暗躍
♮
南西部都市。
それは宗教国家を構成する7つの街の中で3番目に大きな都市でもある。
服飾の都とも呼ばれるように、縫製業や針仕事によって発展した街。
化粧品やアクセサリーも毎年新作が出され、流行りに乗る女性たちから絶大な支持と人気を誇っている。
けれど、宗教的な面では大きな問題を抱えていた。
宗派分裂を起こして街を東西で二分化し、『聖なる教』の原理主義派と福音派が衝突を繰り返す事態に陥っているのだ。
私は南西部の東側、その最奥に位置するスラムの一画を歩く。
ここは完全に福音派の管理化にあり、原理主義派の圧力から逃れた人たちが流れ着く場所だった。
薄汚れた雰囲気の中で、一際異彩を放つ建物が目に入る。
古い洋館を教会施設に改装したもので、私たち福音派の重要な拠点だ。
洋館に足を踏み入れると、スラムの雰囲気から一転して綺羅びやかな内装に目を奪われる。
そしてゆっくりとした足取りで客間へ向かい、扉を開く。
「あ。やっと来た。リリ、遅いよ〜!」
そんな声をかけられた。
部屋の中には四人の少女が長いテーブルに並んで座っていて、それぞれ後ろに黒尽くめの男たちを控えさせている。
「すみません。少々回り道をしていました」
自らを含め、五人の少女は福音派に擁立された巫女神官で、すでに
私は彼女たちを一瞥し、名前と役割を心の中で
改めて、私はリリアナヴェール。
福音派巫女神官、その筆頭です。
透明なクラゲ型の異形の
宗教国家の北部都市にいる、現在の巫女神官筆頭アルスメリアをその座から引きずり落とすのを使命としています。
それでは、テーブルに座っている四人の少女は右から順に。
貴族のお嬢様で縦ロールの髪型、福音派二位巫女神官ルミナスフィール。
貴族の集まる東部都市に実家があるらしい。
彼女は優雅なしぐさと澄まし顔で紅茶をたしなんでいる。
次は……テーブルに突っ伏して居眠り中、福音派四位巫女神官ミルファーファ。
北西部の四位巫女神官ヒルドアリアと事を構えるはずなんだけど、大丈夫かな……。
ブランケットと枕を用意する周到さで怠惰極まりません。
その隣は先ほど私に声をかけた少女で、福音派五位巫女神官アニエスルージュ。
ここ南西部の巫女神官パフィーリアに代わって担当することになっている。
パーカー姿の彼女はテーブルに足を乗せていて行儀が悪い。
というかスカートもタイツすら履いていないじゃないですか。パンツが見えますよ、それ。
そして四人目は年長で大人な美貌を持つ、福音派七位巫女神官イベリスニール。
彼女はなんと現在の七位巫女神官ラクリマリアの補佐官を務めているようです。
「リリアナさん。アニエスの言う通りですよ。わたしもラクリマお姉様の付き添いを放ってまでこの場に来ているのです。早く話を進めましょう」
――私はなんだか無性に頭が痛くなり、こめかみに手を添えました。
すると、アニエスルージュがまた口を開きます。
「そういえば、リエルっちがまだ来てないんだけど~」
「リエルテンシアは先日の任務からまだ帰還していません。同時に補佐官の死も確認されました」
福音派三位巫女神官リエルテンシア。
南東部に潜伏し、管轄のクランフェリアと成り替わるはずでした。
しかし、三位巫女神官の
単騎で正面から戦うことは無謀だと言わざるを得ないでしょう。
と、そこで紅茶を飲んでいたルミナスフィールが反応します。
「まぁ!それは大問題ですわっ!今すぐ安否を確認すべきですっ!万が一に捕らわれの身にでもなって居ようものなら……いやぁああ、わたくしの口からはとても言えませんわぁぁああ!?!?」
うるさいですね……。
お嬢様ってこんなに声を張らないといけない決まりでもあるんでしょうか?
「うぅうん……もうおなかいっぱいですよお……あ、でもお好み焼きは飲み物ですから、まだいけますぅ……」
よくわからない寝言を吐くミルファーファさん。
そろそろ叩き起こしたほうが良いでしょうか。
「ほらほら、あんたたち!リリが困った顔してるよ。いい加減にちゃんと話し合いするよ!」
そう言ったのは最年少のアニエスルージュ。
その言葉を待っていましたよ。
「……あたしもはやく終わらせて、ライヴのためのレッスンに行きたいんだから!」
……前言撤回します。本当に大丈夫でしょうか、この人たち……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます