不幸を招き入れ、不幸を背負いながら生きた信子の死

@nukatosi

第1話 老女、信子の死


 寒さが身に染みる二月の初め、東京からほど近い埼玉県のとある街の住宅街、昼食の時間なる少し前であった。

 突然、パトカーと救急車のサイレンがけたたましく鳴り響いた。

 パトカーと救急車は駅から歩いて五分程の商店街を過ぎた付近に来るとサイレンを消し、路地入って行き二階建ての古い一軒家の前で止まった。

 この 辺りは年寄りのいる家族が多く、救急車の周りには暇を持て余している年寄りが昼食も取らずに集まってきて、何事が起こったのかと心配そうに家の中を覗きながらひそひそ話しをしていた。

 たまたま近くに取材に来ていた○○新聞の記者山本は事件発生かと駆け寄り、年寄りの集団に首を突っ込み話を聞いていると、隣に住んでいるという話好きの叔母さんが記者の山本に近付いて来ると話しかけて来た。

 「私の幼馴染が玄関に通じる廊下で壮絶な姿で倒れていたのよ、驚いて班長さんに来てもらって救急車を呼んだの。動いていなかったから亡くなっていると思うわ」

 山本は壮絶な姿? と聞いてどんな様子だったか尋ねた。

 「怖くてよく見られなかったわ」と言って手振り身振りを交えながら話し始めた。

 「玄関に向かって四つん這いの状態で倒れていたの。右手を玄関の方に伸ばし床をひっかくように指を曲げていたわ。 左手は顎の下に置き、顔は玄関のほうを向いて目は大きく開き、上目づかいで私を見ていたわ。 口は叫ぶように大きく開き、歯をむき出して汚物が垂れていたみたい」

 と言うと、項垂れながら更に話を付け加えた。

 「信子はね、不幸を自ら招き入れ、不幸を背負いながら生きて来た、可哀そうな女性よ!・・・きっと苦しんで死んだのよ!」


 山本は叔母さんの話から、記者の第六感で記事のネタになると思い更に取材したくなっていたが、午後から予約してある取材があるため切り上げることにした。

 隣の叔母さんには再度取材がしたいことを告げ、次の日の午後一時に予約を取り、了承を取った.


 次の日、山本は隣の叔母さんと約束した取材に行く前に、埼玉県警の知り合いの刑事の所に行き、信子の死体の検死結果と事件性について聴取した。

 死亡の直接の原因は不詳であったが、事件性は無かったとの事で、通常の死亡で処理してあるとの事だった。


 山本は更に隣の叔母さんから聞いた信子の死様の話をすると、刑事は笑いながら言った。

 「そうかなあ? 僕には信子の死様は苦しんでいるように見えなかったよ、むしろ上を見つめ微笑んでいる様に見えたよ」と叔母さんが見た死様と違った見解であった。

 

 刑事は更に、何かの参考になるかな?と言って、信子の家の茶の間に置いてあったと言う日記帳を持って来ると、山本に日記帳を見せてくれた。


 日記帳には一月の中頃から四日程下記のような内容が書かれてあった。


 一月十五日 電気が切られてしまい、電気炬燵が温まらず寒い。好きなテレビも見            られず何もする事もなく時間が経つのが遅い。灯油も無くなり、石油ストーブも付けられない。

 一月十六日 寒い、寒い、寒くて眠れず、死にそうだ。灯油を入れて貰うように頼みに行こう。腰痛で歩いて行けるかな。

 一月十七日 灯油がまだ来ない。このままでは寒くて本当に死んでしまう。

 一月十八日 寒くて寝られなかった、時間が経つのが遅く身体が冷たく、震えが来てこのまま死ぬのかと思った。昼頃に灯油が来た、助かったと思った。


 山本は日記を見て内容に驚き、不幸で可哀そうな老女だと思ったが、刑事から信子の死様は微笑であったと聞き、信子の人生は本当に峰子か言うように不幸だったのか疑問が生じており記者魂に火が付いていた。信子の死に至る迄の生活の内容と生い立ちがどのようなもので合ったのか?を無性に知りたくなっていた。

  


 



 

 

 

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