第5話 エルフの村はなぜ燃えた?

 翌日のことだった。


 ミネアたちのいる保険調査室に、新たな現地調査依頼が舞い込んできた。バネットとミネアに、室長が内容を説明する。


「3日前のことだけど。東の森の中にあるエルフの村で大規模な火災があったのは知ってるかい?」


「ああ。村全体が焼ける大きな火事だったけど、死傷者は1人もいなかったっていう話でしたね」


 バネットが答えると、室長は静かに頷いた。


「そう。そのエルフの村なんだけど、実はうちの火災保険に加入していたんだよ。そこで君たちには現地に行ってもらい、被害状況や不審な点がないかなど調べてきて欲しいんだ」


 話を聞いてミネアは目を輝かせた。


「火災現場の調査ですか? 面白そうですね!」


「馬鹿野郎ッ! 遊びに行くんじゃねえんだぞ!」


 バネットが、恐い目でジロリと睨む。ミネアは、小声で「すみません……」と謝った。バネットは、室長の方に向き直る。


「それで、その村に住んでいたエルフたちは今はどこに?」


「ああ。村人たち47名は、街の外れにある難民キャンプにいるよ。彼らからも事情をよく聞いておいてくれ。現在のところ火元も特定できていないし、詳しいことは分からないんだ」


「分かりました。よし! さっそく行くぞ! 新人!」


 バネットは、そう言うと部屋を出て行こうとする。ミネアは、慌ててその後を追いかけた。


「ちょっと、待ってくださいよー! 先輩!」



 ☆  ☆  ☆



 火事が起きたエルフの村は、ガレサの街の東にある森の中にあった。歩いて4時間ほどの距離だった。


「うわー! 見事に焼けてますねえ。酷いですねえー」


 ミネアは思わず声を漏らした。村の建物は全て焼け落ちていた。そこら中に焦げた跡が広がっている。


 バネットは、周囲をキョロキョロと見渡す。


「うむ。これだけの火災なのに、村人は全員無事で怪我人すらいなかったとは…… 何かにおうな」


「そうですね。まだ焦げ臭いですねえ」


「馬鹿野郎ッ! そういう意味じゃねえ。お前はおかしいと思わないのか? こんな大きな火事だぞ? 普通は死傷者が出てもおかしくないんだ!」


「確かに……」


 村全体が燃えるほどの大火事だ。村人47名が全員無事で怪我人すらいないのは、言われてみればおかしい気もする。


「まあいい。火事の原因を特定しよう……」


 バネットは、背負い袋から水晶玉のようなものを取り出した。ミネアは、不思議そうな顔でそれを見る。


「何ですか? それ」


「これは、魔力感知器だ。簡単に言えば、現場に残った魔力量を感知できるマジックアイテムだ」


 バネットは、そう言うとその水晶玉を持って現場をうろうろと歩きはじめる。ミネアもその後をついて歩いた。


 10分くらいして、バネットはとある場所で立ち止まる。持っていた水晶玉が青白い光を放っていた。


「やはり…… ここに魔力が残っているな……」


「ここは、村長の家の前みたいですね。でも、何で魔力が探知されたんでしょう?」


 ミネアは、村の地図を見ながら首を傾げる。バネットは鋭い目つきで答えた。


「決まってるだろう。誰かが魔術を使って人為的に火災を起こしたんだ。つまり放火だな……」


 その言葉を聞いて、ミネアは驚いて目を丸くする。


「放火って……!? それって事件じゃないですか!?」


「あるいは、村人たちによる自作自演かもな。いずれにしても、村人たちから詳しい話を聞く必要があるな……」


 バネットは、真剣な目つきで腕を組んだ。


 エルフの村で起きた火事。それは、魔術によって人為的に放火された可能性が高い。エルフの村は、燃やされたのだ。しかし、いったい誰が何のために。


 翌日――――


 バネットとミネアは、エルフの村人たちが避難している難民キャンプに向かった。


「先輩。エルフってどういう人たちなんでしょう?」


 道中、ミネアはバネットに尋ねる。


 ガレサの街に住んでいるのは、ほとんどが人間だ。エルフやドワーフといった他の種族はあまり見た事がない。エルフがどういう種族なのか、ミネアはほとんど知らなかった。


「そうだな…… エルフというのは、だいたい3種類に分けられる。森に住む森エルフと山に住む山エルフ。そして、最後は俺たちみたいに街に住む街エルフだ」


「へえー。今回のエルフたちは、森に住んでいたから森エルフっていうことですね」


「エルフっていうのは人間に比べて腕力はないが俊敏に動ける。また、知能が高い者が多く魔力の素養にもけている」


 それを聞いて、ミネアは目を光らせた。昨日、火災現場で魔力が感知されたことを思い出したのだ。


「先輩。それって、つまりエルフの人たちは炎の魔術も使えるってことですよね?」


「理論的にはな。しかし、さっき言った森エルフと山エルフ。彼らは、炎の魔術を覚えることを禁じているんだ。森や山で火災が起きると危険なのをよく知っているからな。だから、炎の魔術を使うエルフと言ったら街エルフの冒険者くらいのはずだがな……」


「じゃあ、あそこで炎の魔術を使ったのは、いったい誰なんでしょう?」


 バネットは、少し黙ってから口を開いた。


「さあな? それは、俺にも分からん。とにかく、これから会うエルフたちにしっかり話を聞くことにしよう」


 話しながら歩いていると、エルフの村人たちが避難している難民キャンプが見えてきた。寄せ集まるようにテントが張ってあるのが見える。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る