金色の狼は大きな牙と爪を持ち、蛇腹状の尾の先は矢じりのように鋭い。
口からは高出力のレーザーブレスまで出せる。
身体中に巻きついた頑丈な鎖はまるで、神話に登場する
あたしは南西部を担当予定の福音派五位巫女神官、アニエスルージュ。
今年で十歳になる。身長は130cm。
みんなより歳も身長も一番下だ。
でも、これからいっぱい食べれば成長するから気にしていない。
特技は歌とダンス。
街のみんなを元気づけられるアイドルになりたくて、広場でライヴをしたりする。
巫女神官を目指したのは、その方が目立つからだ。
話題性もあるし他の子とも差をつけられると思うんだよね。
会合に遅れてやってきたリリアナヴェールは、中央の席に座るとあたしたちを見渡した。
彼女は白く長い髪に赤い目をしていて儚い印象を受ける。
「……それでは今後の動向について話しをします。まずは各自、それぞれの担当予定地域へ潜伏してください。福音派三位巫女神官リエルテンシアの捜索は後回しです。現役巫女神官の襲撃が失敗した以上、街の警戒は厳しくなるでしょうから」
南西部の五位巫女神官パフィーリア。
街のみんなから持て
あたしが闘うべき相手。
不意打ちとはいえ、簡単に倒されてはつまらない。
そう。あの子はあたしが打ち負かすのだ。
あんな害虫みたいな
華やかな南西部都市にはピッタリだ!
と、そこで福音派七位巫女神官イベリスニールが口を挟む。
「わたしは、現在この街に滞在しているお姉様に同行を続け、正統派の動きを監視します」
リリは静かに頷く。
そうだ。この街には七位巫女神官ラクリマリアが来ているみたい。
他の敵にはあまり興味はないけど、パフィーリアとの前哨戦として一戦交えるのも悪くないかな〜。
「くれぐれも正統派あるいは原理主義派を刺激する勝手な行動は控えてください」
あ、釘を差された。
でもまぁ、この街はじきにあたしのモノになるわけだし、少しくらいならいいよね!
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